第71話〜200度の開脚と、透明な軋み〜
誠也様の法規の授業が終わり、私たちは急いで体操服へと着替えた。この学院の体操服は、着るだけで自尊心を削り取るように設計されている。今日私たちが着ているのは、大きめのTシャツ。上の突起が当たる部分の裏地に羽毛のような繊毛がついており、動くたびに、繊毛が敏感な皮膚を刺激し、そのたびに全神経が強制的に覚醒させられるような屈辱を感じた。襟と袖口には、私のランクを示す深紅色のラインが刻まれている。ブルマーは紺色で、制服と同様に股真ん中にスリットが入っていた。ストレッチやマット運動で足を広げれば、惜しげもなくさらけ出してしまう代物だ。
「今日は時間いっぱい使って、柔軟を行う。あらゆる姿勢が強制されるこの学園において、股関節は200度まで拡げねばならない。手を使わずに自身の肛門を舐められるまで上半身を曲げられるようにならねば、商品としての価値はないと思え」
体育教師、海斗の声が体育館に響く。40代特有の、鍛え上げられた肉体から放たれる威圧感。彼は冷徹な視線で私たちを射抜いた。
「各班、班長を残り全員で柔軟してやれ」
「かしこまりました」
「悲鳴をあげるなど、俺が気に食わない事をすれば、本人ではなく、体育委員である、45番をお仕置きするぞ。柔軟する『家畜』は、その場に座り、足を閉じて伸ばせ」
「かしこまりました」
陽子がまた、暗い悦びに満ちた表情でほくそ笑んでいる。嫌な予感がした。
「よし、そのまま上半身を倒してやれ」
「かしこまりました」
「そのまま30秒キープだ」
私は、光也様に毎日柔軟するよう命じられている。この程度なら、胸が太ももに密着するほど余裕で曲がる。しかし、海斗様の視線は厳しかった。
「……30。上半身を起こし、足を大きく広げろ」
「かしこまりました」
左右の足を陽子と優里の二人掛かりで、力任せに押し広げられた。
「もっと開くでしょ、1番」
陽子が低い声で囁き、さらに力を込める。
「ひっ……あっ、ううう……」
堪えきれず悲鳴をあげると、私ではなく、響が海斗様の竹刀で打たれた。
(本当はこのぐらい余裕なんだけど、いつものお返しよ。ほら、響が叩かれた)
「そのまま30秒キープだ」
「かしこ……まりました」
「あっ……! あっ、あっ、ダメダメダメ、もうダメ、いあっ、うあっ、ういい……ッ!」
(ちょっとわざとらしすぎるかしら。さらさちゃんが笑いをこらえているのが見える)
「……30。上半身を前に倒せ」
「かしこまりました」
班員たちが、一斉に私の背中に体重をかけてくる。
ビシッ!
海斗様の竹刀が床を叩いた。
「抑える側の商品達。手で押すのではなく、背中に乗ってやれ。そのまま30秒キープだ。1、2、3……30。よし、身体を起こして、その場に仰向けになれ」
「かしこ……まり……ました」
身体が悲鳴を上げている。だが、本当の地獄はこれからだった。
「そのまま足を真上に上げろ」
「かしこ……まり……ました」
仰向けのまま上げた足が、陽子の手によって強引に頭の方へと押し倒される。小柄な私は、足が完全に宙に浮いた。体重のすべてが、床に押し付けられたお尻にかかる。左右への過度な開脚のせいでスリットからは隠すべき部位が露出してしまい、羞恥心で全身が火照るのを感じた。
「1番、もっとだ。200度を目指せと言ったはずだぞ」
海斗様が歩み寄り、開いた私の股間に土足のまま足をかけ、さらに外側へと踏みつけた。
「ぎ、あぁぁぁぁ……っ!」
今度は演技ではない、本物の悲鳴が漏れた。その瞬間、響の悲鳴も重なる。響は私の失態のたびに、海斗様から激しい竹刀の洗礼を浴びせられていた。
「響ちゃん……ごめん……っ」
「謝る暇があるなら、その不浄を床に擦り付けろ。ほら、まだ曲がるはずだ」
海斗様は容赦なく私の背中を足で踏みつけ、折り畳むように曲げていく。床に密着した私の顔のすぐ横に、自分の開かれた股間が見えた。
「次はそのまま、足の指を口に咥えろ。自分の身体の柔軟さを主人にアピールする練習だ。できない者は、班員全員を連帯責任で『再教育房』送りだ」
海斗様の冷酷な言葉に、教室中の空気が凍りついた。一時間みっちり続けられるこの柔軟は、もはや運動ではなく、精神と肉体を限界まで引き裂くための儀式だった。




