第6話〜集団の鎖、剥き出しの群れ〜
学院に向かうと、新入生と思われる列が整然と並んでいた。
「緊張しているかい? れいな」
お兄ちゃんはいつも通り穏やかな声で言う。
「今日は学院の説明と、色々な検査、それから入寮だけだ。心配はいらない。すまないが、オリエンテーション準備の最終確認がある。ここからは一人で行ってくれ。この列に並べばいい」
そう言って、お兄ちゃんは私の頭を軽く撫でると、列の前方へ歩いていった。
一人残された私は、指示通り列に並ぶ。列が進むにつれて、静かだったはずの場所にビシッ、バシッ、という乾いた音が響き始めた。昨日、蒼空に『躾』された時に聞いた、あの音だ。
胸の奥がざわつき、激しい動悸がする。列の先頭が見えた瞬間、私は足を止めかけた。
そこでは、新入生が一人ずつ『服装検査』を受けていた。服装をチェックされた後、犬のような首輪を付けられている。抵抗した子は、蒼空が使っていたものより少し短い『木製の定規』で叩かれていた。
(やばい……目眩がする。でも、倒れちゃダメだ。お兄ちゃんと約束したんだから)
「お前、顔色が悪いな。体調でも悪いのか?」
私の番になり、お兄ちゃんによく似た男の人に問われた。昨日の光景が脳裏に蘇り、消えてくれない。けれど、ここで弱みを見せたくはなかった。
「いえ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「そうか。体調管理は家畜の基本だ。今日は従順な態度に免じて許してやる。名前は?」
「春夏秋冬れいなと申します」
「……こいつか。れいな、オリエンテーション中は俺がお前を『躾』てやる。全員の服装検査が終わるまで、手を頭の後ろで組み、足を肩幅の一・五倍ほどに開いて、腰を落とした姿勢でそこに立っていろ」
命じられたのは、あまりに屈辱的で、体力を削る姿勢だった。
「かしこまりました」
「時弥、首輪とリードを着けてやったら、れいなの監視に付け。姿勢を崩したら手加減しなくていい」
「はい」
時弥と呼ばれた補助の男子学生に、重々しい首輪を嵌められる。カチリ、と錠が下りる音が、私の自由が消えた合図のように聞こえた。
最後の一人になる頃には、気分が悪くなっていた。目の前で同級生たちが次々と叩き伏せられる光景に、精神が削られていく。その時、ビシッという鋭い痛みがお尻に走った。
「姿勢が崩れている。戻せ」
「……っ、申し訳ございません」
背後に立つ時弥の冷徹な声に、私は震える足で再び腰を落とした。
「姿勢を崩していい。ついてこい」
全員の検査が終わると、服装検査をしていた男にリードを引かれた。私は転びそうになりながら、強引に連れられていく。
「俺は琉雅院要だ。一組の担任をすることとなった。お前たちはこれから『最高の淑女』としての躾を受ける。お前たちに付けた首輪はランクによって色分けされ、あらゆる情報が登録されている。GPS機能も付いているからな、逃げようなんて思うなよ。……さて、学院では十分前行動が基本だ。お前たちは服装検査に時間をかけすぎた。よって罰を与える。オリエンテーション中、下着の着用を禁止する。脱いだ衣類はすべて規定の手順で収納しろ」
やっぱり、この人も琉雅院家の人だった。
私は急いで服を脱ぎ始めた。だが、全裸になった瞬間、またお尻に鋭い痛みが走った。驚いて振り返ると、時弥が『木製定規』を手に立っていた。
「全裸になれと命令したはずだ。なぜ、れいな以外はまだ服を着ている? ……今から十秒経つごとに、れいなを定規で叩く」
(ちょっと待って、なんでそうなるの!?)
他の子たちは恥ずかしさに震え、動こうとしない。
「十秒経過」
ビシッ!
「あぁっ……!」
容赦ない衝撃が走る。数人が慌てて脱ぎ始めたが、まだ全員ではない。
「お前たちには思いやりというものがないようだな。よろしい。十秒以内に脱げなかった者は、教師と最上級生が引きずり下ろした後、定規でケツを叩いてやる」
その宣言に、全員が悲鳴のような声を上げて服を脱ぎ捨てた。
最初から脱いでよ。私のお尻、もう痛いのに。
「では次の過程に移る。検査は項目が多いため、クラスごとに行う。……春夏秋冬れいな、一組」
ついてない。よりによって、一番恐ろしいこの男のクラスだなんて。
「学院外へ移動する際は、必ず教師か最上級生の監視の下、後ろ手で拘束する規定がある。整列して手を後ろに組め。……れいな、先頭へ」
「かしこまりました、要様」
一人ずつ手錠をかけられ、私たちは一本の鎖のように繋がれた。
「では、移動する」
先頭に立たされた私は、リードを引かれるまま、全裸の群れを引き連れて歩き出した。




