第67話〜歴史、この国の成り立ちと鎖の起源〜
今日の1時間目は社会だ。
私たちはあの廊下と、階段のギミックを必死にクリアし、なんとかホームルーム教室へと辿り着いた。下足場に着いた際、私たちの安全保障のためという名目で手錠だけは外されたが、班員全員を繋ぐ『親鎖』は、依然として級長である私の手に握られたままだ。
「みんな、よく耐えたわ……。『親鎖』を外すから、早く着席して」
私は、震える手で班員の鎖を解き、彼女たちを席へと促した。
「『商品』の諸君、おはよう」
「おはようございます、冬弥様」
「全員揃っているようだな。では、授業を始める。昨日は『世界の奴隷』について学んだが、今日は『この国の奴隷』の変遷について教えていく。ノートを取り、自分たちの立場を脳髄に叩き込め」
「この国の奴隷制度の始まりは諸説あるが、紀元前10世紀頃から900年頃まで『奴婢』と呼ばれる階級が存在した。彼らは婚姻や転居の自由こそなかったが、平民の3分の1の田畑を与えられ、ある程度の財産を持つことも許されていた。さらに高齢になれば自由の身になれるという救済措置もあったのだ。この制度は社会の安定と共に一度は廃止された」
(昨日習った世界の奴隷たちより、ずっと人間らしい扱いをされていたのね……)
私は、教科書に書かれたかつての奴隷たちの待遇に、皮肉にも少しだけ安堵してしまった。だが、冬弥様の次の言葉が、その淡い希望を打ち砕く。
「こうして一度は消えた制度だが、1986年頃、社会の混迷と共に、見目の良い『牝』や『子供』を商品とする人身売買が再び蔓延し始めた」
(……これが、この学院の、私たちの地獄の始まりなの?)
「その後、1600年頃には重罪人とその家族を『奴隷』とする法律が整備され、そして――お前たちも知っての通り、1945年の『万国秩序再編大戦』勝利を契機に『識別カード』の配布が決定したわけだ」
『識別カード』。
それは、私たちがこの学園に引きずり込まれる決定打となった、運命のカード。もし、このカードが存在しなかったら。私は今も、お母さんと温かい食卓を囲んでいただろうか。……でも、そうしたら、私はお兄ちゃんには出会えていなかった。
(どっちが、幸せだったんだろう……)
不意に、心の奥底でパキリと何かが欠ける音がした。
その乾いた音と重なるように、1時間目の終わりを告げるチャイムが冷たく鳴り響いた。
「今日の授業はここまでだ。明日は『五大貴族』の成り立ちについて教える」




