第65話〜廃棄処分へのプレリュード、家畜の完成〜
「1番、気分はどうですか?」
真冬様の冷ややかな声が、私の自室に響く。
「はい。……薬のせいか、ひどく眠いです。私は、いよいよ『廃棄処分』されるのですね……」
真冬様はふふ、と喉を鳴らして笑った。その笑顔には、常に毒のような冷たさが混じっている。
「まだですよ、1番。あなたが飲んだのはただの栄養剤。眠気は脳が『バグ』を起こしているだけです。廃棄処分されるなんて、可愛い勘違いですね」
(良かった……。まだ、お兄様のそばにいられる。駒でも、愛玩用の家具でもいい。私は、お兄様の側にいたい……)
安堵で胸を撫で下ろす私を無視して、真冬様は淡々と命じる。
「ですが、準備は始めましょう。明日からは、これと同じ薬を夕食後、大和の目の前で飲みなさい。彼には栄養状態が悪いためだと伝えておきます。良いですね?」
「かしこまりました」
真冬様は薬を自分の口に含み、そのまま私に口移しで飲ませた。喉を通る冷たい感触に、言いようのない屈辱が込み上げる。
「ちゃんと飲めたか確認します。大きく口を開けなさい。……それとも、無理やり開かれる方が好みですか?」
真冬様が竹製の指揮棒を指先で遊ばせ、私の顎を強く掴み上げる。抵抗など許されない。私は自ら口を大きく開き、従順さを演じるしかなかった。
「よくできました。さて、1番。調律の時間です。制服にシワが寄るのも不愉快ですから、その体操着とブルマーに着替えなさい」
クローゼットからそれらを取り出し、セーラー服のファスナーに手をかける。早く隠したいという本能と、真冬様に見せるためにゆっくりと行わなければならないという理性がぶつかり合う。真冬様の執拗な視線を全身に浴びながら、私は屈辱を塗りつぶすように着替えを済ませた。
「よろしい。さらに家畜らしい身体になりましたね」
指揮棒の先が、体操着の上から、由羅様に付けられた醜い痕をなぞる。ぞわりと背筋を悪寒が駆け抜けた。
「大好きなお兄様以外の男にこんな痕を付けられ、その姿を見られた感想はいかかです?」
問われ、私は自身の醜さを突きつけられる。
「はい。……私は人間ではなく……ただの『家畜』なのだと……そう認識せざるを得なくて……」
声が震える。恥ずかしくて、どうしようもなく悔しい。なのに、この管理され、指図される状況に、どこか安堵してしまっている自分がいる。その矛盾に吐き気がした。
「恥ずかしくて……悔しいのに……どこか嬉しくて……自分でも、変な感じです……」
「ふふ。……『完成』はもうすぐですね。ご褒美をあげましょう」
真冬様は私のリードを引き寄せると、壁のフックに私の身体を固定した。つま先立ちを強いられ、抗うこともできない姿勢。
「朝まで、電流を流し続けてあげます。わたくしが迎えに来た時、あなたは一体どうなっているのでしょうね?……おやすみなさいませ、れいなお嬢様」
冷たい言葉を残し、真冬様は部屋を出て行った。
身体を駆け抜ける電流の苦痛と、自分がただの『家畜』として完成していく実感が、暗い部屋の中で静かに混ざり合っていく。




