第64話〜椅子への堕落、慈悲なき調整の始まり〜
「凜人、食事中に入室してすまないな。権力に興味のない俺の代わりに当主になったお前に、贈り物をしようと思ってな。『商品管理』もろくにできないゴミだが、『座り心地のいい椅子』にはなるだろう。受け取ってくれるか?」
理事長室へ第一拘束姿勢で運び込まれた私を、由羅様は無造作に放り出した。部屋には、お兄様である凜人様を筆頭に、光也様、そして真冬様の姿があった。数人のメイドが静かに給仕を続けている。
「助かるよ、兄上。この椅子、そろそろ買い替えようと思っていたんだ。どうどうにも最近座り心地が良くなくてね。ダイエットさせすぎたかな」
お兄様が座っている椅子――それは、オリエンテーションの時に連れていた『れな』だった。彼女は四つん這いになり、その背中にお兄様を乗せているが、その表情は虚ろで、かつての生気は微塵も感じられない。
「1番、そこへ」
お兄様の冷たい命令が飛ぶ。大和に拘束されたままの私は、這いずるようにしてお兄様の足元へ向かうと、お兄様は『れな』を蹴退し、私の背中に腰を下ろした。先程の懲罰で腫れ上がったお尻に、お兄様の体重が容赦なくのしかかる。
「んっ……ぁ……っ」
「声が漏れているぞ。誰が喋って良いと言った?」
お兄様は私の背中の上で優雅にワインを傾ける。私は人間としての尊厳を奪われ、文字通り『家具』へと成り下がっていた。食事を楽しむ人々の会話が頭上を通り過ぎていく。私には、空腹を感じる権利すら与えられていない。
沈黙を守っていた真冬様が、静かにナイフを置いた。その瞳が、私を射抜くように見つめる。
「凜人様、1番はまだ反省が足りないように見受けられます。わたくしに1番の懲罰をお任せくださいませんか? もっと座り心地のいい『椅子』に仕上げてみせましょう」
真冬様の提案に、お兄様は満足げに口角を上げた。
「いいだろう。お前の『調整』なら信頼できる。好きにするがいい」
「ありがとうございます。……大和、貴方は今日はもう下がりなさい。ここからはわたくしが引き受けます」
「承知いたしました」
大和が退室し、部屋には龍雅院の者たちだけが残された。真冬様は私の首に繋がれたリードを手に取ると、第一拘束姿勢のままの私を、力強く引き寄せた。
「さあ、行きましょうか。お前の『居場所』へ」
真冬様の冷たく、それでいてどこか熱を帯びた声が耳元で囁かれる。リードを引かれるまま、私は自分の部屋へと連行されていく。一日の終わりを告げるはずの夜は、真冬様による、より深い絶望への『プレリュード』に過ぎなかった。




