第53話〜淑女養成学院の法規、跪き感謝を捧げよ〜
由羅様が手元のタイマーを静かに止めた。非情な電子音が教室に響き渡る。
「……時間切れだ。179番、180番。教本の配布が10秒遅れた。そして委員長、1番。お前の管理不足だ。前に出て黒板に手を付き、ケツを突き出せ」
「かしこまりました」
私が指定された姿勢をとると、由羅様が冷たく言い放った。
「宣告通り、竹製の指揮棒で5発叩いてやる」
由羅様が振りおろすと、パンッと空気を切り裂くような乾いた音が教室に響渡った。竹がしなり、私のおしりに鋭い痛みが広がる。それは表面だけでなくその下の筋肉まで広がるような痛みだった。
それを教卓の横で、陽子が口角をわずかに上げて鼻で笑いながら見ていた。あっ。わざとだ。あいつは、私を打たせるためにわざとゆっくり動いたのだ。優里は教本を抱えたまま、青ざめてガタガタと震えている。
「1番。戻れ。ここからは法規の担当に引き継ぐ。藤堂、始めろ」
「畏まりました。由羅様」
由羅様と入れ替わりで教卓に立ったのは、背筋を真っ直ぐに伸ばした初老の男性だった。白髪を完璧に整え、燕尾服に似た漆黒の教員服を纏っている。
「初めまして、『新商品』の皆さん。本学園にて『法規』を担当いたします、藤堂誠也と申します。以前は龍雅院家にて執事を務めておりました。……以後、お見知りおきを」
声は穏やかで、商品である私たちに対しても丁寧な口調を崩さない。だが、その瞳の奥には、長年支配層に仕えてきた者特有の、冷徹なまでの厳格さが宿っていた。
「さて。まずは遅刻の『躾』から始めましょうか。法規の授業では、お仕置きの際に守るべき礼法がございます。私に許可を求め、そして感謝を述べなさい。委員長、1番。見本を見せていただけますか」
私は竹の痛みに翻弄される身体を必死に支え、教卓の前で跪いた。
「……班員の管理を怠った、愚かな私をどうか躾直してください、お願い致します、誠也様」
「良いでしょう。そうですね、私はこれで叩いてあげましょう」
屈辱で顔が焼け付くようだ。誠也様は静かに頷くと、『出席簿』を手に取った。
パンッッ、と空気を切り裂く鋭い音が5回。
「ひぐっ、あ、ぁああ!!」
お尻に走る焼けるような激痛。間髪入れずに打ち込まれる衝撃に、私は悶絶した。だが、儀式はまだ終わらない。
「……躾て、くださり……ありがとう、ございます……誠也様」
「よろしい。179番、180番も同様に。……不慣れなようですので、お二人は10発ずつ差し上げましょう」
陽子と優里の悲鳴が教室に木霊する。あの不敵な笑みを浮かべていた陽子も、ただ涙を流して感謝の言葉を絞り出すしかなかった。
全員が席に着くと、誠也様は静かに教本を開いた。
「では、授業を開始いたします。今週の課題は、本学園の校則をすべて暗唱できるようになること。来週、テストを行います。……まずは重要な項目から」
ガラスの机の上に置かれた教本には、目を疑うような内容が記されていた。
《授業中》
一、生徒は教師に指名された場合、すみやかに起立し、教師の指示に従わなければならない。
二、指名されたら、自分の意志で席に着くことは許されず、教師の指示を全て行うか、もしくは教師が着席を認めるまでは、どのようないたずらがされようとも、立ち続けなければならない。
「1番、起立しなさい。第一項と二項を暗唱しなさい」
誠也様の指名に、私はガタガタと震える膝を叩いて立ち上がった。
「はい。第一項。生徒は教師に指名された場合、すみやかに起立し、教師の指示に従わなければならない」
「第二項、ぁ、は……っ、あぁああ!!」
第二項を暗唱しようとしたその時、首輪に電流が流れた。校則第二項。教師が許すまで、何があっても座ることは許されない。
「……続けなさい。言葉が止まれば、またお仕置きですよ」
誠也様の穏やかな声が、何よりも恐ろしかった。私は目の前が白くなるような快楽と激痛の渦中で、必死に『支配の言葉』を口にし続けた。
「……本日はここまでとしましょう。来週までに、一字一句違わず叩き込んでおくように。委員長、次は『商品』の移動の先導を。2限目は……『衛生美容』です。身だしなみを整えに向かいましょう」
誠也様は一礼して教室を去った。初日の、たった一時間の授業。それだけで、私たちのプライドは無残に切り刻まれていた。




