第4話〜旋律の鎖、偽りのメサイア〜
第4話〜旋律の鎖、偽りのメサイア
「失礼します。お茶を持ってきました……」
炊事場で愛理さんに手渡された、氷のように冷え切った茶碗を手に、私はガタガタと震える足で蒼空さんが待つ部屋へと入った。
「いれなおしてちょうだい。わたくし、『丁度いい温度のお茶』を飲みたかったのよ。このように冷めきった…どころか、氷のように冷えきったお茶など飲めないわ」
「そ、それは愛理さんが…」
『お姉様は、冷たいお茶が好きなのよ』といったからという、言い訳を口にすることすら許されず、私の髪は根元から容赦なく鷲掴みにされ、冷たい床へと叩きつけられる。
「二度とわたくしに逆らおうなどという不遜な考えを持たぬよう、その身体に恐怖を刻んで差し上げます。服を脱ぎなさいな。下着はつけていていいわ」
視界が火花を散らす中、頭をヒールの先で無慈悲に踏みにじられ、服を脱ぎ捨てるよう冷酷な命令が下る。下着姿のまま床を這わされ、蒼空さんの膝の間へと引きずり込まれた私を待っていたのは、『木製の物差し』による猛烈な打撃だった。
「いやぁあああッ!」
ビシッ、バシッ、と空気を切り裂く禍々しい音が部屋に響くたび、私の肌には熱い鉄を押し付けられたような激痛が刻まれていく。十発、二十発。痛みと恐怖で、私の世界のすべてが狂わされていく。
「追加の罰が必要ですわね。……あなたのその卑しい肉体には、もっと相応しい『装い』を施してあげましょう」
「いやっ、離して……っ!」
「大人しくなさい。その分を弁えない足掻きが、さらなる苦痛を招くのです」
蒼空さんは再び、私の髪の毛を掴み、容赦なく浴室へと引きずり込んだ。
冷たいタイルの上で震える私の頭を掴み、氷のような水が張られた浴槽へ、無理やり押し沈める。
「んん――っ! ぐるっ、……ぁ!」
肺が焼けるような苦しみの限界で一瞬だけ引き上げられたかと思えば、再び冷水の中へと沈められる。死の恐怖が脳を完全に支配した頃、ようやく解放された私は、過呼吸気味に喘ぎながら、蒼空さんの問に心にもない嘘の告白を搾り出すしかなかった。
「わたくしにこうして構って欲しかったのでしょう?卑しいでのお前は、『オネダリ』の仕方も知らず、このような愚行に及んだのでしょう?」
「はい……蒼空様に……構って……殺されるくらいに、して欲しかったです……っ!」
「よろしい。素直な子は可愛がって差し上げますわ」
蒼空様の冷酷な指先が、冷水に濡れて肌にぴったりと張り付いた下着の、その最も破廉恥な境界線へと容赦なく押し付けられた。直接触れることすら許されぬまま、水に濡れた衣服の無慈悲な圧力と摩擦、そして屈辱的な言葉によって、誰にも触れられたことのなかった私の純潔のプライドは、泥沼のように徹底的に掻き回されていく。
「あぁっ……! あ、あぁ……っ、ひぅ、……っ!!」
衣服の上からの強烈な刺激と羞恥に、私の身体は自分の意志に反して淫らに熱を帯びてしまう。その事実が、何よりも恐ろしくて絶望的だった。その時、部屋の扉が静かに開かれた。
「蒼空、そこまでだ。それ以上はれいなの身体がもたない」
「……凜人、さん……?」
地獄の底、真っ暗闇の中で響いた、聞き覚えのある優しい声音。
「あら? お兄様、いらしてたのですか? 行儀が悪いですわよ」
「声ならかけた。聞こえていなかっただけだろう。それより今日はここまでだ。れいな、疲れただろう?今日は特別に僕の部屋で一緒に寝よう。立てるかい」
優しい声音。私を地獄から救い出してくれる、お兄ちゃん……。
「お兄様、何を言ってるのですか?そんな素性も分からない女と同衾するだなんてそんなことお父様が許すわけ...」
「その父上からこの一件を任されているのは俺だ。俺の言うことが聞けないならお前には外れてもらうぞ。それから素性なら分かっている。15年前父上の子を孕んで悪阻が酷く解雇された『女中の娘』だ。つまり俺たちの妹だ」
「なんですって」
「れいな、待たせたね。立てないようだから連れて行ってあげよう」
お兄ちゃんは優しく私の頭を撫で、泥のように動かなくなった私の身体を、軽々と横抱きにしてくれた。
恐怖と羞恥に明け暮れ、すべてを失った私にとって、その温かい腕の中だけが、世界で唯一の安らぎに感じられた。
「……お兄ちゃん。大好き……」
私はお兄ちゃんの胸にきつく顔を埋め、安堵の涙をボロボロと流していた。
その私の頭上で、お兄ちゃんがどれほど冷酷な勝利の笑みを浮かべて私を見下ろしているか、その時の私は、知る由もなかった――。




