第34話【断絶の9日間Ⅷ・後編】〜白霧のレクイエムと産声〜
プールサイドからプールに入った補助員たちは、一様に黒い鎖がついた首輪を握っている。真冬様が許可をだす以前に息継ぎをしたこの首に、補助員の手で首輪が繋がれ、鎖のもう一方はプールの底にある『突起状ローラー』に取りつけられたようだ。
「底のローラーは無線で鎖を巻き取れるようになっており、わたくしがもつコントローラーで長さを自在に変えられる仕組みになっています。すなわちわたくしが鎖を巻き取った間は、霧の中で息を止め続けざるを得ないということです。懲罰なのだから当たり前ですよね。覚悟しなさい」
「次は3分です。はじめますよ」
真冬様が手を叩いた直後、急激なモーター音とともに数人が白いミストの海に呑み込まれた。あの勢いで引っ張られて、無事に息を吸えたのかな?そんなことを考えながら、私も霧中に続く。
必死で耐えた結果、私を含む3人全員が『自力で』3分をクリアできた。『自力』に対して『他力』がある。鎖で霧底に繋がれた5人も、強制的に3分の**潜霧を余儀なくされ、2分を我慢できないものが、3分耐えられるわけもなく5人とも1分半を過ぎた頃に霧中で暴れ、冷たいガスを吸い込んで激しく咽せ、酸欠でぐったりし、3分すぎて鎖がほどけても、ミストの底で横たわるばかりで息をする気配がない。それはそうで、とっくに意識を失っているのだろう。
四肢を垂らした5人は補助員に担がれ、プールサイドに引き上げられた。横たわった5人に対し、補助員は素早く高酸素マスクをあて、**人工呼吸を施す。鼻をふさぎ、首の下に膝をあて、気道を伸ばしつつ呼気を入れる。合間に心臓を強く擦ると、気絶した少女たちは直ぐに意識を取り戻し、人工呼吸を始めてからほんの数十秒で、結局全員が起きあがった。
限界を迎えた時、真冬様の声が聞こえた。『れいなお嬢様、あなたの耳なら聞こえておりますね。貴方様もここにお兄様がいらっしゃることにもうお気づきなのでしょ?お兄様は今、笑っておられますよ。あなたが他のゴミ同然の家畜たちと一緒にガスを、吸い込み酸欠で暴れる姿を見て、満足されている。……お可哀想に。あなたの命の価値は、彼にとってその程度なのですよ。でも、まだ時期早々です。早まった真似はしないでくださいませ。真冬のお願いでございます』またあの音がした。あぁ、やっとわかった。あの音、『春夏秋冬れいな』を壊した『15番』の産声だ。真冬様が決めた期限まで『15番』として生きよう。
私が『15番』として生きる決意をし、顔をあげた時点で、既に2人ともあらいいきをしており、鎖に繋がれていない生徒は誰も5分の壁を破れなかった。
潜ってしばらくは、陽子たちが暴れる音がしたり、モガモガと、霧中で叫ぶ声もしていた。けれど私が白旗を上げた時には、陽子たちは動いていなかった。誰もが不自然に首を底につけ、海草のように手足を揺らしている。3人とも、とうに意識を失っていたのだ。なのに真冬様も補助員も眉ひとつ動かしはしない。もちろんお兄ちゃんも……
5分が経過して鎖がほどけると、さっきと同じテキパキした手際で鎖を外し、プールサイドに陽子たちをあげていく。5人の補助員がそれぞれ1人づつ抱え、プールサイドには打ち上げられた魚よろしく5つの裸体が並んだ。喰いいるように私たちが見守る中、補助員たちは人工呼吸に移り、陽子たちは肺に残った白い霧を激しく吐き出し、激しく咽せ返りながら瞼を開いた。
5人全員が意識の狭間から戻ってくるまでにかかった時間は僅か数分で、誰1人横たわったままのこはいなかった。




