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支配された帝国【番外編】、淑女養成学院  作者: 鎖乃れいな
第二部〜屈辱のオリエンテーション開始

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第31話【断絶の9日間Ⅵ】〜真冬の特別講義、老執事の残影〜(真冬視点)

 わたくしが15番を連れて来たのは、部屋中に所狭しと拘束具や矯正器具が置かれ、天井の梁からは重々しい鉄製フックが垂れ下がる、いわゆる『特別調教室』でございます。壁際には、わたくしが担任を務める執事・女中養成学校の『商品管理科』の生徒5名と、教材として待機させた2体の『欠陥商品』を並べました。


 「15番、今日はわたくしが、徹底的に『お仕置き』をして差し上げましょう。――これより、わたくしのことは『真冬様』と呼びなさい。良いですね?」

「……かしこまりました、真冬様」

 少女が震える声で、わたくしの偽名をなぞる。

この15番は、光也や悠羅様が手を焼くのも頷けるほどの『鋭さ』を持っているようだ。わたくしの発声一つ、立ち振る舞い一つを、彼女の過敏な耳が必死に解析しようとしているのが伝わってくる。


 だが、無駄なことだ。わたくしという存在を、家畜の知性で測れると思わないことですよ。わたくしは一つ頷くと、彼女の手錠とリードを外し、手際よく鎖で拘束してから、その生意気な口にタオルを詰め、別のタオルでそれを固定しました。


 「では、五人とも、こちらへ」

無造作に十五番の髪を掴み上げる。指先に伝わるのは、恐怖で硬直した肉体の不快な震え。だが、それこそが最高級の『素材』が放つ瑞々しい反応でもある。天井のフックを見上げる彼女の瞳には、まだ『誰かが助けてくれる』という淡い期待が、濁った光として残っていた。


 それを一つずつ、丁寧に摘み取って差し上げるのが、わたくしの仕事です。

「この矯正器具をご覧なさい。これを付けられた、家畜は、寝れなくなると言われていますなぜかと言うと…」

 わたくしはそこまで説明すると、彼女の髪をさらに強く引き下げ、四本の鋭い刺先を喉と胸元をぴったりと押し当てました。

「……ッ!?」


 もはや、瞬き一つすることさえ激痛と死に直結すると理解したようです。もがくことさえ忘れ、極限の緊張で石のように固まっています。その至近距離で、彼女の過敏な耳がわたくしの『音』を捉えようとしているのがわかる。光也のような情熱も、悠羅様のような潔癖さもない、ただ事務的に死と生を管理するわたくしの、凪いだ湖面のような心音と、深く静かな呼吸。

(ほう、これほどの恐怖の中でも、わたくしの正体を探ろうとしますか)


 良い傾向です。人間は、理解できない絶対的な上位存在に対してのみ、真の服従を誓うものなのですから。


 「内側に超感度の姿勢センサーが付いており、少しでも頭を下げると不快なパルスが走るからです。今まさに隣の部屋には、これで一晩中強制起立させられている『欠陥商品』がいるから、後で見せてあげましょう。いつまでも怯えて固まっていないで、しっかり前を向きなさい」


 絶望に染まった彼女の耳元で、毒を流し込むように告げてあげます。わたくしの正体が誰であれ、彼女が信じているお兄様の世界には、慈悲など微塵も存在しない。あるのは管理と、選別と、使い捨てられる駒だけなのですから。

「ム、グゥゥ……、ンン……」

タオルに遮られた、壊れた楽器のような鳴き声。


 わたくしは、満足げに鏡に映る『商品』の無様な姿を眺め、机の上に並んだ次の『教材』へと手を伸ばしました。


 「こちらの『呼吸制限マスク』は、酸素供給量を極限まで制限し、パニック時の自己管理能力を測定するために非常に有効です。このように特殊な医療用テープで肌に密閉固定してやれば、両手が空いて他の査定を同時に行えるのでおすすめですよ」

 実際に15番の顔面に、マスクをテープで密閉固定しながら、実演説明をします。


 「他にも、鼻腔を圧迫した状態で高濃度の刺激性アロマミストを嗅がし続けるという方法もあります。――実演してみましょうか。『豚』、こちらへ来て第四服従姿勢」


 わたくし、下品な言葉は好みませんが、売れ残った『欠陥商品』にだけは、自分の立場を骨身にしみて思い知らせるために、このような記号的な言葉を的確に使うようにしております。この欠陥商品は無駄に胸ばかりが大きく、体型に締まりがないので『豚』と呼んでいます。


 我が淑女養成学院では、一般受けする一級の『商品』だけでなく、このような『マニア向けの特殊な需要に応える商品』も製造しているのです。

「かしこまりました……」


 強烈なメンソールアロマを炊き、うつ伏せになった豚に容赦なくそれを嗅がせました。

「ゲホッ……ァ、ゴホッ……!?」

「これくらいで取り乱すだなんて、実に見苦しいですよ。少し粘膜にメンソールが染みただけにすぎません。そんな自己管理能力だから、お前はどこにも就職出来なかったのですよ。もう少し厳しい『懲罰』が必要なようですね。――生徒の君たちは、まだ真似をしてはなりませんよ。加減を誤ると危険ですからね」


 さらに濃いメンソールを吹き込み、彼女の呼吸を完全に支配してやります。

「無様でいい格好でしょう? おい、豚。しばらくその体勢のまま固まっていなさい」

「かしこ……ゲホッ、まり……ました……真冬……ゴホッ、ゲホッ……様……」


 「もっと苦しめたければ、こうすれば良いのですおい、駄犬。こちらに来なさい」


『駄犬』は本来、非常に優秀な『商品』なのですが、就職試験当日に致命的な体調不良を起こし、就職の機会を逃した損失物です。『自己管理すらできない、だが命令には絶対従順な商品』ということで、戒めを込めて『駄犬』と呼んでいます。

「かしこまりました」


 「あなた達も授業の予習でアンモニアの発生実験を行っているでしょう? あの刺激臭を直接嗅がせてやりなさい。特に、今朝一番の実験で精製したばかりの、濃度が最も濃い状態のものがおすすめですよ。こちらに、わたくしが今朝の実験室で生成して、密閉保存しておいた特製試薬がございます」

駄犬の髪の毛を引っ張って天井を向かせると、容赦なくそれをかがせました。

「ウ、グフッ……ゲホッ!」

「この程度でむせるなど、だらしのない。さらなる『懲罰』を与えます。これでも付けて頭を冷やしなさい」


 激しく咳き込む彼女の口を開けさせ、15番と同じように口にタオルを詰め込んで差し上げました。

「わたくしが『良し』と言うまで、その姿勢のまま一歩も動いてはなりませんよ」

「ムグゥ、ウウゥン……!」

「――さて、今日の授業はここまでとしましょう。15番、あなたにはこれから個別に『面談』があります。わたくしの後をついてこちらへ来なさい」

「……っ、かしこまりました、真冬様」

(つづく)



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