第29話【断絶の9日間Ⅵ・後編】〜鏡の中と紅の上書き〜
「ひっ……、あ……」
命令に従い、手錠で後ろ手に拘束されたまま、私は必死に素足で立ち上がると、光也様は首輪から繋がったままだったリードを壁のフックから伸びている鎖へと固定した。
「初めてだから補助してやる。だが踵を下ろすと首が締まるぞ。鏡の中の自分を凝視しながら、その姿勢を維持してみせろ」
光也様の非情な命令に、私は震えるつま先だけで全体重を支えた。後ろ手で固定されているため、バランスを取るたびに薄い訓練着の胸元がパツパツに引き絞られ、由羅様に刻まれた赤黒い線が、汗で透けた生地の向こうからはっきりと鏡に映し出される。
「どうした、補助してやってるというのに、もう足元が揺れているぞ。だらしがない。おしおきだ」
光也様はそう言うと、リードわー鎖からはずし、再び戒杖を手にした。
「踵を降ろして第一拘束姿勢」
「かしこまり……ました」
後ろ手の手錠が肩を内側に絞り込み、豊かな胸が強調されるようにせり出す。鏡の中の『15番』は、光也様の視線一つで射抜かれそうなほど、無防備で、惨めだった。
「背筋を伸ばせ、15番。自分の惨めな姿をその目に焼き付けるんだ」
「かしこまりました」
膝の震えが止まらない。お尻は熱を帯び、ドクドクと拍動しているのが自分でも分かる。けれど、光也様の言葉は絶対だ。私は手錠で自由の利かない体を必死に揺らし、鏡に向かって背筋を伸ばした。
「ほら、もっとよく見ろ」
光也様の大きな手が私の髪を掴みグイッと引き上げた。
「背筋を伸ばせ、15番。自分の惨めな姿をその目に焼き付けるんだ」
「かしこまりました」
膝の震えが止まらない。お尻は熱を帯び、ドクドクと拍動しているのが自分でも分かる。けれど、光也様の言葉は絶対だ。私は手錠で自由の利かない体を必死に揺らし、鏡に向かって背筋を伸ばした。
「ほら、もっとよく見ろ」
光也様の大きな手が私の髪を掴みグイッと引き上げた。鏡には、小柄な私の体が限界まで無防備に晒されている姿が映っていた。膨らんだ胸は、激しい呼吸に合わせて上下し、赤黒い線が脈打つように揺れているのが、汗で張り付いた訓練着の上からでもよくわかった。そして、その後ろ手の手錠によって強制的に反らされた、お尻から太ももの付け根にかけての、肉体の最も柔らかく無防備なライン――そこは、薄い生地越しに、鏡の向こうからすべてを暴かれていた。
「……っ、光也様……恥ずかしい、です……」
「恥ずかしいか。だが、その淫らな体で御当主様以外の男の戒杖を受けたのは事実だろう」
光也様は私の背後に立ち、鏡越しに私の瞳をじっと見据えた。戒杖の先端が、震える私の内腿を、下から上へとゆっくり這い上がってくる。そして、それは衣服が最も密着した、内腿の最もデリケートな根元のすぐそばで止まった。
「光也様、そこ……っ、ひぅ……!」
「ここを従順に調律するのは男のモノではない。俺の、この戒杖だ」
――ビシィッ!!
「あガぁぁぁっ!!」
最も敏感な場所のすぐ近く、内腿の柔らかい皮膚を戒杖が激しく捉えた。今までのお尻への打撃とは比較にならない、鋭い激痛が全身を貫く。
「あ、はっ、ひ、あぁぁ! 光也様! 光也様ぁ!」
「逃げるな。鏡を見ていろ。自分のどこが打たれているか、その目に焼き付けろと言ったはずだ」
その声に抗う術を、私は持たない。
ガチガチと音を立てる手錠に肩を縛られたまま、私は生まれたての小鹿のように震える足で立ち上がった。正面の鏡には、かつて由羅様が付けた紫色の赤黒い痕か、光也様が付けた痕かも、もはや判別できないほど無残に塗り潰された『15番』がいた。
そこにあるのは、光也様が新しく、より深く刻み込んだ鮮烈な紅蓮の色の筋だけだ。
「……あ……、あぁ……」
「どうだ、15番。今、お前の肌を支配しているのは、俺の与えた痛みだけだ」
光也様の冷たい指が、真っ赤に腫れ上がった私のお尻を、慈しむような仕草で、けれど容赦なく強く圧迫した。
「ひぅっ……!? あ、りがとう……ございます、光也様……っ」
激痛に腰が砕けそうになるのを、首輪の鎖が非情に支える。光也様は満足げに薄く笑うと、私の背中に冷たい視線を投げかけた。
「純潔の花を保ったまま、身体中にこの惨めな色を散らして……。これこそが、お前に相応しい姿だ。お前は一生、誰の『特別』にもなれず、ただ俺たちに壊されるためだけの『商品』でいろ」
その言葉は、どんな戒杖よりも鋭く私の胸を刺した。けれど、その絶望こそが、今の私にとっては唯一の救いでもあった。
鏡の中の私は、光也様の冷徹な瞳に射抜かれながら、どこか恍惚とした表情で、自分を『商品』として受け入れている。
「……はい、光也様。……私は、あなた方の……ただの『15番』です……」
鏡張りの部屋。赤く染まった私の肉体と、それを冷たく見下ろす支配者。その光景を網膜に焼き付けたまま、私は光也様のリードに引かれ、再び暗い廊下へと引きずられていった。




