第25話【断絶の9日間Ⅰ・後編】〜絶望の初夜、調律される身体〜
第25話【断絶の9日間Ⅰ・後編】〜絶望の初夜、調律される身体〜
「いつまで絶望している。立って、前屈してみろ」
「……っ。かしこまりました」
光也様の厳しい声が私を現実に引き戻した。広いスタジオには二人きり。余計な音は何もなくて、靴底が床に触れる音と私たちの呼吸音だけがやけに響く。足を揃えて立つ。分かっている。ここでどこまで身体を落とせるかで、今日のすべてが決まる。
息を吐いて、身体を倒す。太ももの裏が張り、膝で止まりかけた。
「戻るな。まだいけるだろ?」
すぐに冷たい声が降る。
無意識に戻ろうとした身体を止めるが、「今、逃げたな」と即座に見抜かれた。
「……申し訳ございません」
ここには光也様しかいない。だからこそ、僅かな甘えもすべて暴かれる。
私が再び深く沈み込もうとしたその時、背中に光也様の固い膝が容赦なく押し当てられた。
「あ……っ、光也、様……!」
「喋るな。息を吐け」
光也様の両手が私の細い足首を掴み、限界を超えて強引に引き寄せる。
「ぐっ、うう……っ!」
上半身が床へ叩きつけられ、逃げ場を失った私の大きな胸が、冷たい床と光也様の膝に挟まれて無様に左右へ押し潰された。皮膚が引き絞られる痛みが全身を駆け巡る。
「膝を緩めるな。お前の兄は努力できない家畜は嫌いだぞ」
痛いところを突いてくる。お兄ちゃんに、これ以上嫌われたくない――。
「……っ、はい」
肩の力を落とし、息を吐く。じわ、と一段深く沈んだ。
「座れ。開脚」
間を置かず、床に座らされる。脚を開くと、光也様が私の正面に回り込んだ。
「足でやるな、股関節で開くんだ」
「……はい」
言われるがまま、吐いて、落とす。吐いて、落とす。内ももが震えるが、戻らない。戻ったら、お兄ちゃんに完全に切り捨てられるから。光也様は高い位置から、全裸で無様に脚を割られた私の姿を、冷徹な検品者の目で見下ろしている。
「そのまま前に倒れろ」
命じられ倒れ込むと、潰された胸の先端が床の冷たさに触れ、痛熱い刺激が脳をかき乱した。光也様の大きな掌が、圧迫されて赤くなった私の胸を掬い上げ、その重量を計るように強く握り込んだ。
「……こんなものがついているから重心が逃げる。もっと徹底的に追い込まねば、この肉は言うことを聞かないようだな」
「あ、ぁ……っ! 光也様……っ」
おしおきとして、光也様の指先が、尖りきった先端を容赦なく弾く。羞恥と痛み、そして暴力的なまでの支配感。でも、光也様の声がわずかに優しくなったのを感じて、私の身体は卑しくも応えてしまう。
「……立て。前後開脚」
右足を出して、左脚を引く。骨盤が逃げそうになった瞬間、正面に戻された。
「……っ!」
奥を直接引かれるような激痛。
「逃げるな。それが本来の位置だ。自分で基準を決めようとするな」
「……はい」
怖い。でも、止まったら意味がない。
深く、長く息を吐き、股関節に全体重を乗せていく。引かれるだけじゃない、そこに『乗せる』感覚。
どれだけやったのか、時間の感覚が消えていく。
「これで最後だ。もう一度、立位前屈」
立って息を整える間もなく倒れる。さっきより楽に指先が床に触れ、さらにその先へ。
「それが最低ラインだ。明日、それができなかったらどうする?」
「……やり直します。何回でも」
迷いなく即答した私に、光也様は昨日初めて会った時のように優しく囁いた。
「それでいい。凜人様も、努力できる従順な性徒は好きだよ」
逃げた分だけ、お兄ちゃんは遠くなる。でも――踏み込んだ分だけ、確実に近づく。私はもう一度深く息を吐いて、わずかに身体を落とした。ここが、今の私の基準。ここから、下げていくしかないのだ。
「そこまで。5日後、どこまで開脚できるようになったかテストする。自主練習を怠るな。第一拘束姿勢」
「かしこまりました」
手錠とリードを付けられ、私は重い身体を引きずりながら、お兄ちゃんのいない寮へと戻った。




