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支配された帝国【番外編】、淑女養成学院  作者: 鎖乃れいな
第1章落ちていく少女【第1部】〜新しい兄弟〜

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第1話〜偽りの揺り籠、鉄の鎖〜

 田中が俺の部屋を訪ねてから、三日が経った。全ての準備は整った。あとは、新たな『駒』を回収しに行くだけだ。鄙びた民家のチャイムを鳴らすと、一人の少女が現れた。その瞳は赤く腫れている。母親が死病を罹ったと聞かされ、一晩中泣き喚いていたのだろう。実際のところは、彼女の母親はピンピンしているというのにな。昨日、親子に聞かせた話はすべて、彼女を盤上へ引きずり出すための嘘だ。


 「君がれいなだね。僕は琉雅院凜人だ。君の兄だよ。……お母さんから、何も聞いていないのかい?」

嘘は言っていない。血が繋がっているという事実は、彼女を縛り付ける上でこれ以上ない『鎖』になる。怯える彼女を観察しながら、私は内心で舌を巻いた。泥の中に咲いた花にしては、出来が良すぎる。これほど見栄えのする駒を、父上や田中はどう使い潰すつもりだろうか。


 「父は戦死したと聞いています。母も、帝国軍に勤めている女中です……。何かの間違いではありませんか?」

「間違いではないよ。ほら、これを見てごらん」

私は事務的に、一枚の紙を差し出した。

「この間、成人前の義務健康診断で血液検査を受けただろう? あの時の女医は僕の飼い犬……失礼、僕の妹なんだ。これは君の血と、父上の血を照合したDNA鑑定書だよ。ここに書いてあるだろう? 『親子関係あり』と」

紙切れをまじまじと見つめるれいなの顔から、血の気が引いていく。絶望に染まるその表情を眺めていると、胸の奥がわずかに疼いた。

……ああ、そうか。これほど美しい顔が恐怖で歪むのは、実に惜しい。もっと有効な使い道があるはずだ。


 おっと『18歳なのに、成人前の義務健康診断?早くない?』と思ったそこの読者諸君。日和帝国の成人年齢は19歳だ。中途半端だと思ったかい?それは『君たちの世界の常識』だ。この世界では『19歳で成人』これが常識だ。覚えておくように。


 「いいかい、れいな。君は、我が家で女中をしていた君の母親と、父上の間に生まれた子なんだ。父上も君の存在を気にかけておられた。お母様が病に倒れた今、君を引き取りたいと仰っている」

私は淀みない声音で、幼子を諭すように語りかける。表情は優しく、だが瞳の奥では彼女の『耐久値』を値踏みしていた。

「これから僕と一緒に、帝都へ行こう。本妻の子ではない君を本邸に迎えるわけにはいかないけれど、我が家が経営する学院の寮を用意してある。そこで不自由なく暮らせるよ」


 これから彼女を待っているのは、地獄のような『躾』と『調整』の日々だ。まずは『優しいお兄様』を演じ、彼女の精神を私に依存させる。それが最も効率よく、彼女という駒を調教できるからに他ならない。

……彼女の『貫通式』を執り行うのはきっと俺だ。その為にも、彼女には俺に依存しておいて貰わないと困る。


 「私は……母と暮らしたこの家で、母を待ちます」

「ここで一人でいるわけにはいかないよ。それが君の母親と父上が、かつて交わした約束なんだ。さあ、もう行かないと汽車に間に合わない」

納得させる必要はない。ただ、運べばいい。私は彼女の手首を、逃げ場のない強さで掴んだ。


 「いや……! 離して!」

泣き叫び、地面に踏みとどまろうとするれいな。

私はその抵抗に一片の感情も動かされることなく、壊れ物を運搬するような手つきで、彼女を汽車へと連行した。泣けばいい。叫べばいい。絶望に磨かれた駒ほど、高く売れるのだから。



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