第18話〜支配の再定義、残酷な特別の終焉〜
到着したのは、巨大な体育館だった。
重々しい扉が開かれると、そこには異様な光景が広がっていた。
広いフロアには、補助役の学生たちと、琉雅院家の紋章をつけた黒衣の使用人たちが、整然と列をなして待ち構えていたのだ。
私たちの足音が止まると、お兄ちゃんが短く、冷徹な号令をかける。
「……繋げ」
その瞬間、1組のメンバーを繋いでいた1本の長い鎖が外された。それと同時に、使用人たちが一斉に私たちの背後へと回り、手慣れた手つきで手錠の鍵を開けていく。
あちこちでガチリ、という金属音が重なり、拘束から解かれた私たちの腕が力なく投げ出された。
「動くな、検体番号15番」
私の前に立ったのは、光也様だった。彼は昨日までのような親しげな表情を一切消し、冷え切った瞳で私を見下ろしている。その手にある革製のリードが、鈍い光を放っていた。
「……はい、光也様」
光也様は私の背後に回ると、私の手首を締め付けていた手錠を外した。解放された瞬間の激しい痺れに、私は思わず小さく息を呑む。
自由になった腕を整える暇もなく、彼は私の首輪にあるリングに、カチリ、とリードを接続した。金属の冷たさが喉元に伝わり、私は自分が完全に『個人の所有物』として再定義されたことを悟る。
体育館のあちこちで、同じようにリードを装着された少女たちは、補助員に引かれて所定の位置へと連行されていく。反抗的な陽子も、昨日知り合った琴音ちゃんも、今はただ一本の紐に引かれるまま、無機質なフロアの一点へと固定されていった。
光也様も、短くリードを引いて私に指示を出す。
「こちらだ。……余計な声は出すなよ」
「……かしこまりました」
リードに引かれ、私は体育館の奥へと歩を進める。そこには、これから始まる凄惨なオリエンテーションのための、冷たいマットが並べられていた。
「最も無防備な検体姿勢で、正面の教壇へ向かって自らの血統を一切隠さず晒し続けろ」
光也様の無機質な命令が降る。私が困惑して動きを止めると、彼は舌打ちをして私の肩を乱暴に押し下げた。
無理やり膝をつかされると、彼は私の太ももを左右に大きく押し広げ、かかとの上に腰を落させる。
「もっと前だ。……そうだ、隠すな。手は膝の上に指を揃えて置け」
光也様は私の腰を掴んで前へと突き出させ、最も恥ずかしい場所が教壇の方へ剥き出しになるよう、執拗に姿勢を固定した。命じられるまま膝に置いた手は、震えを隠すように指を揃える。
晒される羞恥に顔が焼けそうになるが、光也様はそのリードを床に固定された金具に繋ぎ止めた。逃げ場はない。首を振ることさえ制限された姿勢で、私はただ正面を見据える。
そこで私は、目を見張った。教壇の上に立つお兄ちゃんの傍らには、見慣れない女性が控えていた。
私と同じように全裸で首輪をつけられ、お兄ちゃんの足元に這いつくばっている。お兄ちゃんは、その少女のリードを当然のように握り、時折その背中を愛撫するように指先でなぞった。
お兄ちゃんの隣は、私の場所なのに。あんな風に触れられるのは、私だけのはずなのに。
見知らぬ少女に注がれるお兄ちゃんの慈しみを含んだ視線が、私の胸をざらついた不快感で満たしていく。胃の底が重く沈み、自分でも驚くほどの嫉妬と独占欲が、羞恥を塗りつぶしていくのを感じた。
「準備をしろ」
お兄ちゃんの低い声と共に、補助員たちが動き出す。光也様が私の足元に膝をつくと、下着を奪われた腰周りに『卵型の機械』を取り付けた。
「……い、っ、……いやぁ……っ」
何をされるか解らない恐怖に、私は声にならない悲鳴を上げた。
光也様は、手元のリモコンを確認する。
「これは『生体バルス・バイオセンサー発信器』だ。……お前の意思とは無関係に、いつでもお前に『微弱な電流』や『強烈な高周波振動』を流すことができる」
光也様の指先ひとつで、私の体は翻弄されることになる。
その事実に、恐ろしさと、抗えない期待が混ざり合い、私の体は細かく震えた。
フロアの中央、教壇の上に立つお兄ちゃんの視線が、新入生全員を等しく射抜く。
静寂に包まれた体育館に、彼の低く、絶対的な声が響き渡った。
「これより、二日目のオリエンテーションを開始する。……今日からお前たちの体に、家畜としての『限界』を刻み込んでやる」
その宣言と共に、地獄のような一日の幕が上がった。




