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支配された帝国【番外編】、淑女養成学院  作者: 鎖乃れいな
第二部〜屈辱のオリエンテーション開始

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第14話〜友情の芽生え、独占の鎖に沈む嫉妬〜

 鉄格子の重い音が響いて、凜人様の足音が遠ざかっていく。その瞬間、それまで静まり返っていた六畳の和室に、ねっとりとした刺すような視線が突き刺さった。

「……ねえ。あんた、あいつのお気に入りなわけ?」


 真っ先に口を開いたのは、鋭い目つきをした女の子だった。その隣には、不機嫌そうに鼻を鳴らす子と、腕を組んで睨みつけてくる子。誰が誰だかも分からない彼女たちの刺々しい空気に、私は思わず身を縮めた。


 「初日から特別なお仕置きなんて、目立ちすぎなのよ。私たちはさっきまであいつに鞭で追い立てられてたっていうのに、あんただけ手厚く連れてこられて……」

「ごめんなさい……。私は、ただ……」

謝ることしかできなかった。でも、その弱気な態度がさらに彼女たちの苛立ちを煽ったみたいで、腕を組んだ子が吐き捨てるように言った。

「謝れば済むと思ってんの? 学院の見習い期間なんて、いかに目立たずやり過ごすかが勝負なの。あんたみたいなのがいると、こっちまで連帯責任で何をされるか分かったもんじゃないわ」

冷たい言葉が胸に刺さって、視界がじわじわと滲む。

……ああ、やっぱり私、どこへ行っても居場所なんてないんだ。

そう諦めかけた時、控えめに手を挙げた子がいた。


 「……ねえ、もうやめようよ。みんな辛いのは一緒だよ」

小柄な女の子だった。その隣にいる子も、不安そうに頷いている。二人の瞳には、さっきの三人みたいなトゲはなくて、どこか私と同じ『怯え』の色が混じっていた。

「私は琴音。こっちは麻衣。……あんた、れいなちゃん、だよね? さっき、凜人様が連れてきた時の様子で……なんとなく分かったよ。お仕置き、すごく大変だったんでしょ?」

初めて聞く彼女たちの名前に戸惑いながらも、琴音さんと呼ばれた子の穏やかな声が、強張っていた私の心を少しだけ解いてくれた。


 「……うん。どこかの部屋に連れて行かれて、頭が真っ白になって……。凜人様が来てくれなかったら、私、今頃どうなってたか……」

「あんなの、ただの飼いならしよ」

さっきの目つきの鋭い子たちの野次は止まなかったけれど、麻衣さんはそれを無視して、私の隣にそっと座ってくれた。

「いいなぁ。私たちはただ怖くて震えることしかできないけど、れいなちゃんには縋れる人がいるんだね。ねえ、凜人様って……本当はどんな人なの? さっきお話ししてた時、少しだけ声が優しかった気がしたから」

麻衣さんの問いかけに、私は胸の奥が熱くなるのを感じた。


 「……厳しいけど、でも、私が一番苦しい時に、いつも助けてくれるの。私……あの人がいないと、もうどうしていいか分からなくて。私には、あの人しかいないから」

私がぽつりと呟くと、琴音さんと麻衣さんは顔を見合わせた。

「私たちも、いつか誰かの専属になれたら、あんな風に守ってもらえるのかな……」


 「そうだといいよね。……ねえ、もしよかったら、明日からのオリエンテーション、一緒に動かない? 三人なら、少しは怖くない気がするし」

まだ誰が誰だか、顔と名前も一致していないけれど、琴音さんの提案に、私は初めて、小さく微笑むことができた。

「……ありがとう。よろしくお願いします」

他の三人は「ふん、勝手に馴れ合ってれば」っておまるの方へ行っちゃったけど、冷たい畳の上で、私は一人じゃないんだって、微かな温もりを感じていた。

……でも、その安らぎは、すぐに打ち砕かれた。

廊下に、あの規則正しい、冷徹な足音が響き渡る。

それまで一緒に話していた琴音さんと麻衣さんの顔が、一瞬で青ざめた。

「……来た」

鉄格子の向こうに、長身の影が立つ。凜人様だ。冷たい瞳が、檻の中の私を射抜いた。


 「親睦は深まったか」

その低い声に、私たちは全員、弾かれたように立ち上がって頭を下げた。

「れいな、時間だ。立て」

「……はい、凜人様」

私は琴音さんたちに一度だけ目配せをして、吸い寄せられるように鉄格子の扉へと歩み寄った。凜人様は檻が開くと同時に、私の首にかかったリードをぐいと短く巻き取った。勢いよく彼の方へ引き寄せられ、彼の胸元に顔がぶつかりそうになる。


 「ひっ……」

「余計なことを考える暇など与えんと言ったはずだ」

凜人様は私の背後に回ると、私の両腕を強引に後ろへ回した。ガチリ、と冷たい金属の感触が手首を締め上げる。後ろ手に手錠で拘束され、私は完全に自由を奪われた。

「あ……っ……」

「これからは、他の奴らと話す時間などなくなる。お前のすべてを、俺が塗り替えてやるからな」

「かしこまりました、凜人様」


 不自由な姿勢のまま、リードに引かれるようにして私は薄暗い廊下を歩き出す。背後に残された五人の息を呑む気配を感じながら、私はこれからの『特別カリキュラム』への恐怖と……そして、こうしてお兄ちゃんに完全に支配されていることへの抗えない悦びに、身を震わせていた。



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