第13話(サイドストーリー) 〜粛清という名の慈悲、新当主誕生〜
本家の拝謁の間。磨き上げられた黒大理石の床は、跪かされた罪人たちの恐怖を鏡のように映し出していた。俺――琉雅院玲央は、玉座に深く背を預け、冷え切った視線で眼下の群像を見下ろしていた。傍らには、影のように控える田中と光也。そして、政清の代わりに当主を命じるために呼び寄せた凜人と、要に代わり一組を掌握させる由羅。
「これより、琉雅院の名を汚した不浄を切り捨てる」
俺の声が、石造りの広間に鋭く響き渡った。
「まずは、琉雅院政清。貴様だ」
「れ、玲央様……どうか、お聞きください……!」
「黙れ。貴様は分家現当主でありながら、帝国の官僚へ賄賂を贈り、家の資産を私物化。さらには家格維持の名目で禁制品を横流しした。政清、貴様が売ったのは金ではない。琉雅院の矜持だ。――貴様は本日をもって当主更迭、強制隠居とする。北の地下監獄で死ぬまで己の罪を数えろ。凜人、今日からお前が当主だ」
「御意。重く受け止めます」
凜人が静かに拝礼する。その隣で、蒼空が必死の形相で叫び声を上げた。
「御当主様! お父様への処置はともかく、わたくしまで勘当など納得がいきません! れいなの件は、ただの教育ですわ!」
俺はゆっくりと蒼空へ視線を移した。手元の資料を、これ見よがしに放り投げる。
「れいな? 貴様、勘違いするな。そんな瑣末なことだけで、この場を設けたと思うか。……光也、報告しろ」
光也が冷徹な声で読み上げる。
「蒼空様。貴様は過去三年にわたり、本家が帝国中枢へ納品する予定だった『SSランク個体』計五名を、出荷前の検品直前に私的に連れ出し、陵辱した。その結果、三名は精神崩壊、二名は商品価値を損なう外傷を負い、本家は多額の違約金と信用の失墜を被った。すべて、貴様の『つまみ食い』が原因だ」
「あ……あ、あれは……!」
蒼空の顔から血の気が引いていく。
「家業の根幹を揺るがす背信行為。さらには次期当主たる凜人の命を無視し、私欲を満たし続けた。……蒼空、貴様は本日をもって勘当だ。琉雅院の姓を捨て、その身一つで泥水をすすって生きるがいい」
「ああ……あああああ!」
泣き崩れる蒼空を切り捨て、俺は震えて床に額を擦り付けている要と時弥を見据えた。
「要。淑女養成学院の教師として、蒼空のつまみ食いと虚偽の報告を裏で手引きしたな。そして時弥。叔母の威光を傘に着て、禁じられた医療行為を検体に施し、悦楽にふけった。……貴様ら二人には、もっとも相応しい末路を用意した」
俺が顎で合図すると、田中が一歩前に出た。
「貴様らの家籍を剥奪の上、帝国最北端の鉱山――あるいは、貴様らが弄んだ者たちと同じ『最下層の使用人』として、本日中に引き渡す。一生をかけて、奪った者の痛みを知るがいい。代わりの担任には由羅を据える」
「ひっ……! 嫌だ、助けてください!」
時弥が惨めに這いつくばり、要は声も出せずに白目を剥いて倒れ込んだ。
「連れて行け」
黒衣の警備員たちが罪人たちを引きずっていく。蒼空の絶叫と時弥の啜り泣きが遠ざかり、重厚な扉が閉じられたとき、広間には再び静謐が戻った。
俺は玉座から立ち上がり、新当主となった凜人の前に立った。その肩を強く掴む。
「凜人。膿は出した。これからはお前と由羅、そして田中たちが、この琉雅院を一から作り直せ。本家は、お前たちがもたらす『真の成果』を注視しているぞ」
「は。必ずや、不浄なき新たな琉雅院を築いてみせます」
窓の外には、鋭い陽光が一帯を照らし始めていた。琉雅院の歴史が、今、血塗られた過去を切り捨てて動き出したのだ。




