第113話【断絶】〜終焉を呼ぶ悪魔の慈愛〜
お兄ちゃんはやっぱり、私を『器』としてしか見ていなかった。焼けるような喉の痛みの中で、私の心は音を立てて崩れ去った。
(もう、死にたい。私の命日、前期終業式って言ってたよね? まだ3ヶ月もある……。)
絶望が深まるほどに感覚が遠のいていく。なんだか、耳も聞こえなくなって来たその時、重厚な扉が音もなく開いた。
「れいな。大丈夫かい?」
視界の端に映ったのは、聖蓮叔父さんだった。
「ぁっ、あぁっ……ああ」
声が出ない。ただ、掠れた風の音だけが喉から漏れる。
「無理に喋らなくて良いよ。また監視カメラをハッキングしたよ。でも、この前より時間はないだろうから単刀直入に、聞くよ。……もう、終わらせたいかい?」
「ぁっ、あぁっ……ああ」
私は、千切れそうなほど激しく、何度も頷いた。
この地獄から救ってくれるなら、それが終焉であっても構わなかった。
「わかった。よく頑張ったね。……今日の『薬』だ。これで全てを終わらせれるよ。よく頑張ったね」
聖蓮叔父さんが、小さな粒を自分の口に含み、口移しで私に飲ませた。それは、お兄ちゃんが与えた『救済』とは違う、本当の終わりを予感させる、冷たくて甘い味。
「僕が退室したらカメラの映像を戻すよ。さぁ、もうおやすみ、僕の可愛い姪っ子」
聖蓮叔父さんは私の頭を優しく撫で、そのまま静かに退室していった。
瀬蓮叔父さんが去って少しした頃、また足音が聞こえてきた。今度は、はっきりとわかった。お兄ちゃんの足音だ。
「れいな。遊びに来たよ。……れいな? どうしたんだい、れいな」
(お兄ちゃん、動揺してる...? なんで...?)
私を『モノ』だと思っていたなら、動かなくなったって構わないはずなのに。むしろ、その方が都合がいいはず...
「おい愛理、今すぐ『緋の鳥籠』へ来い。れいなが倒れた!いいか。すぐにだ」
教師同士の連絡手段だろうか。お兄ちゃんが何か『四角い光るもの』を操作して、愛理様を呼んでいる言葉は、いつもの完璧に整えられている言葉ではなく、ひどく崩れ、涙で湿っているように聞こえた
。必死に私の名前を呼ぶ声。身体を揺さぶる、熱い手のひら。けれど、それらすべてが遠い世界の出来事のように霧散していく。
そこで私の意識は、満開のひととせ桜につつまれ、あの白い部屋へと落ちて行った。




