第109話【器・転Ⅹ】〜不浄のイタリアン・アリア〜
「さて、おふざけはここまでだよ、001号」
部屋の扉が閉まった途端、アラン様の顔からお祭りを楽しむ青年の色が消えた。静寂が支配する自室。さっきまで外で鳴り響いていた爆音の行進曲が、耳の奥にこびりついて離れない。
アラン様は、私の自己紹介の内容を頭の中で反芻するように、ゆっくりと私の周りを歩き始めた。
「君の自己紹介が事実か確認させて貰うよ。第二服従姿勢」
「仰せのままに、我が主」
アラン様が指を鳴らすと、控えていたさらさが、トレイに載った二本の薬剤を差し出した直後、二本同時のノズルが、言い訳を許さない強引さで私を貫いた。
「ひ、あ、ぁぁぁ……っ!!」
「しっ、静かに。アラン様は静寂の中で、君の内臓が奏でる音を楽しみたいのだから」
さらさが、私の耳元で氷のような声で囁く。体内へと一気に流れ込む大量の薬剤。内臓が風船のように膨れ上がり、猛烈な排泄衝動が脳を灼く。そこへ、再び『栓』が力任せに突き立てられた。
"Now, introduce yourself in Italian. If you can say it with proper pronunciation, I'll let you release it."
(さあ、イタリア語で自己紹介してごらん。完璧な発音で言えたら、出してあげるよ)
「……っ、ぁ、かしこまり……あぁっ……ました」
私は、噴き出す汗と涙にまみれ、震える唇でイタリア語を紡ぎ始めた。
「Sono il campione numero 1...(私は検体番号1番です……)」
発音が甘ければ、アラン様は楽しそうに笑いながら規律棒を振った。
私がイタリア語で恥ずかしい告白するたび、アラン様は「Wonderful!」と喝采を送り、さらさは「アラン様は、その色をビンテージワインのようだと言っているわ」と、どうでもいい情報を無機質に通訳する。
自室という密室で繰り広げられる、美的な通訳と、醜い排泄の攻防。
ようやく辿り着いた最後の一節。私はアラン様の足元に顔を伏せ、排泄の許可を乞うた。
アラン様は、時計をチラリと見ると、満足げに微笑んだ。
"Well done, No. 001. Your Italian is almost as beautiful as your despair."
(よくやったね、001号。君のイタリア語は、君の絶望と同じくらい美しいよ)
「……ですが、アラン様は一点だけ、お気に召さないようです」
「『口の躾』を希望するのなら、今この場で、わたくしたちに見守られながら排泄しなさい。……一滴もこぼさず、エレガントに。それができれば、アラン様があなたに最初の『教育』を授けてくださるそうです」
(これは、お兄ちゃんが準備した、偉大なる大元帥閣下に捧げる器になるための儀式...。お兄ちゃんにこれ以上見放されたくない...恥ずかしくても頑張らないと...)
私は、逃げ場のない羞恥の中で、さらなる地獄の門が開く音を聞きながら、不浄をはきだした。




