第10話〜深淵の鎖【Ⅱ】〜検品される肉体、遠ざかる救済
「あなたたち。この個体はまだまだ構って欲しいようですから、存分に構ってあげなさい」
蒼空の冷徹な声に驚いて目を開けると、男性看護師だと思っていた二人が、私の横に立っていた。
「えっ……?」
「何を驚いているのかしら。構って欲しいのでしょう? それに、この者たちは就職前の個体を診察する病院の研修医です。ゆくゆくはお前たちの検査を受け持つことになるのだから、今のうちに慣れてもらわなければね」
マスクで表情の伺えない二人の研修医は、おそらく20代前半だろう。いくら研修とはいえ、若い男性にこのような場所で気安く触れさせるわけにはいかない。抵抗しようと身を捩った瞬間、いつの間にか背後に回っていた要様に強く羽交い締めにされた。
「大人しく言うことを聞け。これも健康診断の一環だ」
「さあ、始めてよろしくてよ」
蒼空の合図と共に、4本の男性の腕が私の胸めがけて降りてきた。唐突に成人男性たちに身体を弄られるという、異常な状況。左右両方の乳房を同時に、かつ執拗に揉みしだかれ、私は思考を停止させるしかなかった。
私の肉体の質感を確かめるように、丁寧かつ万遍なく指が沈み込んでいく。空っぽにしようとした脳内に、無機質な指の感触が満ちていく。これではいけないと何か他のことを考えようとしたが、何も思いつかない。二人の男性は、まるで素材の柔らかさを検品する作業員のように、淡々と私の胸を触り続ける。右側の男性は乳房を下からガッチリと掴んで左右に揺らし、左の男性は執拗に乳輪の周りを指でなぞった。先ほどの刺激で、乳頭は真っ赤に硬くなったままだ。
「ぅぅん……っ……」
その先端を、不意に強くつまみ上げられた。
下腹部が熱く濡れていくのが分かった。まるで示し合わせたかのように、二人は同時に敏感な部分を指先で転がし、弾き、弄り回す。猿ぐつわのせいで籠もった声しか出せない私を、彼らはただの『検体』として扱い続けた。
不意に、その強い刺激がピタリと止んだ。
「さあ、次は性器検診ですよ。要、貴方はオリエンテーションに戻りなさい。お兄様に何か聞かれたら、『心電図検査後の触診で取り乱してしまったから、時弥にお仕置きをさせている』と言っておきなさいな」
蒼空は流れるような手つきで指示を出す。
「心配しなくても大丈夫よ。お兄様はわたくしがここにいることは知りませんから」
「はい、姉上。……時弥、俺の代わりに『検体番号15番』をしっかり押さえろ」
「はい」
素早い連携で、要様と時弥様が入れ替わる。逃げ場のない診察台の上で、私はさらなる深淵へと引きずり込まれようとしていた。




