第9話〜深淵の鎖Ⅰ〜剥奪される声、沈黙の触診
測定が終われば、普通の学校なら教室に戻れるだろう。だが、この学校は違う。異常なまでに細かく身体を数値化された上で、今度は『触診』と称して直接その肉体を精査される。次の検診がそれだ。
「失礼いたします」
そこには見慣れた女性がいた。学院長蒼空だ。室内には診察台と内診台が置かれ、部屋の隅には白い幕と照明、そして記録用のカメラが設置されている。診察台の傍らに置かれた心電図の機械が、昨日以上の威圧感を放っていた。
「やっと来ましたね、検体番号15番。昨日はお兄様に止められてしまったけれど、今日はそうはいきませんよ」
「よろしくお願いいたします、学院長」
「お利口さんになりましたね。電極を着けますから、そこにお立ちなさい」
「かしこまりました」
指定された位置に立つと、控えていた二人の男性看護師が私の身体に電極を貼っていく。一人が四肢に、もう一人が胸元に。無機質な手つきで作業が進む中、私は深呼吸をして鼓動を落ち着かせようとした。
「終わりましたよ。電極を外したら触診いたしますからね。はしたない声を出して、妨害しないようになさいませ」
「かしこまりました、学院長……」
蒼空は私の前に立つと、品定めをするような冷ややかな視線を全身に走らせた。
「昨日も思いましたが、身長の割に豊かな胸ですね。栄養が全部そっちにいってしまったのかしら。……傷や腫瘍の類はなさそうね。でも、乳頭をもうこんなに硬くさせて……だらしない個体ですよ」
「申し訳ございません、蒼空様」
「次、触診します。これは医療行為よ。ハレンチな行為ではなくてよ」
蒼空が手を広げ、私の胸に触れた。
「アァッ……!」
ビシッ!
「はしたない声を出すなと言ったでしょう。お仕置きです。これでも着けてなさい. 口をお開けなさい」
拒否する間もなく、私は猿ぐつわを装着された。口の中にボールが押し込まれ、革のベルトで固定される。
蒼空は二本の指を使い、胸の各所を順に押さえていく。右上、左上、右下、左下。成長途中で感覚が鋭敏になっている部分を直接触られ、抑えきれない吐息が漏れる。
「ん……っ……」
「うるさいですよ。お静かに」
『(申し訳ございません、蒼空様)』
猿ぐつわのせいでまともな謝罪すらできない。蒼空は男性看護師たちが見守る前で、私の胸を上から圧迫したり、指先で肌をなぞったりと、執拗に触診を続けていく。
手のひらで胸の上下を挟むようにして触れられるたび、金属的なノギスとは違う、人間の体温が混じった感触に意識が集中してしまった。胸の次は腋のチェックだ。その最中、彼女の親指がわざとらしく乳頭を掠めていく。
(……っ!)
声が出そうになるのを必死に堪える。今日の私の身体は何かがおかしい。いつもよりもずっと、指先のわずかな動きに過剰に反応してしまう。
「乳頭を直接確認します」
「んぁ……っ!」
思わず喉の奥から声が漏れた。これまでの執拗な触診で、私の意識はすでに混濁していた。
「余程わたくしに構って欲しいようですね。いいでしょう。分泌物が無いか調べないといけませんしね」
蒼空は、医療行為として執拗にそこをしごき、転がし、弾いた。全裸で、しかも男性看護師たちの視線に晒されながら、自分の身体が管理者の指一つで翻弄されていく。その事実に、耐え難い羞恥が込み上げる。
「記録しなさい」
蒼空が命じると、男性看護師が手元のカルテにペンを走らせた。
「検体番号15番。乳房、正常より大きめ。肉質は極めて柔軟で弾力性あり。触診に対し、顕著な生理的反応を確認。乳頭、バランスに対してやや小ぶりだが、感度は極めて良好。……非常に敏感であり、すでに下半身への影響も確認できる」
(濡れていることまで……バレてしまった……)
「いいでしょう。終わりましたよ」
ようやく解放された胸元は、執拗な刺激によって真っ赤に上気していた。
自分の無残な姿を直視できず、ただ目を閉じ、顔を背けることしかできなかった。




