第107話【器・転Ⅷ】〜密やかな聖域、午前2時の嘘〜
全身を愛理様のオイルでヌラヌラと光らせ、鎖で四肢を広げられた私の耳に、カチリ、という不自然な電子音が響いた。
「……シッ、静かに。今だけ、監視の目を盗んだよ」
暗闇から現れたのは、聖蓮叔父様だった。手元の端末を操作する彼の顔は、昼間の冷徹な助手のものではない。その後ろには、悲痛な面持ちの大和様が立っていた。
「大和様……叔父様……? う、動いちゃ……身体が……っ」
愛理様のオイルのせいで、わずかな空気の動きにすら身体が跳ねる。聖蓮叔父様は「可哀想に」と呟きながら、私の首の電気首輪のロックを、ハッキングで一時的に解除した。
「大和、今のうちに。彼女に『本物の熱』を教えてあげなさい」
「……れいな。……っ、すまない。本当に、すまない……!」
大和様が私の拘束された手首を優しく包み込み、そのまま私を抱きしめた。
規律棒の衝撃でも、氷室様の冷たい指先でもない。大和様の、少し汗ばんだ、力強くて温かい『男の身体』の重み。
「ひ……大和様、だめ……っ、わたし、汚い……零号の、おしっこ、飲んだの……っ」
「汚くない。君は、俺の、たった一人の……」
大和様の唇が、私の唇を塞いだ。強引な蹂躙ではない、吸い付くような、震えるほど優しいキス。薬で麻痺していた脳に、大和様の匂いが直接溶け込んでくる。
「……ふぅ。……時間だ。大和、戻しなさい」
聖蓮叔父様の非情な合図に大和様は最期にもう一度、私の額に深いキスを落とした。
「必ず救い出す。……だから、それまで死なないでくれ」
再び首輪が嵌められ、冷たい金属の感触が戻る。監視カメラの赤いランプが再び点灯した時、そこにはいつもの『絶望に沈む001番』のループ映像と、微かに大和様の体温を残したまま、元の姿勢に戻された私だけが残されたが、私の心は温かさで溢れていた。
(久しぶりによく眠れそう。おやすみなさい、大和様、聖蓮叔父様)




