第106話【器・転Ⅶ】〜産毛の処刑、愛理の執拗な純化〜
第106話【器・転Ⅶ】〜産毛の処刑、愛理の執拗な純化〜
「さあ、001号。午後の『身だしなみ』の授業を始めましょうか」
愛理様が、医療用のラテックスグローブをパチンと鳴らす。その目は、慈しみと狂気が混ざり合った、得体の知れない光を湛えていた。
「『器』は、美しくなければならない。毛一本、汚れ一点すら、大元帥閣下の所有物としては許されないのよ」
私は診察台のような冷たい台の上に、大和様の手によって固定された。愛理様は、それを愛おしそうに見つめている。
「大和、彼女の頭をしっかり押さえて。……まずは耳からね」
強力なライトが私を照らす。愛理様は拡大鏡を使い、私の耳の穴の奥、鼻の粘膜、そして指の関節に至るまで、文字通り『くまなく』観察を始めた。
「……あら。まだこんなところに産毛が。これじゃあ、不潔な獣と同じだわ」
冷たい産毛処理用のハサミが耳腔に滑り込む。チ耳の中という、自分では絶対に見えない場所をいくら、刃先が丸まっているとはいえ、ハサミで弄ばれる恐怖に、私は身をすくませた。
「動かないで。耳を切り落としたくないでしょう?」
大和様の冷たい手が、私の頭を万力のように締め付ける。鼻の中も同じように、薄い粘膜をハサミで撫で回され、私は涙と鼻水に溺れそうになった。
やがて、全身の剃毛が終わった。
「……見て、001号。これでやっと、あなたは本当の意味で『無垢な器』に近づいたわ」
鏡に映った私は、眉毛すら整えられすぎ、どこか人間離れした『人形』のような無機質な美しさを纏わされていた。その時、愛理様は次の準備に没頭していて気づかなかったけれど、鏡越しに大和様と目があった。彼の手には、先ほど剃り落とされたばかりの私の産毛が、こっそりと握り込まれていた。
(あぁ...。大和様は私をまだ必要としてくれている...)
私が愛理様にバレない程度に大和様に微笑むと大和様も微笑み返してくれた。このような些細なやり取りでも今の私にとって、すごく嬉しい事だった
「次は……その肌に、私の特製オイルを塗り込んであげましょう。……このオイルを塗り込めば、貴方の肌はもう熱を持たなくなる。閣下に触れられる時、より冷たく、より高貴な触感を与えるためにね
」
愛理様の微笑みは、これから始まる『さらなる改造』を予感させ、私はただ、ヒリヒリと痛む全身を抱えて震えることしかできなかった。




