第99話【器・Ⅳ】〜百夜の孤独、狂い咲く紅〜
聖蓮叔父様にリードを引かれ連れて行かれた場所…。それは今まで暮らしていた寮とは比べ物にならないぐらい、豪華な建物だった。
(私、ここで暮らすんだ。お庭にはひととせ桜まである。でも、ここも学院の敷地内。ただ豪華なだけじゃないよね)
不安と少しの期待を胸にひめ、リードを引く真冬…瀬蓮叔父様の後ろを着いていく。
「れいな、ここが君の新しいお部屋『緋の鳥籠』だよ。この寮の名前は『聖別監獄』と言うそうだよ」
私は部屋を見渡してみた。部屋の中心には、キングサイズだけれど、拘束具が付いたベッド、ガラス張りだけれど、専用のバスルームとトイレまである。
(バスルームの正面に、ベルベットのソファーと大理石のテーブル…これはきっと私の、入浴や排泄を監視するためのものね...。)
部屋の左右には窓が付いていて、鉄格子がハマった、右の窓からは、『4月らしい穏やかな景色』が見えている。左の窓からは、先程見かけた『ひととせ桜』が咲いてるのが見える。
(あら?私が知ってるひととせ桜と違うみたい。なんだか、散る速さが早いような…)
「れいな、気づいたかい?左右で季節の流れが違うだろう?だけど、君が気にすることではないよ」
「仰せのままに、我が主」
私は誓約書によりこの返事以外禁じられている。
「よく覚えていたね。偉いよ」
優しく頭を撫でてくれた。お兄ちゃんみたいに利用しようとしているだけでもいい。私はただ『従順な器』を演じるだけだ。
「さぁ、1番、明日から始まる特別授業に向けて今日は寝かせてあげます。入浴を済ませ、全裸のままベッドに横になりなさい。わたくしが拘束してさしあげます。」
「仰せのままに、我が主」
私は促されるまま、ガラス張りのバスルームへと足を踏み入れた。背後では、聖蓮叔父様がソファに深く腰を下ろし、大理石のテーブルに置かれたティーカップを弄ぶ音が聞こえる。
(見られてる……。でも、ここではそれが『普通』なんだわ…)
私は震える指でシースルーの制服を脱ぎ捨て、全裸になった。鏡張りの天井には、無防備な私の全身が赤裸々に映し出されている。シャワーの熱いお湯を浴びても、心の奥の冷えは取れない。
「1番、お上がりなさい。お薬の時間ですよ」
浴室を出ると、聖蓮叔父様の手には二種類の錠剤があった。一つは、いつもの意識を朦朧とさせる薬。そしてもう一つは……あの日、愛理様に打たれた、自分の意志とは無関係に腰が淫らに動いてしまう薬と同じ成分のもの。
「……っ、あ……」
飲み下した瞬間、胃の底から熱い火が回り始める。足に力が入りにくくなり、立っているだけで腰がくねくねと波打ち始めた。
「ふふ、いい反応です。さあ、その『動く身体』のまま、ベッドへ」
「仰せのままに、我が主」
私は這うようにして、部屋の中央にある黒いベッドへと向かった。
仰向けに横たわると、聖蓮叔父様は手際よく私の両手、両足を革の拘束具で固定していく。カチリ、カチリと、自由が奪われる音が部屋に響く。
「……お、叔父様……。腰が……腰が勝手に動いて、眠れません……っ」
「それでいいのですよ、れいな。貴女は眠っている間も、ご主人様を誘い続ける『器』なのですから」
仕上げに、口にはタオルが詰め込まれ、抜け落ちないように、別のタオルで固定され、声すら出すことはできなくなった。
ふと、横の窓に目をやった。
右の窓の外は、静かな4月の夜闇。
けれど、左の窓の外――『ひととせ桜』は、まるで早送りの映像のように、猛烈な勢いで花びらを散らし、夜の闇を紅く染め上げている。
(嘘……。もう、あんなに散っちゃうの? 明日の朝には、もう夏になっちゃうんじゃないの……?)
狂ったように加速する時の流れと、薬のせいで止まらない身体の疼き。私は一睡もできないまま、この聖別監獄での、最初の夜を迎えることになった。
暗闇の中で、聖蓮叔父様の冷たい視線だけが、私の全てを舐めるように鑑賞し続けていた。




