第98話【器・Ⅲ】〜悪魔の指、帰依の血判と救いの囁き〜
どのくらいの時間が経ったのだろう。
耳元で繰り返される『愛してる、れな』というお兄ちゃんの声と、『二度と触れたくない』という大和様の拒絶。最初は否定していた心も、何度も、何千回も聴かされるうちに、それが『本当の真実』のように思えてくる。
(れなって…お兄ちゃんが、オリエンテーション中連れていたり、この間、椅子にしてた子だよね?愛してる?分からない…私は……お兄ちゃんの妹じゃなかったの? 私は……ただの、1番……?)
「1番、自分が何者かわかりましたか?」
どのぐらい経ったか分からなくなってきた頃。私の耳は何も拾っていないのに、真冬様がいきなり現れた。
「はい…。私は…1番。…淑女養成学院の『極上商品』です…」
「そうです。よく出来ましたね。ご褒美ですよ」
真冬様が優しく抱きしめ、音声を止め、目隠しを取ってくれた。急に明るくなって、クラクラする。
「さて、自分の立場がわかったところで1番、いい事を教えてあげましょう。鏡の前で第四服従姿勢」
「かしこまりました」
鏡の前で、第四服従姿勢をとる私。どうしても腰がくねくね動いてしまう。
(愛理様の薬の効果がまだ残っているのかしら)
「腰をそんなにくねくねさせていやらしい『器』ですね」
「申し訳ございません」
「謝る必要はございません。愛理様の薬に本能が逆らえないのでしょう。いい傾向です。1番、この誓約書に血判を押しなさい」
真冬様に差し出されたれた誓約書…それは私をただの器としてしか見ていない内容だった。
(当たり前か…)
「1番、早くなさい。それともわたくしがあなたの指を切り刻み、その血を誓約書に押し付けてあげましょうか?」
真冬様がナイフを差し出す。
「自分で出来ます」
「いい子ですよ、1番」
真冬様は優しく微笑むと私を抱きしめ、私の耳元で囁いた。そう。まるで内緒バナシでもするかのように…。
「れいな、よくお聞き。僕の本当の名は『春夏秋冬聖蓮』。君の叔父だよ。僕は君を助けたい。従順な器になった振りをしなさい。そうすれば、君が器として完成した時、大元帥様に納品するふりをして助けてあげる」
(私の叔父?どういうこと?)
「よく出来ました、1番。今日からあなたが暮らす特別寮へと向かいますよ。ゴールデンウィークが明けるまでの2週間、あなたにはそこで暮らしていただきます。もちろん、授業には出ていただきますが、 夜は、わたくしが選抜した教師による特別授業を受けていただきます。いいですね、1番」




