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カイジンの冥婚  作者: 小隹雀
第二章 怪人討伐編

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【52話】グリム・リーパー

 死んでしまった美緒は密室から出られない。


攻撃呪文(ラガフォード)

 満足気に飛び立とうとする烏怪人に向かって青色の炎球が投げられた。

 ラウスに直撃しなかった炎球は、美緒が埋められた地点に当たり、水のように広がると爆発する。


「あーあ、台無しにしちゃって」


 その爆発で土が吹き飛ばされ、美緒が入っている石棺が空気に触れた。


(ひろ)ッ!!」


 怒号を出しながら花織が登場する。その後ろには琴、有佐、ももたちの姿も見えた。


 どうして、みんながいるのだろうか——


「全く⋯⋯ここでも邪魔が入るのか」


 古墳の上で童話少女と怪人が対峙する。


攻撃呪文(ラガフォード)

 花織が炎球を放ったことで再び、戦いの火蓋が切られた。怪人は宙に浮いて攻撃を躱す。

 花織の炎球で辺りに砂埃が舞う。


 その中から大きな白猫が現れた。那岐だ。

 那岐は一直線に美緒の元へ駆けてくると、石棺の前で変身を解除した。


 そっか⋯⋯那岐が皆を呼んでくれたんだ。


 棺に指を触れる。


「うっ!!」


 那岐が石棺の蓋に体重を掛けると、重い、重い蓋がズレて美緒の顔が現れる。そのまま蓋は棺から完全に外れた。

 真っ暗な闇に閉じ込められていた美緒であったが、那岐のおかげで太陽のもとに出てこれた。


 だが、依然として生き返ってはおらず一切身動きできない。

 すぐそばでは花織たちが怪人と攻防を繰り返しており、炎球と火縄銃の爆発音が辺りに響き渡っている。一刻も早く戦闘に戻りたい⋯⋯そう願っても美緒が生き返ることはなかった。


 美緒の真上からももが現れる。


復活呪文(レイボルツ)

 美緒は強制的に蘇生された。眩しい光が美緒の目に飛び込んでくる。


「那岐⋯⋯ももちゃん⋯⋯」

「良かった⋯⋯!」


 起き上がった美緒に那岐は腕を回す。


「那岐がみんなを呼んでくれたの⋯⋯?」

「そうだよ。連絡したら飛んで駆けつけてくれてね⋯⋯遠くから美緒と怪人が戦闘している所を見てたんだ」

「そうだったんだ⋯⋯ありがとうございます」

「い~え」

「——よしっ、早くここから逃げよう」

「え⋯⋯?」


 那岐に手を引っ張られるが、美緒は動きを止める。


「どうした?」

「まだ、怪人倒してないよ⋯⋯?」

「そうだけど⋯⋯花織たちに退避してくれって言われてて——」

「やだ!! 私、まだ戦いたい!! あの怪人に負けっぱなしなのやだっ!!」

「でも⋯⋯」

「別にいいんじゃな~い?」


 ももが口を開きながら目配せをしてくる。


「こっちだって一人戦力が増えた方がいいんだし⋯⋯ね?」

「はいっ!!」

「二人が言うんだったら⋯⋯」


 覚悟が決まっている美緒は空を見上げる。

 花織は炎球を撃ちながら宙を舞い続ける怪人に突っ込んでいる。怪人も負けじと火縄銃を発射してくるが、炎壁を展開している有佐が瞬時に割って入ってきて攻撃を防御した。


 花織と有佐はツーマンセルで攻めと守りを両立させている。


「さっき話し合ったのは、攻撃組が花織と漆山さん、援護組が愛宕さんと桜さんで別れるってことと⋯⋯怪人の能力を解明するってことだな」


 その三人が戦闘をしている最中、頭上に一発の黄色い炎球が出現した。

 炎球は空中で停止すると、怪人に向かっていかづちを落とす。


 凄まじい音と光を発しながら落雷したが、炎球を気に掛けていた怪人は寸前で躱した。ラウスは花織たちの攻撃も避けつつ、雷を放った琴を横目で見た。


 その直後、琴の目の前に火縄銃が生み出された。怪人の手元にあるものとは別で、その二丁目の火縄銃はひとりでに浮いている。

 それと同時に火縄銃の方へ、操られた青色の炎球が向かっていく。


 突然テレポートしてきた火縄銃を前に、琴は反射的に横へ回避するのだが、僅かに間に合わず弾丸が右胸を幾分か削ぎ取っていった。


「うっ⋯⋯」

「琴さんッ!!」


 煙を吐いている火縄銃は未だに銃口を琴に向けていた。


防御呪文(グランベール)

 琴は次の怪人の攻撃に備えて炎壁を構築するしかなかった。銃弾で焼けえぐれた肉体の回復は二の次だ。


支援呪文(エルバード)

 痛がり、左手で出血箇所を抑える琴のもとへ回復魔法が飛んでいく。ももが琴の傷を癒やしていた。

 二人は目と目で通じ合っている。


 完全回復した琴は神妙な面持ちになり、炎壁を解除すると同時に地面から飛び上がり、火縄銃から距離を取った。


 そこで再び、琴は第二陣の雷電を用意する。


 対する怪人も火縄銃を増殖させた。ラウスの周りを六つの火縄銃が銃口を花織たちの方を向きながら取り囲み、花織が撃った魔法で火縄銃を発射させていた。

 これは美緒がやられたのと全く同じだ。


 それでも花織は逃げ出すことなく攻撃を続けている。皆、自分の持ち場を理解して敵と交戦しているんだ。


 アタッカーを花織と有佐がやってくれるなら援護に回った方がいいのだろうか⋯⋯


「わかった——ありがとう! それじゃ、行ってくるね!」


 美緒は那岐の話と花織たちの戦闘を頭に叩き込んだ。


「ああ——気を付けてな」

「うんっ!」


 美緒は那岐と手を振るももに見送られながら古墳を飛び立つ。

 飛翔してきた美緒は花織たちが戦闘している高さまで来た。雲よりは高くなく、ショッピングモール程の立端であった。


 そこでは銃弾や雷が行き交う蕪雑な戦場となっているが、花織は臆することなくその間を駆け回っている。

 琴は花織たちが避けてくれることを信頼しているからこそ、遠慮せず炎球を撃てているんだ。それに見習い、美緒も花織を信じて魔法を放つことにした。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒はラウスから距離を取りつつ、琴のように中距離から炎球を撃ち込んだ。


 赤色の炎球が怪人に真っ直ぐ向かっていくが、怪人に当たらず明後日の方向へと飛んでいく。それでも美緒は諦めず、怪人を起点に飛び回りながら炎球を撃ち続ける。


 童話少女たちは怪人を取り囲み、魔法を四方八方から放つ。

 ラウスはそんな童話少女たちの炎球を器用に操っている。そのため一発も怪人にダメージを与えることができない。


 美緒が戦いに参加したことで戦況がより混沌としている。それでも花織は赤と黄色の炎球、火縄銃をかき分けながら、怪人に近距離から魔法を放っている。


 怪人が動きを止めた。そのチャンスを見計らって花織は急激に距離を詰める。


 だが、その間に火縄銃が割り込んできて、銃口が花織の容貌を捉えた。


 すかさず、炎壁を展開していた有佐が護衛に入る。


 その時、花織の身体が斜め上に引っ張られた。


「——っ!!」


 どうやら花織の意思ではないようで、目を丸くしている。


「花織さんッ!!!」


 そこに、前もって配備されていた火縄銃が青い炎球によって着火された。


「はなちゃんッ!!」


 腹部に穴が開いた花織はそのまま墜落する。


「花織さんッ!!!」


 花織を拾いに行こうと下降した有佐の周りを六つの火縄銃が取り囲んだ。


「しまった⋯⋯!」


 有佐が気づいた時には、折り返してきた青色の炎球が再び火縄銃を順に着火し始めた時だった。巣口から勢いよく弾が発射される。

 弾丸を一つ残らず受けた有佐は全身蜂の巣にされる。


「有佐ちゃんッ!!」


 そのまま有佐も花織同様、地面に落ちていった。古墳の上には二人の少女の死体が転がっている。


「そんな⋯⋯」


 怪人は美緒だけじゃなく、他のみんなの行動も操れるのか⋯⋯


 ももは蘇生を行おうとステッキを向けるが、今度は火縄銃が彼女に牙を剥いた。怪人は二人を亡き者にした今、標的をももに変えたようだ。


「うおっと」


防御呪文(グランベール)

 ももは蘇生を中断して炎壁を展開し、攻撃に切り替えることなくその場を後にする。


「ちょっとしつこすぎぃ~」


 ももは追ってくる火縄銃から逃げ惑っていた。蘇生は琴が代わりに行っている。


 怪人と目が合う。


「これでわかっただろ? 君のお仲間たちも大した事ない」


 ダメージを負っていない怪人は悠然とした表情をしている。


「我には遠く及ばないよ」

「そんなの⋯⋯わからないでしょ! だって、勝負はまだついてないんだから!」


 そう意気込んだ美緒であったが策があるわけじゃない。

 美緒も自分でできることを考えてみるが、炎球が当たらないのだからどうしようもなかった。魔法が通用しないなんて今までの敵とは理由が違う。


 打開策なんてあるのだろうか⋯⋯


「まあ、満足するまでやってみたらいい」


 その場しのぎで、美緒は花織の真似をして一人で突っ込む。


攻撃呪文(ラガフォード)

 真っ直ぐ怪人に炎球が飛んでいくが、やはり当たる直前で軌道が変わってしまう。

 怪人は美緒が放った炎球を操作して火縄銃を発射してくるが、美緒は炎壁を展開せずひたすら飛び回って魔法を放ち続けた。


 怪人の撃った弾丸が美緒の足を掠める。こちらの攻撃は当たらないが、美緒はいつ死んでもおかしくない状況だ。


 それでも⋯⋯それでも——


 死ぬのがわかっていても立ち向かい続けなくちゃいけないんだ。


「はああぁぁぁーーーッ!!!」


 美緒は何かに憑依されたように、がむしゃらに攻撃を続けた。

 そんな苦戦している間にも花織と有佐が目を覚ます。


攻撃呪文(ラガフォード)

 二人も美緒に合わせて炎球で応戦してくれる。


 三人は息を合わせ、アクロバット飛行を行いながら怪人の周りを飛び回る。美緒もこれが半年前であったら、目で追うこともできずやられていただろう。


 しかし、これまでいくつもの鍛錬を積んできた美緒にとっては易々たるものだ。味方に誤射しないよう注意を払いながら炎球を撃ち続けた。


 飛行していた美緒の身体が突然、引っ張られる。

 目の前に花織が現れるが回避できっこなかった。


「わあ!!!?」


 二人がぶつかると同時に、二本の火縄銃が美緒と花織に照準を合わせる。


「うが——ッ」


 連続して発射された弾丸は二人の心臓を貫いた。


 即死であった。


 痛みに苦しむこともなく撃墜された美緒と花織は、脳天を下にして落下していく。

 戦場には有佐が一人残されたが、有佐は美緒たちがいなくても変わらず攻撃を継続している。


 地面ではももが美緒たちに向かってステッキを構えていた。


復活呪文(レイボルツ)

 先程とは違い、ももが美緒と花織を地に落ちる前に蘇生してくれたため、すぐに復活を遂げる。

 息を吹き返した花織は、空中で起き上がると瞬時に戦闘に戻っていく。美緒はそのままゆっくりと下降し、古墳に足を付けた。


 頭上では炎球が弾けて煙が広がっている。琴は、美緒と花織、有佐が放った炎球を自身の魔法で相殺処理しているようだ。怪人が操っている赤、青、紫の炎球に次々と雷が落ち爆発していく。


 その開いた道を花織が滑空して攻撃を行っている。


 どうしよ⋯⋯どうしよ⋯⋯全く、怪人の弱点が見つからない。こちらの方が数も有利なのに魔法を当てられやしない。


 この怪人を倒すなんて、本当にできるのだろうか——


「大丈夫か⋯⋯?」


 美緒の元へ心配した顔をしている那岐が駆けつける。

 美緒はその真っ白な毛並みを撫でて微笑む。


「大丈夫だよっ。でも⋯⋯」


 美緒は那岐に抱きついて気持ちを落ち着かせる。あれだけ二人が命を懸けてるんだから頑張らないと。


「——よしっ! じゃ、行ってくるね!」


 美緒は那岐に別れを告げて空へと飛び立つ。

 美緒が上空で二人と合流する前に、有佐が火縄銃に撃たれるが、すかさずももが蘇らせた。


 美緒たちは琴に外れた炎球の処理、ももに蘇生を任せて攻撃に専念する。

 後方を狙って火縄銃が発射されるが、ももは大きな白い猫に跨って戦場を駆けているため難なく怪人の攻撃を躱す。


 だが、いくら攻撃に全力を尽くせるようになっても魔法が怪人に当たらないのだからしょうがない。三人は炎球が操られない距離を探りながら魔法を打つしかなかった。


 対する怪人は、的確に美緒たちを火縄銃で射抜いてくる。


 その度にももが蘇生してくれるためすぐに戦線復帰できる。美緒たちは死んでも死んでも怪人に立ち向かい、ゾンビ戦法でゴリ押していく。


「はあー⋯⋯まだやるのか? これだけキリがないと退屈だよ」

「だったら、大人しく死んでッ!!」

「なぜ、我が死ななくてはならないんだ」


 ラウスは花織にそう言い捨てながら美緒の方を見る。


「⋯⋯まあ、君が投降してくれるなら考えるよ」


 投降なんてするわけな⋯⋯⋯⋯いや、あの方法だったら怪人を倒せるかもしれない——


「⋯⋯わかった」

「美緒ッ!!」

「何でですか!?」

「こんな短時間で心境が変わってくれたんだね。嬉しいよ。これだったら付き合って正解だったな」


 怪人は美緒の目の前に火縄銃を用意する。


「だったら、これで自決してくれ」


 困惑している花織と有佐を横目に、美緒は自身に銃口を向けている火縄銃に狙いを定めて魔法を放つ。


攻撃呪文(ラガフォード)

 勢いよく飛んでいった炎球が火縄銃を着火させると、目にも留まらぬ速さで弾丸が跳ね返ってきた。

 美緒はもう一つの炎球を生み出していたものの、放つ前に弾丸によって大爆発が起きる。


「ふんっ」


 怪人は薄気味悪い笑みを浮かべていた。

 黒煙の中から出てきた美緒は地に向かって真っ逆さまに落ちていく。


「美緒ッ!!」


 その地面からは那岐の声が聞こえてきたが、触れることさえ叶わない。美緒は怪人に手繰り寄せられて、肩に担がれる。


「それじゃ、この子はもらっていくよ。墓に入れられなかったのは残念だけどね」

「ま、待って!!」


 呼び止める花織であったが、天高くまで伸びてきたツル植物によって手足を縛られる。他の童話少女たちも同様に、自由を奪われた。

 今になってみんなを拘束するなんて⋯⋯この怪人、今まで手を抜いていたのだろうか。


「逃げるのかッ!!」


 有佐が怒鳴りつけるが怪人は軽くあしらう。


「当然だよ。何度でも蘇る君たちとは違うからね」


 ラウスは美緒を抱えたまま赤城山の方角へと去っていく。鎖に繋がれている花織たちは後を追いかけられない。


 花織の涙に濡れた叫び声がここまで聞こえてくる。


 美緒は彼女のためにも勝負をつけなくてはならない。


 怪人がだだっ広い緑の芝生の上空を通過したその時、美緒は覚悟を決めた。美緒は先程の爆発から片時も離すことなかったステッキを強く握りしめる。


「起きてるんでしょ?」


 怪人と目が合った。


 なんで⋯⋯


「同じ手は二度も通用しないよ」


 怪人に美緒の死んだふりは効かなかった。どうして美緒の作戦がバレたのかさっぱりわからない。


 空中に火縄銃が突如として出現する。


 怪人は花織たちを拘束したツル植物を再び出現させたが、美緒の手足を縛るでもなく火縄銃の方へ伸びていく。

 よく見てみると先端が赤く燃えていた。どうやら、美緒たちの戦闘で飛び火した街路樹から火種を移してきたようだ。


 メラメラと燃える炎が火縄銃を着火させる。


「うッ」


 美緒は寸での所で銃弾を回避でき、すぐさま反撃を入れる。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒の放った炎球が真っ直ぐ怪人へと飛んでいく。当たる直前になってもラウスは炎球を操ったりしない。

 大爆発が起き、辺りは煙で何も見えなくなる。


 これは、さっき美緒が使ったやり方と同じで、怪人は無傷であろう。どこから出てきても対処できるよう、美緒はステッキを構えて警戒する。


「今度は我の城に招待するよ」


 からっ風が勢いよく吹き付ける。


「消えた⋯⋯」


 煙が晴れると、そこに怪人の姿はなかった。


「美緒!!」

「美緒ちゃん!!」

「浅間さん!!」


 先程美緒が連れ去られた場所から花織と、その後ろから琴、有佐が飛んできて、芝生に降り立つ。

 花織は目頭を赤くしながら美緒に抱きつく。


「良かった⋯⋯連れ去られてなくて⋯⋯」

「ごめんね。怪人倒せなかった」

「いいんだよ⋯⋯! 美緒が無事なら」


 遅れてもももやってきて、肩には白猫が乗っかっている。


支援呪文(エルバード)

 ももが回復魔法を美緒にかけてくれる。


「平気ぃ~?」

「ありがとうございます!」


 那岐はももの肩から降りると美緒に走り寄る。


「那岐もありがとうね~」


 美緒は猫のほっぺたを揉みしだく。


 そんな最中、一同の足を何かが揺らす——


 胸に那岐を抱きかかえながら、美緒たちは地面を蹴って上空から状況を窺う。

 さっきまで存在していた前方後円墳が唸りを上げながら、地中へと沈んでいく。すると、飛行場跡地から姿形を残さず綺麗さっぱり消え、何事もなかったかのように元通りの農地が広がっている。


 歴史ある大事なこの土地は未来へと飛び立つ準備ができた。


 討伐こそ出来なかったものの収穫はたくさん得られた。当初の目的通り、怪人の能力を大分把握できたんじゃないかと思う。


 来たる次の戦に向けて、童話少女たちは軍評定を開く。

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