【49話】あがない
サイリング社の現場責任者、平塚挂は社長の庚申新一郎に呼び出され、駅前の本社にやってきていた。
平塚はお腹に手を置き、一呼吸を終えてから新一郎のいる部屋を叩く。
「失礼します」
「やっときたな。⋯⋯どうしたんだ、そんな浮かない顔をして——」
新一郎は愉悦じみた笑顔を浮かべる。
「そうだったそうだった。告発が失敗した平塚くんじゃないか!」
平塚は歯を食いしばることしかできない。
「お前も生きるのが下手くそだよな。ただ与えられたことをこなすだけで評価される簡単な仕事なんだが⋯⋯そんなこともわからない無能だから俺を貶めようとしたんだよな」
新一郎は平塚が手にしている紙の束に目を落とす。
「なんだ、それは。ひょっとして辞表か? 言っとくけど、簡単に辞めさせねえーからな。お前は死ぬまでここでこき使ってやるから覚悟しておけよ」
辞めるためにきたんじゃない⋯⋯
あなたを止めるためにきたんだ——
「今からでも考え直してください」
「は?」
平塚は書類を机に叩きつける。
それは非接触事故、雨天時の走行停止、一方通行の逆走、優先妨害、サーバーとの接続停止、許可されていない逸脱したルート走行、いくつもの車両不備、サイリング社が国交省と公安に報告していない証拠の数々だった。
会社が保有する自動運転トラックは何もかもが基準に達していない。
社長が持ってきた技術というのも他社が開発したデータをただただ継ぎ接ぎで流用した欠陥品だ。レベル4もまともに機能していないのにレベル5なんて到底不可能。
社長は何を焦っているのか⋯⋯
「なぜ、それほどレベル5に固執するんですか」
「そんなの世界初は俺が取るからに決まってるからだ」
この人の自信はPMHDから来ているのか。
「——だとしてももっと時間をかけるべきです⋯⋯! それに、レベル5の運行許可だってまだ出てないんですよ」
「だからなんだ」
シュミレーションの時間だって足りてない。
「データだってまだ集まりきって——」
「だからなんだと言ってるんだッ」
「そんな危険なものを公道に出すわけにはいけません!! 今すぐにでも公開を延期してください!!」
「段取りはこっちで全部やってるんだ」
新一郎がこちらに近づいてくる。
「お前は口答えする前に手を動かせッ!!」
社長が平塚を蹴り飛ばした。
これじゃ⋯⋯これじゃ、また——
「社長、このままだとまた犠牲者を出すことになります⋯⋯! そしたら今度こそこの会社はお終いです!!!」
「だまれだまれッ!!! お前如きが俺に指図するな!!」
この人をここから出してしまえば、あの時のような悲劇が起こってしまう。それでまたもみ消されてしまうのだろう。
やるべきか⋯⋯考え直すべきか⋯⋯。平塚は思案に暮れていた。
「わかったら、さっさと仕事に取りかかれ!!」
この人は考え直す気がさらさらないんだな。
「そうですか⋯⋯」
平塚は腹をくくった。ここでやらなければ、今度は娘が犠牲になるかもしれないんだ。やるしかない。
平塚は立ち上がり上着を一枚脱ぎ捨てる。
「なんだよ⋯⋯それ」
平塚の腹には、珪藻土にニトログリセリンを染み込ませた自作のダイナマイトが何本も括り付けられていた。
「私には無理です」
「は——」
「もう⋯⋯罪のない子たちが死んでしまうことに耐えられません⋯⋯」
目の前にいる社長の姿が湾曲して見えた。
「開発に関わっていた私も社長と同罪です。この赤く血塗られた手で落とし前をつけます」
「おい⋯⋯何を言ってるんだ⋯⋯」
「ここであなたを殺して、私も死にます」
「こ、こんないたずらただじゃおかないぞッ!!」
自然と後方に下がっていく新一郎を平塚はゆっくりと追い詰める。
「やれるやれるやれる⋯⋯」
平塚は新一郎の目だけを真っ直ぐ見ながら、ぶつぶつ呟く。
平塚から距離を取っていた新一郎の背中が壁に当たる。それを見計らって、平塚が物凄い剣幕で社長に襲いかかった。
「社長おぉぉぉォーーーッ!!!」
「平塚アぁぁぁァーーーッ!!!」
平塚は雷管を点火させた。少量の火薬がダイナマイトを同時に起爆させ、平塚の身体を起点に大爆発を引き起こす。
爆発は何もかも吹き飛ばし、天高く黒い煙が上っていく。
辺りには悲鳴と火災報知器の音が響いている。
◇
美緒と那岐は、ねむの木児童公園でデートをしていた。
いつもなら遊具で遊ぶ子供ばかりなのだが、今日はクリスマスマーケットが開催されており家族連れで賑わっている。公園内にはキッチンカーや露店、ノンアイススケートも用意されており子供たちがスケートを体験していた。
「うまっ!」
美緒は熱々のオランダコロッケサンドを頬張った。防寒着を着込むほど寒かった美緒の体温が上がる。
「はい、美緒」
那岐がカリーヴルストなるものを分けようとしてくれたため、美緒は雛鳥のように口を大きく開けた。
「ん~!! こっちも美味しいね、那岐っ」
「そうだな」
カリーヴルストはソーセージにカレー粉をまぶしているドイツの名物料理なのだそう。
美緒がそれを食していると、子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。皆、会場内に設置された氷を使わない樹脂製のスケートを楽しんでいる。
そんな光景を見ていたら、スケートリンクに行った時のことを思い出した。伊香保の屋外リンクもオープンしたみたいだから、また那岐と一緒に行きたいな⋯⋯
その穏やかな日常を何者かが壊しにやってきた。
突然、爆発音が聞こえる。銃声とかではなく、車が爆発した時のような大きな音がここじゃない別の場所から耳に届いた。
「なにっ!?」
この音は公園内にいる人たちにも聞こえたようで、どよめきが広がっている。
「火事か?」
「本当だ、煙出てる⋯⋯」
空高く黒煙が上がっていくのが見えた。
「⋯⋯一応、魔獣じゃないか確認していかない?」
「そうだね」
【変身呪文】
二人は変身し、那岐が肩に乗っかったのを確認すると美緒は飛び立った。
地上から見えなかった火災現場が上空からは鮮明に見えた。線路の向かい側、そこにあるオフィスビルの一室から火の粉があがっている。
既に消防も到着しており、はしご車による消火活動が始まっていた。
「⋯⋯魔獣じゃないみたいだね」
辺りを見渡してもそれらしきものは見えなかった。
ここは美緒たちの出る幕ではないため、高度を落とし地上を目指す。
「うぇッ!?」
美緒は横からの強い力に引っ張られて体勢を崩す。
「美緒ッ!!!」
那岐は振り落とされたが、幸いにもビルの屋上に着地できた。
「那岐ーーーッ!!」
美緒の身体は風に乗って飛ばされてしまう。美緒はこんな体験を以前もしたことがある。
でも、どうして⋯⋯確かに怪人を倒したはずなのに⋯⋯
美緒と那岐の距離がどんどん離れていく。
どんなに足掻いても、見えない何かに縛られており身動きができない。
飛ばされた地点から南に数キロ先の住宅街、そこの一角に竹藪が生い茂っている。
「うわああああ!!!」
美緒はその場所に直角に落ちていった。
「いててっ⋯⋯」
乱暴に降ろされたが、竹の笹で衝撃が吸収されたため怪我はない。
上からは見えなかったが、目の前に人の気配がして美緒はすぐに顔を上げた。
竹藪で覆われたその場所には二人の男性がいる。一人の若い青年は右手に拳を作って突っ立っているだけだが、もう一人の男性は美緒よりも歳が一回り大きそうで竹にツル植物のようなもので身体をくくりつけられている。
「だ、誰ですか⋯⋯?」
この人たちが美緒をここまで連れてきたのだろうか。
「君!! 助けてくれッ!!」
男は泣いて美緒に懇願しているが、横にいる青年がそれを止める。
「はいはい。お前の話は後でね」
その青年の顔に見覚えがあった。生徒会長に顔が似ており、美緒が以前ガラスの靴を落とした時にそれを拾ってくれた人だ。
そんな人がどうしてここに⋯⋯
青年が口を開く。
「浅間美緒。君は幼少期、足を痛めてまともに歩けなくなった」
「え⋯⋯」
「それは乗っていたバスが事故に遭ったからだ。更に、その事故で君のお友達はたくさん死んでしまった⋯⋯そうなんだろ? なんて、悲惨な事故⋯⋯いや、事件だったのだろうか」
「事件⋯⋯」
「君はそのバスに乗り合わせていたのか⋯⋯」
横にいた男の顔が一気に青ざめた。
「どうして知っているの⋯⋯?」
青年はただ微笑むだけで美緒の疑問には答えない。
「君も知っているだろう? その事故を起こした会社はとんずらを決め込んでいる。その張本人がこいつだよ」
「この人が⋯⋯」
「ち、違うんだ!!」
「何が違うんだよ、人間の老いぼれ。我の情報が間違っていると言いたいのか?」
「く⋯⋯ッ」
男は歯ぎしりするだけで無言のままだ。
「だから、可哀想な君にプレゼントを持ってきたんだ。こいつの行く末は、君が決めたら良い」
青年が男の髪の毛を鷲掴みすると、男は平静さを失い枯れそうなほど声を出していた。
「嫌だッ!!! やめてくれ!!!」
「火で炙るなり⋯⋯」
「待ってくれッ!!!」
「心臓を一撃で吹き飛ばしたり⋯⋯」
「お願いだッ!!! 頼む!!!」
「この獲物は君のものだ。自由にしていいよ」
急にそんなことを言われても美緒には判断できなかった。この人の言ってることが本当だとしても、例え悪いことをしたからって人を殺すなんてできっこない。
「私が悪かった!!! どうか、罪を償わせてくれッ!!! ⋯⋯そうだ、君!! 何か欲しいものとかあるだろ!? スマホ——スマホ新しいのに買い替えたいんじゃないか!? いくらでも金は払う!! だから——」
「今更、命乞いか? ⋯⋯まあ、この子をこの世界に引きずりこんできたことは褒めてやろう。だが、我の縄張りで勝手なことは許されない」
青年は含み笑いをしながら美緒の方を振り返る。
「君はあんな古株どもとは違って、とても魅力的だ。特別な童話少女には、それに見合った報酬が必要だろ?」
この人は美緒が童話少女だということを知っている⋯⋯もしかして、この人が花織が探していた怪人なのだろうか。
「お前たちを不幸に導いた者なんだ。どんな卑劣なことをしたって君を誰も咎めたりしない。⋯⋯さあ、どうする?」
「⋯⋯あなたは、本当に事故を起こした会社の人なんですか?」
沈黙していた男は美緒の問いかけに言葉を捻り出す。
「⋯⋯⋯⋯ああ、そうだ」
「だったら、逃げずに被害者全員に事故の補償を支払ってください。それをしてくれたら、私は別に⋯⋯」
男の目の色が変わった。
「わかった!! すぐに払う!! ⋯⋯だから、これで——」
「わざわざこんな場を設けたというのに⋯⋯それだけか? せっかく敵討ちができるチャンスなのだがな」
この結果に青年は不満のようだ。
「私の魔法はそんなことをするためのものじゃない」
「散々、怪人だァー、魔獣だァーっていって亡き者にしてきたのに? こいつにもとどめを刺せよ」
「そんなことしないっ! 悪いことしたんだったら法律で裁かれるべきだ!」
「⋯⋯なぜ、お前らが作りだしたルールに従わなければならないんだ?」
青年は額に血管を浮き上がらせる。
「ここは冥界だ。お前が怪人と魔獣を殺しても罪に問われなかったのはなぜだと思う? この地を治めている我が許したからだ」
青年は苛立ちを隠せていない。
「お前は人だとわかったら殺さないのか?」
「だって⋯⋯怪人ならまだしも、生きてる人をどうこうするつもりはないし——」
さっきまで怒りで沸騰していた怪人の目が急にキョトンとなる。
「はははっ! そういうことか」
突然、青年は笑い始めた。
「それだったら心配いらないよ。こいつはもう死んでるからね」
「え⋯⋯」
「さっきの爆発音聞こえなかったか? あれはこいつが死んだ時の音だよ。⋯⋯いやー、それにしてもナイスタイミングだったな」
青年はこの場に似つかわしくない表情をしている。
「運よく魂が肉体と分離する前に拾えてね。おかげで良い土産になったよ」
死んでると言っても男の外見はとても死者には見えなかった。街中を歩いていたとしても見分けがつかないほどに。
「⋯⋯本当にこの人は死んでるの?」
「そうさ。疑ってるなら試してみるか? 我がこの手を離せば肉体ごと爆発し、取り返しのつかないことになるけど⋯⋯バンッ!!」
「ひっ⋯⋯」
青年は急に大声を出して男を怖がらせていた。
「どうだ、嬉しかろう? これで心置きなく殺せるな」
「⋯⋯できない」
「は?」
「⋯⋯それでも、私にはできない」
いくら死者だからって、怪人や魔獣と同じように始末することなんてできっこなかった。身体が拒否反応を示しているのか、ステッキを持っている右手が小刻みに揺れている。
その様子を怪人はじっと見つめていた。
「そうか。残念だよ」
青年は男の顔を覗く。
「お前はここでお終いだってよ」
「ま、待ってくれッ!! ——ッ!!」
怪人はそう呟くと握っていた拳を胸の前で開く。そうすると、男は灰を舞い散らしながら爆発して死んだ。最期に母音の「あ」も発音できずに。
美緒は顔を引きつらせて、血の気がなくなっていく。
「あ⋯⋯っ、あッ」
地面には黒焦げの人間と見られる死体が転がっている。
「ひ、ひどい⋯⋯」
「酷い? あいつの命を留めていたのは我だ。一分、一秒この世にいられたことに感謝してほしいぐらいだよ」
何もわかりあえない、この感覚⋯⋯この人はやっぱり怪人だ。
「⋯⋯あなたは怪人の彦さんなんですよね?」
「彦が誰だかは知らないけど、我は烏怪人。怪人さ」
「だったら、私がここで殺します⋯⋯!」
「その殺意をさっきの奴にも向けてくれたら嬉しかったんだけどなー」
ラウスは何も持たず美緒に近づいてくる。
相手がどんな手を使ってくるのかさっぱりわからない。美緒は常にステッキを怪人に向け、いつでも魔法を放てられるように警戒する。
その時、歩み寄ってきていたラウスの足が急に止まる。何かを察知したのか辺りを見渡していた。
どこから現れたのかでかい黒い手がラウスに牙を剥く。
ラウスはそれに当たることなく瞬時に避けきった。
竹が生い茂っていてわからなかったが、すぐ近くに巨大な黒い化け物が姿を覗かせている。美緒は以前にもこの黒いのを見たことがあった。
確か、その時にこの怪人と出会ったはず⋯⋯
「またお前か。何度も何度も邪魔しやがって」
ラウスがいる所とは全く別の場所から銃弾が飛んできた。
銃弾は巨大な化け物目掛けて飛んでいくが、美緒の魔法が当たらなかったようにすり抜けていった。
ラウスは舌打ちをすると、美緒の前からも姿を消してしまう。
巨大な化け物は美緒に目もくれず怪人の後を追いかけていった。
「え⋯⋯どういうことなの⋯⋯?」
「美緒ちゃんー!!」
目の前で起きたことに混乱していると、琴の呼ぶ声が聞こえてきた。
「那岐と⋯⋯琴さん!? どうしてここに!?」
琴の肩の上に白猫の那岐が乗っかっている。
「那岐くんが連絡をくれたの! 美緒ちゃんが連れ去られたから一緒に探してほしいって⋯⋯それで、大丈夫? 怪我はない?」
「はい、怪我とかはないんですが⋯⋯私、さっき怪人を見たんです!!」
「怪人!?」
「⋯⋯何があったか説明してもらってもいい?」
美緒は先程の出来事を那岐と琴に説明する。
「⋯⋯⋯⋯で、これが黒焦げの死体です」
「⋯⋯なるほどね。美緒ちゃん、対処してくれてありがとうね」
「いえいえ!」
「このことは私から本部に連絡しておくわ」
「お願いしますっ!」
琴はスマホ片手に、神妙な面持ちで連絡を取りに行った。
那岐が美緒の身体をよじ登って肩に乗っかる。
「その怪人って花織が探してた人か?」
「私も記憶がないからその人かどうかわかんないんだよね⋯⋯」
「だったら、顔を知っている人に写真でも見せてもらうか?」
「それだっ!」
美緒もスマホを取り出し、花織に電話を掛ける。
「もしもし、はなちゃん? さっき、初めて見る怪人に出会ったんだけど——」
「本当!?」
「うんっ! それで、はなちゃんが探してた子かなと思って電話掛けたんだけど、何か写真とかもっ⋯⋯」
「ある!!! 持って行くから場所教えて!!」
「え? 場所は——」
美緒がいる場所をすぐに教えると、花織は電話をすぐに切ってすぐに飛んできた。
「はやっ!?」
「年長の時の写真なんだけど⋯⋯」
花織が手渡した写真には、遊園地にいる幼い花織とその横にいる男の子が映っている。
「どう? この子だった?」
美緒は写真とにらめっこしながら怪人とのやり取りを思い出す。年長さんから高校生ぐらいの歳を取っていたら、同一人物でもおかしくないのかもしれない。美緒は必死に脳内シュミレーションをした結果、そう結論づけた。
「う~ん⋯⋯今の私たちと同じくらいって考えたら似てるかも?」
花織の顔が明るくなる。
「怪人はどっちに行ったの!?」
「あっち行ったけど⋯⋯」
美緒はラウスが飛び去っていった方角を指差す。
「ありがと!!」
「——え、ちょっ、はなちゃん!」
花織はお礼だけ言うとその場から写真を残して、怪人が逃げていった方角に向かっていった。
「行っちゃった⋯⋯」
「それだけ大事な人なんだろうな。俺たちも愛宕さんの電話が終わったら一緒に探そうか」
「うんっ!」
琴の報告が終わった後、竹藪に残されていた死体を警察ではなく害獣業者が引き取りにやってきた。
それを見届けてから美緒たちは花織と一緒に怪人の捜索を行う。
だが、怪人とあれだけ大きかった黒い化け物の姿も見えなくなっており、手がかりは一つもなかった。
一体、どこに消えてしまったのだろうか⋯⋯
◇
報道各局は火災発生を速報で伝え、数時間経った後も情報収集を急いでいた。
『本日、群馬県高崎市のビルの三階で爆発による火災が発生しました。既に火災は消火されましたが、爆発現場で性別不明の焼死体が発見されました。警察はビル責任者である『サイリング社』社長の庚申新一郎に話を聞くと共に——』
報道スタジオにタレコミが届き、ある会社はこんな情報を出した。
『庚申新一郎氏による虚偽の報告、データの改竄を行ったとされる認証不正の情報が入ってきました』
一社が速報を出すと各局も新一郎の悪事を一斉に報道をし始める。
『私たちは、サイリング社のロゴが入ったトラックが山の中で産業廃棄物を捨てていく様子をカメラに収めました』
『会計帳簿を意図的に改竄し、財務諸表に虚偽表示をするよう指示しており——』
『同社が保有する自動運転トラックにはライバル社のシステムをそのまま用いている疑いがあり、不正競争防止法の容疑で裁判所から令状が発行され、事務所と自宅に家宅捜索が入りました』
『警察は責任者である社長の庚申新一郎から事情を聞こうとしましたが、今現在連絡が取れず行方をくらましています』
『先程、ペインティングマウスホールディングスが子会社のサイリング社を切り離すことを発表しました』
どれだけの恨みを買っていたら、これだけ烏に死体を突かれるような報道一色になるのだろうか。
良かった⋯⋯成功したんだ。
だが、こうした姿勢に週刊誌は疑問を呈した。
『報道各局は彼を過剰に持て囃し、彼の悪事を暴く報道をする。こうした姿勢は公共の電波を悪用した業界によるマッチポンプで許されざるべきものではない』
そう紙面にて批判したが速報で伝えられず、一歩遅かった週刊誌は寒空のコンビニで漫画雑誌ばかりが手に取られていく中、隅っこで佇んでいるばかりであった。




