【43話】元島彦
週末、美緒と那岐は高崎駅から直結している電気屋さんを訪れており、ドライヤーの品定めをしていた。
「これかね!?」
「あっちのも良さそうじゃないか?」
展示台には幾つものドライヤーが置いてあり、どれを買ったらいいのかさっぱりわからなかった。
「あー! どうしよ!」
二人がドライヤーコーナーで頭をパンクさせていると店員さんの助け舟が来る。
「こんにちわー! お手伝いできることがあれば何なりと!」
「ドライヤーを探しているんですけど、数が多くて迷っちゃって⋯⋯」
「おすすめってありますか?」
「今ですと、こちらの温度や風量調節など多くの機能が備わっている高機能なドライヤーがおすすめですね! ご夫婦でお買い求めになることが多い人気商品です!」
ドライヤーを持たせてもらったが、結構ガッチリしている。美緒が使う分には問題なさそうであったが、少し重たいような気がした。
「これ、おばあちゃん用なんですけど大丈夫ですかね?」
「あっ、お祖母様用でしたか! でしたら⋯⋯こちらのシンプルで軽量なドライヤーの方がご年配の方にもおすすめできるかもしれません」
こっちのはさっきのよりも軽く、長時間使っても辛さが軽減されるかもしれない。那岐にも手渡し、試してもらう。
「どうかな?」
「いいと思う。問題なく使えそうだな」
「じゃあ、これにします!」
「お買い上げありがとうございます!」
予算もばっちしで、二人は店員さんがおすすめしてくれた物を購入する。
美緒と那岐は表札に『三島』と書かれた家の前までやってきた。袋にドライヤーとお釣りを入れて民家の扉を開ける。
「ただいまー!」
中からおばあちゃん、三島富貴子が現れる。
「あら、おかえりなさい。暑い中ありがとうね。すぐお茶にするから待ってて」
「はーい!」
「ありがとうございます」
那岐は箱からドライヤーを取り出し、美緒が縁側で犬の大福と遊んでいると、おばあちゃんがお盆にお茶と焼きまんじゅうを三本乗せて運んでくる。
「二人共、お使いしてきてもらっちゃって悪かったわね。こっちは近所の人にもらった頂き物なんだけど、良かったら食べて」
「やった~!」
「すみません、いただきます」
那岐はドライヤーをコンセントに繋ぎ、早速おばあちゃんに試してもらう。
「こりゃ、凄い」
「返品もできるみたいですけど、どうですか?」
「大丈夫そうだよ」
ドライヤーから勢いよく風が出て、おばあちゃんも満足げであった。
「前のはえらくガタがきてたから買い替えられて安心したよ。ありがとうね」
「いーえっ!」
美緒と那岐は縁側でおばあちゃんと話しながら焼きまんじゅうを口にした。おばあちゃんは食べないのか、お盆に一本だけ焼きまんじゅうが残されている。
その時、玄関から男の人の声が聞こえてきた。
「おばあちゃーん」
「はいはい、縁側にいますよー」
その声の主は慣れた足取りで縁側へと一直線にやってきた。
「あれ、お客さん?」
「この子たちにお使い頼んでね。はるちゃんの分の焼きまんじゅうもありますからね」
「こんにちわー⋯⋯ってあれ!?」
「元島さん⋯⋯?」
「二人共、この子と知り合いなのかい?」
「自分たちの所の生徒会長ですよ!?」
「元島榛名だ。君たちは見ない顔だけど、何年生なんだい?」
「二年の柴崎那岐です」
「同じく、二年の浅間美緒です! よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく頼むよ」
生徒会長の元島榛名は、美緒たちがここを出た後に入れ違いでおばあちゃんに電話を入れていたみたいだ。
「⋯⋯そうだったのか。祖母のためにありがとう。感謝するよ」
「とんでもない!」
元島榛名のお祖母様が三島のおばあちゃんということはわかったが、元島と三島。二人の名前が違うことに美緒は疑問に思う。
「あれ? でも、苗字が⋯⋯?」
美緒はほっぺにタレを付けながら尋ねる。
「母方のおばあちゃんだからね」
生徒会長は座るでもなく隣の部屋に向かい、仏壇の鐘を鳴らす。そこには園児の格好をした子供の遺影が飾られていた。
それから生徒会長も縁側に座り、おばあちゃんが用意してくれた焼きまんじゅうを食べる。
「⋯⋯あれは、誰の仏壇なんですか?」
「私の弟のだよ」
「会長、弟さんいらしたんですね。初耳です⋯⋯」
「弟は保育園生の時に亡くなっているからね。無理もないよ」
生徒会長は弟の話をしてくれる。
「弟は保育園の卒園旅行で遊園地に行ったんだ。その帰り道、バスが事故を起こした。多くの死傷者を出す大事故になったが、弟の姿はきれいさっぱり消えてしまってね。警察も消防も尽力して探してくれたが今現在も見つかっていない」
「あれ⋯⋯でも、さっき亡くなったって言ってませんでした⋯⋯?」
「家庭裁判所で失踪宣告の申立てが認められたからね。法律上、七年間も行方不明だと死亡したことになるんだ」
「みんなで話し合ったの。気持ちを整理するためにも届け出を出して、一区切りつけようって」
生徒会長に弟がいたことも、その弟が今も見つかっていない、その衝撃で美緒の頭はいっぱいなり言葉が出てこない。
「でも、私は今でも思うんだ。弟がどこかで元気に生きていてくれたらなって」
「⋯⋯私も遊園地じゃないですけど、動物園に卒園旅行で行った帰り道で事故に遭いました。でも、今こうしてピンピンしてますし、弟さんもきっと元気にしてますよ!」
「君も卒園旅行で怪我を⋯⋯こんな偶然もあるんだね」
美緒と那岐は帰り際、隣の部屋に向かい元島榛名の弟さんの仏壇に手を合わせた。




