【4話】クマの化け物
「美緒⋯⋯ッ」
那岐は屍となった美緒を抱きかかえている。
「あれれ~、こんなもんなのー? 一撃で死ぬとかまじよえー」
キャディは薄ら笑いを浮かべている。
「どうしてこんなことを⋯⋯ッ!!」
那岐が歯を食いしばり、怒りをあらわにしているのが見えた。
「挑発を受けたんだから当然でしょ。ここは妾たちの縄張りなんだから」
「美緒がいつ挑発したっていうんだ」
「武器を持ってたじゃない。それは挑発に他ならないって~」
「だからってこんな⋯⋯」
「でもね、安心して。あのキモい連中をストレス発散で殺すだけで、お前みたいな生者を甚振ったりはしないから~」
キャディは熊の化け物を大きなつづらで吸い戻す。手には再び勾玉が握られており、怪人はそれを満足気に見つめている。
「それじゃあね~」
【攻撃呪文】
突然、青く燃えたぎった炎球が怪人めがけて飛んでいく。炎球はサッカーボールほどの大きさであったが怪人はそれを軽々と避けきる。
外れた青色の炎球は、壁に水のように飛び散ってから爆発した。
「え~、まさかの不意打ちー?」
【攻撃呪文】
少女が浮遊しながらキャディに向け、ステッキから紫色に燃えている炎球を放つ。颯爽と登場した少女は炎球と同じ色の髪色をしていた。
「お前たちの縄張りなんかじゃないだろ。ふざけたことぬかしやがって」
しかし、少女の攻撃は怪人に当たることなくテナントの陳列棚に勢いよく当たる。
「いいさ。いくら口で言おうが、この土地を実効支配してきたのは妾だ。妾たちの縄張りが欲しいのなら最初からそう言えよ」
「意味わかんねぇーこと言ってんじゃねーぞ」
キャディは口角を上げ、懐から大きなつづらを取り出す。そこへ黒色の勾玉を入れると、先程の熊の化け物が唸り声を上げながら再び召喚される。
【攻撃呪文】
少女は怪人に向けて魔法を放つが、キャディは化け物の影に隠れて避け切る。化け物は代わりに攻撃を受けつつも、美緒の時と同様に少女目掛けて突進してくる。
【攻撃呪文】
炎球が当たり、ややスピードは落ちるが化け物はお構い無しに歩みを止めない。
少女の目の前まで迫り、化物は爪を立てた腕を振り上げた。
【防御呪文】
少女は化け物の攻撃が当たる寸での所で紫色の炎の壁を構築した。化け物は炎壁に攻撃が防がれると共に、それよりも内側に入り込めない。
少女は構築した畳二畳分の炎壁を取り除き、後ろへと距離を取りつつ化け物にステッキの照準を合わせる。
それに合わせるように化け物も再度少女に立ち向かっていった。
【攻撃呪文】
少女の攻撃の方が速く繰り出され、ステッキから発射された無数の炎球が化け物を貫いた。
その攻撃は大打撃を与えて、化け物は灰を舞い散らした。先程まで化け物が居座っていた所には熊の死骸が五から十体程山積みになって成仏している。
ショッピングモール内は戦闘によって激しく損傷していた。
「ちっ、逃げたか⋯⋯」
怪人はいつの間にか姿を消していた。少女は舌打ちをしながら形態を解き、学校の制服に身を包む。
そして、スマホを手に取りどこかへと電話をかけている。
天から見ていた美緒は脅威が去って心から安堵する。良かった⋯⋯これで那岐は大丈夫だ。
那岐は美緒を抱えながらもその光景を唖然と眺めていたが、美緒が光る輝きで覆われているのに気がつく。
【復活呪文】
倒れ込んでいた美緒は光に全身を包みこまれながら那岐の腕を離れ、宙に浮く。
飛び散っていた血は美緒の元へと吸い込まれ、覆いこんでいた光が消えると、そこには傷ひとつない美緒の姿が現れた。
美緒が目を開けると吃驚した面持ちの那岐が真っ先に視界に入る。手と足、口を動かして那岐に飛びつく。
「那岐ッ!!!」
美緒は一目散に抱きついたが、当の那岐は困惑していた。
「俺⋯⋯また美緒が死んじゃったと思って——」
今度は那岐が倒れそうになる。目の前で繰り広げられた戦闘や死んだと思っていた美緒が生き帰ったりと、頭がパンクしている様子であった。
「大丈夫⋯⋯私は大丈夫だから⋯⋯!」
美緒は感泣し、抱きしめている腕をよりいっそう強める。
二人の周辺に散らばっていた瓦礫はいきなり独りでに動き始め、元あった場所へと戻っていく。ショッピングモールは来た時と変わらぬ光景に戻った。
戦闘があったなんて感じないほど綺麗になったが、熊の死骸の山だけは買い物に来ていた人たちも違和感を募らせるほど場違いな物であった。
「なにこれ」
「え⋯⋯クマ?」
通行人たちのどよめきが聞こえてくる。その野次馬の中には化け物と戦闘していた少女もおり、美緒はその見覚えのある横顔と服装に思いがけず声が出る。
「あの時の——」
戦っている最中は服装が違ったためわからなかったが、葬儀場や焼肉屋、エレベーター前で見た女子高生と瓜二つで、同一人物であった。




