【3話】こけら落とし
焼き肉をお腹いっぱい食べ終わると、美緒は両親に那岐と遊びに行っていいかの確認を取り、お店を出る。
「ごちそうさまでしたー!」
さっき目が合ったあの子のことも聞こうと思ったのだが、既にお店を出ており姿が見えなくなっていた。
那岐は美緒の右手を手に取り怪我の具合を見る。
「本当になんともないな⋯⋯」
「那岐がすぐに冷やしてくれたおかげだよ!」
「でも、ここまですぐに治るものなのか⋯⋯? 一回病院で見てもらった方がいいんじゃ——」
「大丈夫、大丈夫! ⋯⋯それよりさ、行きたい所あるんだけど⋯⋯付き合ってくれない?」
二人は駅前のショッピングモールに向かう。
「やっぱり綺麗〜! もう一回、見ておきたかったんだー!」
アクセサリーショップで美緒は目を輝かせている。ショーケースに展示されているルビーの指輪は、以前に来た時と同様に赤い輝きを見せていた。
「美緒に似合うな」
「ほんと!?」
「うん⋯⋯買うのか?」
「んー、前はすぐにでも買いたいと思ってたんだ。それは『テンション上げたーい!』って思ってたからで⋯⋯」
美緒は那岐を見上げる。
「でも、もうそれどころじゃなくなっちゃったじゃん? だから、買うのはまだおあずけ!」
「そっか⋯⋯買ったら教えてくれ」
「うんっ! 那岐に一番最初に付けて見せるね!」
二人はアクセサリーショップを後にし、美緒が行きたかった店へと那岐を連れて行く。
「じゃーん、服屋!! 今日のお目当てはここ!」
店内にはたくさんのレディースの服が並んでいる。
「病院にいる時なんてずっとパジャマだったからさ、おしゃれしたくて⋯⋯あっ!」
色々な服をかき分け、最終的に真っ白なワンピースを手に取る。
「じゃあ、試着してくるね!」
「わかった。ここで待ってるな」
「覗かないでよー?」
「いいから、着替えてこい」
「あははっ!」
美緒は更衣室に入り服を脱ぐ。
那岐、かわいいって言ってくれるかな⋯⋯
立ち鏡の前で最終確認する。よしっ。万全を尽くし、カーテンに手をかける。
「那岐ー、着替え終わったよー」
「⋯⋯」
「那岐?」
カーテンの前で待機していた那岐は、言葉を発さず立ち尽くしたままだった。
「どう? 夏が似合ういい女?」
「⋯⋯」
「あれ? もしも~し!」
「綺麗——」
那岐は口をやっと開き、ぽつりと言葉をこぼす。
「きれ⋯⋯い、だよ⋯⋯」
那岐は涙ぐみながらも喋っているから声がうわずる。
泣きはじめてしまった那岐を軽く叩く。
「もー、どうした!」
「ごめん⋯⋯」
「花嫁衣裳見たお父さんみたいな反応するじゃん!」
「うっ⋯⋯」
それでも那岐は下を見て俯いている。
「那岐ー、泣かないでよ⋯⋯。私まで⋯⋯」
美緒も泣いている那岐を見て、もらい泣きしそうになった。
◇
二人はアイス屋でキンキンに冷えたアイスを購入する。美緒は先ほど試着した服を購入し、そのまま着てきた。
服は「いいのに」って言ったのだが、那岐が誕生日プレゼントとしてくれた。
「ありがとうね、那岐! プレゼントも買い物にも付き合ってくれて!」
「いいよ。思う存分満喫してくれ」
「うんっ!」
那岐の目頭にはまだほんのり赤みが残っている。それもアイスを食べ歩きしていたらいつの間にか消えていた。
エレベーター前で並んでいると扉が開き、二人は乗り込む。美緒は通行人の後ろ姿にふと目線が向いた。そこには葬式場や焼肉屋で何度も見かけた人物がいる。
那岐と美緒がエレベーターに乗り込むのを確認すると、気怠そうな女子高生はエスカレーターの方へと走っていく。
え⋯⋯跡を付けられてた?
良くない気を感じ取った美緒は眉根を寄せながらも、即決断し那岐の手を取る。
「すみませーん。降ります⋯⋯!」
美緒はエレベーターの人混みをかき分け那岐と共に外に出た。
「どうした、美緒?」
「えーと⋯⋯ごめん! トイレ行きたくて⋯⋯」
「それなら上の階にもあったよ?」
「あっれー⋯⋯そうだったっけ? 久しぶりすぎて忘れちゃった!」
「そっか。——よし、行って来い。いくら着替えあるからって大惨事になるとやばいからな」
「漏らさないって!! じゃあ、行ってくるねっ!」
美緒はトイレの鏡の前でいくらか時間を使った。これで見失ってるだろうか。まあ、杞憂だったら一番いいんだけど⋯⋯
「おまたせー!」
美緒は那岐と合流すると、二人はエレベーターではなくエスカレーターに乗り込む。
幸いにも追っ手の人影は見当たらず、美緒は愁眉を開く。
エスカレーターを降り、フロアを周っているとゲームセンターが見えてきた。店先を覗くと美緒が好きなゲーム『ガールズガイスト』に出てくるステッキが景品になっていた。
「見てみて、那岐! かわいいっ! これちょーほしい!!」
「これ——だいぶ難しそうじゃないか⋯⋯?」
「えー本当?」
美緒は財布から百円を取り出し、三本の爪が付いたアームを動かす。アームはステッキを掴むとそのまま一直線に持ち帰り、獲得口で落とした。
「まじかよ⋯⋯」
「やったー!!」
「美緒、こういうの上手かったっけ?」
「今日、ツイてるのかも!! こんなことってあるんだね!」
美緒は箱を開けて中からステッキを取り出す。
「おおーー! かわいいー!」
「結構出来、良いんだな」
美緒はステッキを手に取り、変身する時の台詞を口に出す。
【変身呪文】
すると、美緒の全身が光に覆われた。身体は赤いドレスに包まれ、足にはガラスの靴が装着される。手にはさっき獲得したばかりの物とは別のステッキが握られていた。
先程買ってもらったワンピースはどこかへ消えてしまい、美緒は一瞬の早着替えを見せる。
「えええー!!!? なにこれなにこれ!!!」
「美緒、何したんだ!?」
「わかんない!!! わかんない!!!」
わけが分からなくなっていた美緒と同様に那岐も慌てふためく。
驚いているのも束の間、後方から声が聞こえてきた。
「まぁーた、縄張り荒らし~?」
振り返った先には民族衣装を身に纏っている女の子がおり、少女は地面から足を離し浮遊しながらこちらに近づいてくる。お人形さんのようなかわいらしい顔立ちをしているが、その顔には挑発的な笑みを浮かべていた。
人間が浮いているのに、通行人は誰一人として気にかける素振りを見せず、不思議がらない。
「妾こそは雀怪人である。お前はなんだ?」
名乗りを上げた少女、キャディはじっと美緒のことを見ている。
「浅間美緒です⋯⋯」
美緒は困惑しながらも自分の名前を言う。
キャディは懐から大きなつづらを取り出した。
「浅間美緒。お前も武器を取れ」
キャディはペットのように美緒の名前をフルネームで呼ぶ。キャディは取り出したつづらに黒く光っている勾玉を入れた。
すると、中から巨大な化け物が飛び出してくる。
化け物は熊の姿を模しているが、とてつもなく大きくショッピングモールのワンフロアの高さでギリギリの大きさだ。
化け物は苛立ち興奮を抑えきれず咆哮をあげ、美緒に睨みをきかせている。
化け物は美緒に向かって突進してくるが、その衝撃的な光景に身体が膠着して動かない。化け物が走っている振動が建物全体を揺らし、それにつれて美緒の心臓も急速に動く。
逃げなきゃいけないのは頭ではわかっているのに足がすくむ。
化け物は爪を立て大きく腕を振りかぶる。
幸せな時間がこんなにも早く終わってしまうのなんて⋯⋯嫌だ! そんなの絶対嫌だ!!!
美緒が手にしているステッキから炎を纏った球体が発射され、化け物の目に直撃する。ゴルフボールほどの大きさの赤い炎球によって化物は一瞬狼狽えた表情を見せた。
「⋯⋯ッ!?」
自分でも何が起こったのか、目の前の出来事に驚きを隠せなかった美緒であったが、化け物はすぐに体勢を立て直し再度美緒に向けて腕を大きく振りかぶる。
成すすべもなく攻撃を受けるしかなかった美緒は、化け物の攻撃で後方に飛ばされる。
「うが⋯⋯ッ」
「美緒ッ!!!?」
美緒の身体は壁に受け止められたがそのまま床に落ち倒れ込む。コンクリート壁を持ってしても衝撃に耐えきれず、壁には円形の巨大な穴が空いている。
倒れ込んだ美緒はドレスごとお腹を爪でえぐられており、そこから大量に出てきた赤色の血が床づたいに広がっていく。
「美緒ッ!! 美緒ッ!!!」
那岐が叫びながら駆け寄り、美緒の身体を揺するが既に息はなく即死であった。




