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童話少女シリーズ  作者: 小隹雀
カイジンの冥婚

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【2話】火で炙って

 医師は聴診器や医療用ペンライトを使って美緒の瞳孔、心肺拍動、呼吸が停止されたことを確認し、死亡判定を下す。

 涙を流す母を父がなだめている。

 那岐は唖然としており一歩も動けていない。


 病院には提携している葬儀場があるが、美緒の祖父母の要望もあって遺体は別の安置所へと運ばれた。

 美緒の遺体は棺の中にあるはずなのに景色を見下ろせ、辺りを眺められている。何なんだろうこの状態⋯⋯お墓に入るまでずっとこうなのかな。


 家族によって遺体を清めて死化粧を施し、死装束を着せてもらう。棺には花や生前使っていた杖が入れられる。


 通夜が執り行われた翌日、告別式が始まる。那岐はどっちにも出席してくれた。

 会場内にはでかでかと浅間美緒(せんげんみお)の遺影が飾られている。

 葬儀場には友達の他にも小、中、高の先生たちも焼香しに来てくれていた。保育園の頃から疎遠になっていた花織の姿も見えた。


 その他には、一度たりとも見たことのない制服を着た女子高生がいる。

「はぁー⋯⋯なんで私がいなくちゃいけないんだよ。既にいるのに」

 目つきが悪い、ダウナーなギャルだ。不機嫌そうにスマホをいじっていたが、一体誰なんだろう。


 葬儀が終わると、美緒が入った棺は寝台車に乗せられて火葬場に移される。

 火葬場には家族の他にも那岐と花織、それとあの女子高生がいた。

 花織は椅子に座り、手を合わせて祈っている。


 7月13日。火葬炉に入れられ、火葬が始まる。点火した炉内は温度が増していき急激に高温となった。大きな炎が美緒を覆う。


 こんなに熱そうなのにもう何も感じない。死ぬってこういうことなんだな。


 火葬技師がこまめに焼けているかの確認巡回をしている。


 長い時間をかけて美緒の肉体は跡形もなく燃やされ、遺骨と遺灰に変わった。


復活呪文(レイボルツ)

 火葬炉の中で爆発が起き、建物全体が大きく揺れる。火葬場にいた人たちの間にどよめきが広がった。


「おい、温度高すぎたんじゃないか!? 今すぐ確認してこい!!」

「はい!!」

 それは従業員も同じで先輩から命じられた火葬技師は急いでのぞき窓から炉内を確認する。


「先輩ッ!!」

 火葬技師はすぐさまスイッチを切り、先輩に確認してもらう。先輩も中を覗くとありえない光景に目を血走らせ火葬炉の扉を開ける。


 中から出てきたのは火葬前と変わらない姿の美緒であった。一緒に備えられた花や杖は燃えているのに美緒は無傷であった。


「どういうことなんですか⋯⋯?」

 初めてのことで従業員たちは美緒を取り囲んで混乱していた。


 あれ⋯⋯火葬されていたはずじゃ⋯⋯?


 美緒が目を開くと自身の周りにいる従業員たちと目が合う。


「きゃっ!?」

 従業員の女性が驚き、尻もちをつく。


 美緒の親族たちも集まってくるがその状況に色を失う。その混乱を見た那岐もその人混みをかき分けながら近づいてくる。


「美緒ッ!?」


 美緒は起き上がり那岐に抱きつく。


「那岐⋯⋯ここにいるよ!」

 涙が溢れてくる。また、こうして那岐に触れられるなんて。


 辺りには恐怖に満ちた目で美緒のことを見ている先程の従業員がいる。他の誰かは忘れてもいいけど、那岐だけでもこの事は覚えていて欲しいな。


 美緒の願いが叶ったのか爆発した火葬炉は綺麗さっぱり元通りに戻り、周囲の人たちの表情も変わる。 

「あれ⋯⋯?」

「何で火葬場に⋯⋯」

「由美さん、どういうことなのかしら?」

「さ、さあ⋯⋯私にもさっぱり⋯⋯」

 母は祖母の言葉をのらりくらりと躱している。


 さっきまで恐怖に慄いていた従業員も何食わぬ顔をしている。誰も美緒のことを気にかけていない。


「美緒⋯⋯本当に美緒なのか!?」

 那岐だけが美緒の事をじっと見て目を丸くさせている。


「うん⋯⋯! 那岐は私のこと覚えてるの?」


 那岐の伸ばした指先が美緒の頬に触れる。

「当然だろ⋯⋯! でも、どういうことなんだ⋯⋯」

「わかんない⋯⋯私もわかんない! でも——」

 美緒は笑い涙を零し、那岐の後ろに回していた手の握りをいっそう強める。

「またこうして会えて嬉しい!!」

 那岐も美緒の背中に手を回す。


「俺もだよ⋯⋯!」

 そっと那岐も抱きしめ返してくれた。


          ◇


 父の誠が音頭を取る。

「では、美緒の退院を祝福しまして⋯⋯」

「乾杯!!」


 焼肉屋に場所を移した一同は持っているジョッキをぶつけ鳴らす。皆、美緒の座っている席まで来てくれ、一人ずつジョッキを当て合う。

「美緒ちゃん、今日誕生日なんだってね。おめでとうね!」

「ありがとうございます!」

「おめでとう!!」

「あおちゃんもありがとー!!」

 柴崎家の父と母、妹の葵も祝福をしてくれる。


 美緒は火葬場で母に食べたいものを聞かれ『お肉っ!』と答えたため祝賀会は焼肉屋で開かれた。


 美緒が死んだことは那岐以外みんなに忘れ去られてしまったようで、怪我が治り退院したという話になっていた。


 美緒はジョッキに入ったコーラを勢いよく飲み込む。

「ぷっはーっ!」

 目の前の席には那岐が座っている。美緒は嬉しくて足をバタバタと机の下で動かす。何故かはわからないが、杖なしでも歩けるようになっていた。


「んふふっ」

「どうした?」

「いや、夢みたいだなって! ⋯⋯って、本当に夢じゃないよねっ!?」

「ああ、夢じゃないよ」

 注文したお肉がすぐに運ばれてきて、テーブルの上に並べられる。


「おおっー!!」

 美緒はトングを手に取り、肉を掴むと網の上に載せる。炎とは距離があるのに熱が皮膚にまで伝わり、すぐさま手を引っ込めた。


 お肉はジュウジュウと美味しそうな音を奏でている。


 店内に漂っていた匂いよりも強く肉の香りが美緒の鼻に入り込む。


「美緒、本当に杖無くて大丈夫なのか? 無理してるとかじゃなく⋯⋯?」

「うん! なんでかわからないけど平気!」

 このお店に来るまでにも、那岐がおぶってくれる提案をしてくれていたが、みんなの前で恥ずかしく断っていた。


 肉をひっくり返すと、綺麗に焼け赤みが消えていた。焼けた肉をご飯に運び、トングから箸に持ち変える。

「いただきまーす!」

 口の中で肉が舌に触れ、噛むごとに肉汁が口全体に広がる。

「うまっ!」

「良かったな。焼き肉も久しぶりだろ?」

「うん! 最高! 生きてるって感じする!」

 美緒は五感をフル活用して生を実感した。


 那岐は美味しそうに肉を頬張る美緒を見て微笑んでいる。

 目が合って、会話ができて、笑みを見せてくれる。本当に、ここに存在しているんだな——


「⋯⋯あれ? 那岐、食べないの?」

 那岐は皿に盛られたお肉に一口も手を付けていなかった。

「うん⋯⋯俺の事は大丈夫だからいっぱい食べな」


 焼き肉の気分じゃなかったのかな。


「じゃあー! 私が食べさせてあげる!!」

 美緒はお肉を箸で掴み、那岐の口の前まで運ぶ。

「いいって⋯⋯」

「ほらほら~!」

「う⋯⋯」

「腕疲れちゃうー」

「⋯⋯」

 那岐は周囲を見渡した末にお肉にかぶりついた。


「⋯⋯ッ」

 それと同時にフラッシュ音が鳴り響く。那岐がためらっている間に周囲にいた人たちが二人を激写していた。


「いやー、いいもん撮れた撮れた」

「由美さん。家に飾りたいから印刷、できるかい?」

「やっておきますね、お義母さん!」

 那岐は呆れたように机に肘をついて頭を抱えている。


「那岐ー、そんな恥ずかしがることじゃないって!」

「さっきはおんぶで恥ずかしがってたのにこれはいいのかよ!」

「やるのはまた別だもん!」

 美緒のスマホが鳴り、通知を開くと母が写真を送ってくれていた。写真はよく撮れており、画角には美緒が那岐に『あーんっ』としている所が収められていた。


 ⋯⋯もしかして、ないと思っていた未来もあるのかな。


 美味しいもの食べたり、買い物したり、いっぱい遊んでデートなんかもしちゃったりして⋯⋯やりたいことが無限に思い浮かぶ。

「あつッ!?」

 美緒の手首が熱を発した七輪の金属部分に触れる。妄想に浸ってよそ見をしていたばかりに。


 那岐は水滴のついたジョッキをすぐさま美緒の手首に当てる。

「平気か!?」

「うん⋯⋯えへへ、ありがとっ。ちょっと熱かった!」

 やけどした所からヒリヒリとした痛みを感じる。手首とジョッキの間を恐る恐る見てみると、皮膚が赤みがかっていた。


 那岐はスマホを手に取り、やけどについて調べてくれる。

「10分ぐらい、そのまま冷やしておいた方がいいみたい」

「わかった! ありがと!」

 左手にジョッキを持ち、利き手の手首にそれを当てた。まだ、痛みを感じる。


 那岐はトングを持ち、焼けた肉を一旦自分の皿に載せた。それから箸に持ち替え、肉を冷ましてから美緒の口の前に持って行く。

「美緒っ」

「あー⋯⋯!」

 美緒は雛鳥のように大きく口を開け待つ。


 肉は美緒の舌の上に置かれる。

「ん~!」

 那岐はここぞとばかりにやり返してきたが、美緒は満更でもなく肉の美味しさを堪能する。


 あれ⋯⋯


 美緒は違和感を感じ、やけどした箇所を確認するがさっきまでの痛みは消え赤みも消えていた。こんなに早く治るものなのかな。


 だが、まだ10分経っていなかったので再度ジョッキを手首に当て直す。

「他のみんなは私が死んだことはなかったことになってるじゃん? 那岐目線はどうなっているの?」

「今年の三月に入院したっきりで目を覚さず、今日火葬したら姿形変わらず今ここにいる」

「やっぱりそうだよね。何で生き返れたんだ⋯⋯?」


 美緒は唸りをあげて考えた末に閃く。

「私、幽霊だったりしてッ!?」

「火傷するそそっかしい幽霊はいないだろ」

「あー! 言ったなっ!」


「⋯⋯でもさ。幽霊でも何でも、またこうして会いに来てくれて嬉しいよ」

 この人はいつも面と向かってこういうことを言ってくる。


「もー⋯⋯はいっ」

 とっくに火傷の痛みは無くなっていたが、口を開けて那岐におねだりする。

「はいはい」

「おいしっ~⋯⋯って、ん?」


 お肉を咀嚼している間に別の卓にいた女子高生と目が合った。葬式場や火葬場で姿を見たあの子だ。


 女子高生は美緒と目が合うと一瞬にして視線を逸らした。

「どうかしたか?」

 一点を見つめる美緒を疑問に思い、那岐も目線の先を振り返る。

「ううん⋯⋯なんでもない!」

 知らないだけで親戚だったりするのかな。


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