【33話】特別軍事作戦
怪人を全て倒すと決意を決めた浅間美緒は、愛宕琴によって作戦本部に招待される。
家の前まで来た迎えの車両には、琴と運転席には以前も会ったお姉さんが乗っていた。美緒と那岐が乗り込むと車は動き始める。
車は新幹線の高架をくぐり直進していくと、窓からひときわ大きな建物が見えた。自動車もその場所を目指して方向転換をする。
イベント施設の一階乗り合い場で車が停まると琴が先導となり、美緒と那岐は後を追う。
今日は催し物をしているようで、建物に入ると人が大勢いて賑わいを見せている。人々の手にはおちょこがあり、お酒を味見してまわっていた。
琴はイベント会場を素通りしてエレベーターに乗り込む。
エレベーターの階数表示は一階から四階の表示しかないが、琴は慣れた手つきで一と書かれた数字を三回押す。
現在地は一階のはずで、下に行く表記も書かれていなかったがエレベーターは下へ降りていく。
「えっ!?」
「これ、どこに行くんですか?」
「この下に作戦本部があるからね」
建物フロア数回分を下がった所でエレベーターは動きを止める。
到着音と共にエレベーターの扉が開く。そこには建物の廊下となる所に扉があり『関係者以外侵入禁止』『許可なく侵入はできません。引き返してください』と警告文が書かれているポスターが貼り付けられている。天井に設置されている監視カメラは赤く点滅していた。
「こんな地中に建物があったんですね⋯⋯」
「そうなの。驚いたでしょ? ちょっと前まではこの上を馬が走ってたのよ」
「馬!?」
琴が扉を開けると通路の先には警備員が立っていた。
『来訪者三名。来ました』
警備員は無線で監視室とやり取りをしており、手にはMP5を携えている。
「こんにちは」
「こんにちは⋯⋯」
琴は何のこともなく挨拶をして通り過ぎた。それに連れられ、二人も挨拶をすると警備員は軽く会釈をする。
「凄いですね!! 銃持ってましたよ!?」
「あの人は何している方なんですか?」
「この施設を守ってくれている警備隊の人だね」
研究及び関連施設特別警備隊が施設の護衛にあたるため常駐しているそうだ。
「地上階はイベントスペース。そこから地下に潜ったここに本部システムを集めてて、ここが大打撃を受けると大変なことになっちゃう。だから、警備にあたってもらっているの」
琴がそんな説明をしながら、部屋の扉前に案内されるまで何人もの警備隊とすれ違った。その誰もが例外なく武器を携えており、物々しい雰囲気をしている。
琴が扉を開けると少女が既に二人集合していた。奥でスマホをいじっているのは漆山有佐であったが、もう一人は初対面の人だ。
桃色の髪色をした少女は顔が小さく小柄であった。
「おぉ!? かっこいい人、入ってきた~!」
少女は目を見開いている。
「じゃあ、改めて二人の紹介をすると、有佐ちゃんとももちゃんね!」
ももは元気いっぱいに手を挙げる。
「はいは~い。ももちゃんだよー!」
聞き覚えのある声に美緒の眉が上がる。
「——で、こっちが美緒ちゃんと那岐くん! みんな仲良くしてね!」
「よろしくお願いします」
「お願いしますっ!」
「おー!! あのみーみかー!」
「そうです⋯⋯!」
もも、も美緒の声を聞いて思い出したのか興奮していた。回収業者の電話の受け手をよくしていた桜ももは聞き知った声だ。
「あとはまあ⋯⋯基本的には今日集まったこのメンバーで作戦を実行することになるから覚えておいてね」
琴は怪人の討伐作戦に向けた情報共有を行う。
「わたしたちが童話少女となって数年、この街に出没したいくつもの怪人を討伐することに成功しているの。⋯⋯でもね、順調に倒してきたわたしたちだったんだけど、今生き残っている怪人の討伐に苦戦し始めちゃってね。どうも、生き延びている怪人は逃げ足の速い個体が残ってしまったみたいなの。その内の二体が——」
「先日戦った怪人たちなんですね?」
「そう! その内の一体を美緒ちゃんと那岐くんが討伐に成功して、戦況を大きく動かしてくれた! 凄く感謝しているの!」
「それほどでも~~っ!」
「わたしとしては美緒ちゃんが童話少女になったその日から、二人に作戦の同行をしてもらいたかったけどずっと反対されてね。だけど、その説得に時間がかかっているうちに二人は短期間で快挙を成し遂げ、長期間変わらなかった膠着状態を解いてみせた⋯⋯!」
琴は美緒と那岐の方を向き、慈愛に満ちた瞳になっている。
「この結果にわたしも強く出れて、反対を押し切ることができた。それでね、二人には改めて、作戦に加入してもらいたくて今日来てもらったのだけど⋯⋯どうかしら?」
「やります!!」
「もちろん、断ってもらっても大丈夫なのよ?」
「やれます!! 私たち、怪人を倒すって決めましたから!!」
「俺も同じです」
「ありがとうね、二人とも⋯⋯!」
「じゃ、ももはここでだらだらしてるからさ。さっさと倒してきて~」
「ももちゃんもやるのよ?」
「えー」
ももはあまり興味がないのか気怠そうにしていた。
「そうだ。生き残っているのは、あの雀怪人で最後なんですか?」
「いいえ。もう一体いるの」
「もう一体!?」
「二人はまだ見たことない?」
「ないですね」
「私もないです!!」
「親玉のそいつを倒したら、ももたちの役目はお仕舞い~」
「親玉⋯⋯?」
「怪人を生み出しているボスね。今、わたしたちが確認できているかぎりでは、この街で新たに怪人は生まれていないんだけどね」
「要するに、そいつを倒せば全部終わるんですね⋯⋯!」
「ええ——」
目標ができた美緒は両手に拳を作る。
それを見かねた琴は手をポンッと一回叩き、美緒と目を合わせる。
「それとね⋯⋯この作戦に巻き込んでいるわたしたちが言うことじゃないかもだけど、怪人を倒すことにばっかり注力しないで。焦りは禁物で、しっかりと那岐くんといっぱい遊んで息抜きするのも大切だからね。⋯⋯これが条件だから」
美緒が横を振り向くと、那岐は頷いていた。
「はいっ!」
琴に大事なことを忠告され美緒は心に留める。
自己紹介と情報を共有し終えた一同は解散する流れとなるが、今後の意思疎通を円滑にするため、この場にいるメンバーの連絡網グループが出来た。
有佐は相変わらず携帯をいじりながらグループにも入っていない。
スマホの操作を終えたももが那岐の方に近づいてくる。
「——ねぇ、ねぇ、なーくん。一緒にお茶でも行かないー?」
美緒は危険を察知して間に割り込む。
「おーい、何だよ!」
「だめですっ!」
「⋯⋯たっく。じゃあ、ついでにみーみも来ていいよ!」
「ついでってなんですか!」
その様子を那岐と琴は温かい表情で眺めている。
「嫌がってんだからやめろよ⋯⋯」
それまでスマホをいじって沈黙していた有佐が口を開く。
「え~。なさにゃんには関係ないでしょ?」
「おめぇーな——」
話しかけるなら今がチャンスかな。
「あのー⋯⋯有佐さんは、このグループ入らないんですか?」
美緒はスマホを指差して尋ねる。
「⋯⋯入ります」
あれ? 今まで敬語使われてたっけ?
「あと『さん』付けはいいです。自分、浅間さんの一個下なんで⋯⋯」
「え⋯⋯?」
急にどうしたんだろうか。前まではもっと元気だったのに、今は萎れた花のように落ち着いている。
「あ~——この子、みーみが自分より弱いと思ってたらあっという間に怪人倒しちゃうし、怖くて怖気づいちゃったんだと思うよ? 自分が一番弱いことを知ったワンちゃんは吠えることもできませーん! 世界って残酷~」
「はあ!? おめぇーが一番弱いだろうが!!」
「少なくとも、なさにゃんより上ですー」
「こんな安全圏に引きこもってる奴のどこが強いんだ??」
「体力温存中だしっ」
「温存中って⋯⋯ろくに魔獣と戦ってねぇーくせに!!」
「最近戦いましたー! おっきなクマさん倒したしーっ」
「そうだわ。あん時もお前、真っ先に帰りやがって——」
「よしっ。わたしたちは帰りましょっか」
二人の口論を横目に琴は部屋のドアへ向かって歩いていく。
「そうだ! もものことも『さん』付けで呼んでよ。なさにゃんっ」
「誰がお前なんかに付けるか!!」
三人が部屋を退出する間際も有佐とももは言い争いを続けていた。
美緒は立ち去る前に有佐の元へと駆け寄り、手を握る。
「私、ずっとお礼言いたかったんだっ」
「え⋯⋯」
「有佐さ——有佐ちゃんのお陰で、私あの魔獣倒せたし感謝してるんだ!! ありがとう!!」
「浅間さん⋯⋯」
「ワンちゃん。頭でも撫でてもらいな」
「黙れッ!!」
「こう⋯⋯?」
美緒の手にサラサラとした有佐の髪の毛が触れる。
「浅間さん⋯⋯! あんな奴の言う事何か聞かなくていいんですよ!!」
「あら~なさにゃん。ご主人様に頭撫でてもらってかわいいでちゅねー」
「死ねッ!!!」
「もう死んでます~」
行きと同様に美緒と那岐、琴の三人は自動車に乗り込み送迎してもらう。
「面白い人たちだったね」
「ねっ!」
車両は美緒の家の前に到着し、美緒と那岐は車から降りた。
「あの二人はいつもあんな感じだけど、仲良くしてあげて? それと、何かあったら遠慮なく本部に来て、助け求めに来てね!」
そう言い残すと琴を乗せた車は発進して行った。




