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カイジンの冥婚  作者: 小隹雀
第一章 魔獣討伐編

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【30話】紅白

 鶴は広場からほど近い建物屋上にコトンと足を置くと、羽を大きく羽ばたかせる。

 地上に向けて送られた風は立っているのがやっとなほどの威力だった。


「那岐ー!! あれ魔獣だよねー!?」

「そうみたいだなー!」


 強風で声が届くのもやっとなため美緒は伊吹と花織をこの場に残し、那岐を連れて風を防げる建物の影を目指した。


 魔獣の姿が見えなくなると風も当たらず、美緒はそこで童話少女に変身する。


【変身呪文】


「——美緒!」


 那岐はドレスを身に纏った美緒の手を掴む。


「本当に大丈夫なのか⋯⋯? 美緒が無理にやらなくても——他の誰かに任せたっていい、辞めたっていいんだよ」


 那岐はこの前の戦いからずっと心配してくれてたんだ。


「ううん。剣崎さんとも怪人を倒すって約束したし、こんな魔獣如きでへこたれたくない! それに——」


 美緒は那岐に掴まれた手を両手で握り返す。


「私、那岐がいたら大丈夫っ! なんだってできる気がするんだ! だからさ⋯⋯傍にいて?」

「ああ——」


 那岐も美緒の手を両手で握り返す。


「もちろん。ずっと傍にいるよ」


 那岐は猫に変身した。

 那岐を肩に乗せた美緒は上空へと上昇していく。


 魔獣は相変わらず建物屋上で広場に向かって風を叩きつけている。何が目的でそんなことをしているのかさっぱりだった。


 そんな魔獣と目が合う——


 群衆に向けられていた風は消え、魔獣の標的は美緒たちに変更された。魔獣が二人目掛けて羽を羽ばたかせる。


「うわああああぁぁぁー!!」

「う⋯⋯ッ」


 今度は風を直で受けることになったため美緒は吹き飛ばされかけた。


「大丈夫、那岐!?」

「ああ——大丈夫だよ」


 なんとか体制を戻し、那岐も美緒の肩にしがみついたことで墜落を免れる。


「良かった! 何とかして近づくからしっかり掴まっててねっ!」


 美緒は強風に打ちつけられながらも再度立ち向かう。でも、思ったより風は強く魔獣に近づけもしない。 

 仕方ない。距離があって逃げられるかもしれないけど、ここから攻撃しよう。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒が放った炎球は魔獣目掛けて真っ直ぐ飛んでいった。


「わ!!!?」


 予想だにせず、炎球は魔獣に当たること無く美緒の元へと返ってくる。美緒の放った炎球は魔獣の強力な風で吹き戻されたようであった。


「こんなのってありッ!?」


 危うく美緒は、自身の魔法で怪我をする所であった。


「じゃあ⋯⋯今度は!」


 美緒はどうにか後ろを取ろうと魔獣の周りを飛び回る。

 だが、どんなに奮闘しようと魔獣は向きを変え、美緒たちをロックオンし風を吹きつけてくる。これでは埒が明かなかった。


 美緒は建物の影に隠れて那岐と作戦会議をする。


「どうしたらいいと思う!?」

「美緒はどうにか魔獣の気を引けないか? ——俺、中から近づいて裏取れないかやってみるよ」

「それいいかも⋯⋯! やってみる!!」


 美緒と那岐はグータッチして、二手に別れた。那岐は烏合(うごう)(しゅう)の足元を駆けていく。


「それじゃ、どうやって時間を稼ごうか⋯⋯」


 美緒はなるべく建物伝いに魔獣へと近づいていく。

 美緒には魔獣の位置が大体把握できていたので、手とステッキだけ壁から露出する。


攻撃呪文(ラガフォード)

 放たれた数発の炎球は魔獣目掛けて飛んでいったが、全弾打ち返されてしまった。


「バレてるの⋯⋯?」


 状況確認のため壁から目を出すが、眼球に風が当たり思わず瞼を閉じる。魔獣は既にこちらに気がついているようだ。異常に索敵能力が高い。


「それだったら——」


 美緒は思い切って飛び立ち、魔獣に正面から立ち向かう。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒は逃げも隠れもせず、魔獣の周りを飛び回って攻撃していく。何発も何発も炎球を違った角度から放つ。


「那岐がくるまで持ち堪えられたらそれで⋯⋯」


 風で返されることを承知で、その後も炎球を打ち込む。

 その時、魔獣がいる建物屋上の扉が開かれた。隙間から白い毛が見える。


「那岐⋯⋯!」


 勢いよく飛び出た那岐は魔獣の背後を取り襲いかかる。


 魔獣は美緒をロックオンしていたはずが、急に後ろを振り返り那岐に風を当てた。


「う——ッ」

「那岐ッ!!!」


 強風を直でくらった那岐は屋上から放り落とされてしまった。


「くっ——」


 那岐のことが心配であったが、美緒はこれをチャンスと捉えてステッキを構える。


攻撃呪文(ラガフォード)

 魔獣が那岐を注視している間に炎球を撃ち込みながら突っ込む。


 だが、魔獣はまたしても背後の美緒の存在を把握しており、強風を当ててきた。


「うわああぁぁァーーー!!!」


 美緒は敢え無く吹き飛ばされてしまったが地面への激突は免れた。

 魔獣は二人に囲まれると上空に飛び立つ。


 那岐のことを探しにいかないと——


「那岐ーッ! 那岐ーッ!」

「美緒ー! ここだー!」


 声のする方へと駆け寄るとコンクリートの上に白い猫が見える。那岐は上手く地面に着地していた。


「那岐ッ!! 怪我は!?」

「俺は大丈夫」

「良かった⋯⋯!」


「でも、ごめんな⋯⋯まさか、あんな近づけもしないなんて——」

「ううん。大丈夫!」


 魔獣はさっきまでいた屋上の更に上、赤と白の鉄塔のてっぺんに移動していた。魔獣はまだ美緒たちを警戒しており鋭い目つきを二人に向けている。


「じゃあ、倒してくる——! 那岐はここで待っててっ!」

「一人で行くのか!?」

「うん! 次は私の番! ここなら真下から登れるし、多分いけると思う!」

「美緒ッ——」


 美緒は那岐をその場に残し、鉄塔の真下までやってきた。


 真下から潜り込んだ美緒は、鉄塔に取り付けられた梯子のスペースを使い、飛んで上昇していく。人一人分のスペースしかないが、ここなら魔獣の攻撃も当たらず楽に近づけれた。

 鉄塔の一段下、移動スペースまで登ってくることができる。風が通れる金網状になっているのだが、魔獣はこれを建物と認識しており羽を羽ばたかせることはなかった。


 頂点に佇んでいる魔獣と目が合う。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒は安全地帯を侵されないよう、攻撃する時だけ身を乗り出し炎球を放つ。

 魔獣に打ち返されてしまうが、その後何度も攻撃を続けた。


「やっぱり、もっと近づかなきゃいけないの⋯⋯?」


 美緒は意を決して鉄塔から飛び立つ。


「うぐぐッ」


 予想通り魔獣の風が美緒を襲う。


 美緒は鉄塔の出っ張りを両手で掴んで上へと上昇していく。さっきいた鉄塔の一段上の足場に身体が入った。

 剥き出しの身体に風がびゅんびゅん当たる。手を離してしまえば地面に真っ逆さまだ。すぐそこにいる魔獣から向けられる風は痛く冷たかった。


 徐々に美緒は身体全体を足場に乗せた。そして、頭を上げず這いつくばるようにして鉄塔の軸となる中心のフレームにしがみつく。


 魔獣の風はより一層強さを増した気がした。

 本当は確実に、もう少し近くから攻撃したいが立つこともままならない。不確実だが、こんな近い距離から魔法を放てれば倒せるだろう。


 魔獣は逃げる素振りを一切見せていない。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒は片手を離し、炎球を真上にいる魔獣目掛けて放った。

 これまで以上に羽を羽ばたかせている魔獣は美緒の炎球を防いだ。


 魔獣に返された炎球は美緒の顔に命中する。


「う——ッ!!」


 あまりの痛さに美緒は手を離してしまった。美緒は風に乗って勢いよく鉄塔から落下する。

 今までで一番近くから魔獣に攻撃できたのに倒せなかった。考えが甘かった。


 落下中、白い猫が突然現れると勢いよく飛び跳ね、美緒を空中で咥える。


 美緒は猫と共に木の葉に当たりながら、お堀に落ちた。飛び込んだ衝撃で水が波打つ。


「——ぷはっ!!」


 水面に顔を出すと、目の前には変身を解除した那岐がいた。


「那岐。どうして⋯⋯」

「美緒は一人じゃない!」

「え——」


 那岐が感情的になるなんて珍しかった。


「本当は美緒が傷つく所なんて見たくない⋯⋯! だがら何回も止めてきた訳で⋯⋯」


 それは美緒も同じであった。那岐が傷つく所なんて見たくない。


「でも、美緒は魔獣も怪人も全部倒すことを決めた。それで、俺も腹括ったよ」

「那岐——」


「美緒に力を貸す。美緒の力になりたい。⋯⋯一人で抱え込まないでくれ」


 ああ——そうだ。また一人で何とか解決しようと考えてた。こんな近くに、こんな頼れる人がいるっていうのに⋯⋯


「まあ、そこまで力になれるかはわからないけど——」


 美緒は水を押しのけ那岐に抱きつく。


「ううん⋯⋯嬉しいっ!! 二百万力だよ!!」


 二人の間には水滴一つない。


「一緒に倒そ?」


 笑む那岐と目が合う。


「ああ、全力でサポートするよ」


 二人は魔獣を倒すためにも水面から出た。

 先にお堀から出た那岐が美緒に向けて手を伸ばしてくる。美緒はその手をがっちりと掴み、緑色のフェンスを超えて歩道に出た。


 美緒たちはえらくびしょ濡れで、二人して身体を振って水を落とす。


「じゃあ⋯⋯どうするか?」

「那岐っ! さっき見てきたんだけどね、魔獣がいる一段下は安全だったよ。全然風飛ばしてこなかった!」

「そこで俺が気を引いている間に美緒が仕留める算段か?」

「そうっ! どう、よくない?」

「いいな。早速、試してみよう」


 そして、美緒と那岐は変身した。


変身呪文(ルーフォーク)

 空、鉄塔からこちらを凝視している魔獣一点を見つめた。絶対に那岐と倒してやる。

 那岐を肩に乗せて美緒は鉄塔を目指して飛んでいく。先程同様、風に当たらないように真下から入って魔獣の元へと向かう。


「よしっ! お願いね!」

「ああ、任せてくれ!」


 那岐を一段下の赤い足場に降ろして、美緒は鉄塔から遠ざかる。


 そして、堂々と魔獣に向かって攻撃を行った。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒は飛び回って炎球を何発も放ったが全て跳ね返されてしまった。


 魔獣は美緒に風を送るのと同時に真下にいる那岐のことも気にかけている。

 那岐は飛び跳ね、魔獣の注意を引こうとしているのが遠目からでもわかった。那岐のためにもとどめを刺さないと。


 美緒はステッキから炎球を生成した。


 数でだめなら風に勝る魔法を——


攻撃呪文(ラガフォード)

 自身よりも大きくなった炎球が魔獣へと一直線に向かっていくが、それさえも返されてしまった。

 魔獣は那岐のプレッシャーで多少なりとも隙が生まれているはずだが、美緒の攻撃は当たらない。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒はこれまで以上に魔獣の周りを高速で飛び回る。どうにか魔獣が風を送る前に裏を取ろうとするが叶わない。


 美緒の脳内にはたらればが過った。


 いっそ、テレポートでもできて後ろから回り込めたら⋯⋯ううん、そんなのできっこないはず——


 美緒は怪人との戦いを思い出す。目の前で対峙していたキャディは持っていた武器を美緒の後方から刺した。


「これいけるの⋯⋯?」


 自分でも半信半疑であった。でも、やるしかない。


攻撃呪文(ラガフォード)

 魔獣の頭よりも上へ角度をずらして炎球が飛んでいく。

 炎球は当たることも、跳ね返されることもなく魔獣の遥か後方を飛んでいった。


 魔獣はステッキを構えている美緒を警戒している。飛んでいった炎球の行方など一切見ていない。


 美緒は少し下降し、自身と炎球の間に魔獣を捉えた。


 今が絶好のチャンス——お願い⋯⋯こっちに返ってきて⋯⋯


 地面に落ちていく炎球の軌道が変わった。美緒の願い通りに炎球が美緒の方へと戻って来る。

 数枚の白い羽が空を舞った。美緒の炎球が大きく羽ばたいていた魔獣の片翼に当たったのだ。魔獣は体勢を崩す。


 そこへ、白い猫が現れた。白猫は鉄塔の白い足場と同化しいつの間にやら忍び寄っており、美緒が攻撃したタイミングで立て続けに飛びかかった。

 那岐は強力な猫パンチを食らわす。


 鉄塔から叩き落された魔獣は、空中で体勢を立て直し地面に向かって羽ばたく。


 風は真下に向けられている。これだったら魔獣の攻撃を無効化したのも同然だ。那岐は美緒が空中で攻撃を当てられることを知っている。那岐は信じてくれてるんだ。絶対に逃がしたりしない。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒の放った炎球が飛んでいる魔獣に当たる。

 空中で灰が舞い散り、鶴の死骸が地上に落下した。


「やったよっ! 那岐——」


 鉄塔で変身を解き、和顔な那岐と目が合った。


 美緒の胸の高鳴りが止まらない。

 美緒は息が上がっているのかと思い胸に手を置くが違う。早くなっていたのは鼓動だった。あの時の那岐も同じだったのかな。言うなら今しかないのかもしれない。


 そして、鉄塔上にいる那岐の元へと飛んでいく。


 那岐は腕を広げ美緒を待っている。


「那岐ッ!!」


 美緒は那岐に勢いよく飛びつくと、変身を解いて浴衣姿になる。


「好き!! 私、那岐のこと好き——好き好き!! 大好きー!!!」


 美緒は自身の思いを赤裸々に口にした。


「私と付き合って!!」


 打ち上げ筒に入った花火玉が音を上げながら天へと上っていく。


「もちろんだよ——俺も美緒のことが大好きだ!!」


 空高く飛んでいった火薬が爆発した。


 二人は見つめ合った末、唇を重ねる。

 美緒が那岐の背中にまわしている腕を強めると、那岐もそれに答えるように強く抱きしめる。お互いの鼓動が共振するゼロ距離までぴったりと身体を密着させた。


 烏川から打ち上げられた花火は高崎の夜空を色鮮やかに彩る。大きな火薬の爆発音が放射状に響いていく。


 美緒と那岐は誰もいない、鉄塔最上部の特等席で花火を眺めた。


          ◇


 花火大会が終了すると広場にいた人たちが解散し去っていく。美緒と那岐は鉄塔から地上に降り立った。

 二人は広場で花火を見ているはずの伊吹と花織を探す。人混みで離れ離れにならないよう、お互いの手を強く握りながら。


「あっ!! 二人共!!」


 先に気がついたのは伊吹であった。その横には花織がいる。


「二人共ありがとな!!」


 一目散に駆け寄ってきた伊吹が美緒と那岐に感謝を述べる。何も言わずに離れてしまったから、てっきり怒られるとばかり思っていた。


「え?」

「気利かせて二人っきりにしてくれたんだろ?」


 美緒は那岐と顔を見合わせる。予想外の言葉に声を出して笑い合う。


「何で笑うんだ!?」

「悪い悪い」

「そういうことにしとくよっ!」

「そうだな。そういうことにしとこう」

「何だよ!! そういうことって!?」


 後方にいる花織は手を繋いでいる美緒と那岐を見て、優しい眼差しをしている。


「はなちゃん、ごめんね! 急に離れたりして!」

「いいの——! ⋯⋯それじゃ、あたしたちはこの辺でお開きにさせてもらうから」


 花織は伊吹の手首を繋ぎ引っ張る。


「え!!!? 突然どうしたの、花織ちゃん!?」

「二人の邪魔しちゃ悪いでしょ」

「——ああ~! そういうことなら!」


 妙に気を使われてしまったみたいだ。


「じゃあ! またねー二人共~!」


 美緒は去る二人に向けて手を振った。


「俺達も帰るか?」

「うん⋯⋯! だけど、その前にトイレ寄らせてっ!」


 戦闘で汗をかいたことと合わさって、緊張と浴衣で汗がたまる。後は家に帰るだけだとしても怠りたくない。

 両腕を浴衣から出して上半身を露わにする。美緒は持ってきた制汗シートで身体を隅々まで入念に拭き取った。


「大丈夫⋯⋯だよね?」


 脇の前で鼻をひくつかせる。

 その間帯が緩み、浴衣が更にはだけてしまった。


「あっ!」


 美緒は一旦、緩んでしまった帯を取り浴衣だけを羽織る状態にする。


「ええ!? どっち前だっけ⋯⋯」


 前合わせで右と左、どちらが前かで迷った。


「——浴衣でお悩みのようですね」


 横の個室から突如として声がした。


「あなた様から見て、右を前にするのが正解ですよ」


 聞こえてきた女性の声は美緒の行動を見透かしたようにそう言い放った。


「ありがとうございます!」

「いえいえ。あなた様にはそちらがお似合いになられます」


 美緒は浴衣の右衿を左前にして羽織った。


「う~ん、こう?」


 美緒は母が着付けてくれた手順を思い出しながら帯を締め付ける。一人で浴衣を着るのなんて初めてで、不格好な結び目になってしまう。


「ま、いっかっ! 上出来でしょ!」


 最後にお礼を言おうとしたが、声のした隣の個室の扉には故障中の張り紙が貼ってあった。女性の姿は既にない。


 トイレの前で待っていてくれた那岐と合流する。


「那岐っ! お待たせ!!」

「じゃあ、行くか」

「うん⋯⋯!」


 二人は手を絡めさせ、帰路につく。

 手なんて何回も繋いできた。それなのにこんな気持ちになるなんて⋯⋯また、手先から汗が滲み出てくる。


 那岐は平気なのかな——


 美緒は上を見上げる。那岐の頬は紅色に染まっていた。


「美緒⋯⋯」

「ん?」

「冷たいもん買ってから帰らないか? かき氷とか」

「いいね⋯⋯! あ、だけどさ⋯⋯この時間だともう閉まってない?」

「それならコンビニでアイスでもいいし」

「⋯⋯でも、何で急に? 食べ足りなかった?」


 那岐は口ごもる。


「——もう少し⋯⋯もう少し、美緒と一緒にいたいから⋯⋯」


 さっきよりも更に、火が出そうなほど顔を赤らめている。見てるこっちまでのぼせてしまいそうだ。


「えいっ!」


 美緒は那岐に体当たりする。


「なにすんだ——!」

「え~! 賛成タックルだよ!」

「⋯⋯なんだそりゃ」

「えへへ。私も那岐とずっ——と一緒にいたいっ!」


 美緒と那岐は一緒に、横に連れ添って屋台を見て回る。花火が終わったこの時間、どこの屋台も片付けに入っていた。


「見てみて! あそこまだやってるみたい!!」


 屋台の灯りを消さず、かき氷と書かれたのれんが遠目から見えた。二人は駆け足で屋台へと向かう。


「すみませ~ん! かき氷を二つ——って、え!?」

「——あ」


 店先には先程解散したばかりの伊吹と花織がいた。手にはかき氷が握られている。


 結局、再会を果たした四人は近くの公園でかき氷を頬張りながら駄弁ることにした。


「あははっ! 二人もかき氷食べてたなんて!」

「もう、あそこぐらいしかやってなかったからね」


 美緒は赤色のシロップがかかったかき氷にスプーンを突き刺す。

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