【29話】鶴形
「よしっ。おっけい!」
「ママ、ありがと!」
美緒は夏祭りに行くため、母に浴衣を着付けてもらった。
帯は白色の赤を基調とした花柄の浴衣。また着られるとは思っていなかったので気持ちが舞い上がる。
「おまたせ~!」
待ち合わせ場所には先に彼がいた。
「浴衣——」
「じゃ~ん!! いいでしょ!?」
美緒がひらひらとその場で回転すると、那岐はスマホを構えて写真を撮る。美緒は精一杯かわいこぶった。
「どう⋯⋯? かわいい?」
「かわいい」
「えぴゃっ!」
撮影会を終えると美緒は歩き出す。
「じゃあ、行こっ?」
「ちょ——ちょっと待って!」
「ん?」
那岐はスマホで何やら操作をしている。美緒の場所からは何をしてたのかさっぱりわからなかった。
「——よし、行こっか」
最後に待ち受け画面を見ていたようだったが、どうやら上手くいったらしい。
伊吹と花織とは別の場所で待ち合わせしていたのでそこまで歩く。
待ち合わせ場所には既に二人の姿があった。
「あっ! はなちゃんも浴衣だ!!」
花織は青色の浴衣を身に纏っている。
「ねー⋯⋯どんだけ撮るのよ」
「あと一枚! 一枚だけだから!」
はしゃぐ伊吹と、顔を赤らめながらもカメラ目線な花織がいた。こっちでも撮影会が行われていたみたいだ。
「あっ! 二人とも~!」
撮影をしていた伊吹が美緒と那岐に気がつき、手を振っている。美緒たちは伊吹と花織に駆け寄る。
「お待たせ~っ」
「よっ!」
「伊吹くん! 私にもはなちゃんの写真頂戴!!」
「え!?」
「——って言ってるけど、いい?」
「まあ、別にいいけど⋯⋯」
「やったー!!」
「じゃあ、美緒。今度はそれを俺に」
「わかった~」
「那岐はなんでよ!?」
「さっき撮った美緒の写真と交換な」
「まあ、それだったらありね」
「なんで!?」
よくわからなかったが美緒はスマホを手に取り、首を傾げながら尋ねる。
「じゃあさじゃあさ! みんなで撮らない?」
美緒は左手にスマホを持ち、画角に四人が入るのを確認した後、
「はい——チーズっ!」
自撮りをする形でシャッターボタンを押す。
「後でみんなに送っておくね!」
その後、高崎駅の方角に向かっていくのだが近づけば近づくほど熱気や声量が増していくのがわかる。この前の駅前とは比べ物にならないくらい平和でお祭りムードになっていた。
四人はお昼からの参戦になったが、この時間帯でも大盛り上がりみたいだ。和太鼓が叩かれていたり、神輿や山車が街を練り歩いている。
「からあげだってっ!!」
「いいね!!」
「こっちには焼きそばあるよ!!」
「うまそう!!」
「あっちはチョコバナナ!!!」
「そっちも捨てがたい!!!」
美緒と伊吹は興奮して屋台を見て周る。
「那岐とはなちゃんは何食べたい?」
「美緒の好きなもん食べたらいいよ。花織は?」
「あたしも何でも食べられるけど——」
「じゃあ! この通り全部食べてまわろう!!」
「お腹、はち切れるぞ?」
美緒たちは美味しいものを順に食べまくった。
「ひゃっ! 冷た!」
路上には人工降雪機も設置されており、夏のこの暑い時期に雪を感じられる。
美緒たちは屋台で食べるばかりではなく、射的や型抜き、技能祭でだるまの絵付けの体験もした。
夕方になると山車が田町交差点に勢揃いする。
ほどなくすると、祭囃子の演奏が始まった。男、女、子供関係なく、ここ平野部で山岳を模し、御神体の山車人形が乗った山車から太鼓や笛の音を鳴らしている。世代を超え伝承されてきた伝統芸能を美緒たちは楽しんだ。
山車の叩き合いが終わる頃には日が沈みだす。花火大会が始まるまではまだ時間があり、四人はもてなし広場に移動する。
「花火楽しみだね! 那岐っ!」
「そうだな」
そこへ一羽の鶴が西側、烏川の方角から飛来してきた。鶴の白い羽は暗い夜空で一段と目を引く。鶴は広場上空を滑空すると凄まじい風を生み出す。
風を受けた群衆は突発的な風に吹き飛ばされないよう、髪や服を手で抑えている。
からっ風以上、台風並みの強風であった。




