【26話】かつては敵だった
夕暮れの最中。高崎駅構内での買い物を終えた二人は、駅の真上に開放されている屋上のベンチに腰掛ける。ベンチの上には今日ショッピングした購入品の他に、下の階で買ったファーストフードの紙袋を置いていた。
美緒と那岐はハンバーガーを頬張りながら西側の景色を眺めている。日も暮れ始めた頃合いで空一面に広がる夕焼けを堪能できた。
風や自動車、電車の走行音が耳に入ってくる。束の間の休息にはもってこいの穴場であった。
そんな安寧をかき消すかのように、自動車の衝突音のようなものが聞こえてくる。
「——っ!? 何!?」
二人はベンチから立ち上がりフェンス越しに道路を見下ろす。
交差点には自動車がいくつも乱雑に転がっていた。車は衝撃のあまり火だるまになっている。
交差点中央には、以前二人がショッピングモールで出会った時よりも、桁違いな大きさの熊の魔獣がいた。こいつがこの大惨事の元凶だろう。
「おっきすぎじゃない!?」
「だいぶでかいな⋯⋯」
美緒を襲撃したクマの魔獣は、有佐が討伐したからおそらく別個体なのだろう。
魔獣は走行している車やバスを掴むと無造作に投げ飛ばしている。投げ飛ばされた自動車たちはビルの外壁にぶつかり爆発していた。
よく見ると魔獣は無造作ではなく、自身の周りを飛んでいる何かを狙って自動車を投げていた。
「あれ——剣崎さんじゃないか!?」
「本当だっ!!」
剣を携えた剣崎が一人で魔獣と戦っていた。
美緒と那岐はお互いの目を見て頷く。
【変身呪文】
二人はすぐさま変身し、屋上から飛び降りつつ魔法を放った。
【攻撃呪文】
美緒の魔法が魔獣に命中する。剣崎は魔法が放たれた方角を振り向く。
「君たち!?」
「私たちも応戦します!」
「⋯⋯ありがとう」
剣崎は剣で近距離戦、美緒が後方から魔法を放ち、それらを那岐がサポートする陣形を組んだ。
【攻撃呪文】
美緒の魔法と剣崎の鋭い剣が刺さるが、魔獣はそれだけで倒れることはない。魔獣は三人を群れる蜂のように嫌がり暴れ回っている。
交差点付近には建物が数多くあるが魔獣は関係なく突進してくる。美緒のすぐそばまで迫ってくると手を振り落としてきた。その衝撃で建物がバラバラになり瓦礫が空を舞う。
美緒は間一髪で避けられたが、あのストロークに当たっていたらひとたまりもなかっただろう。
建物をズカズカと壊す魔獣であったが遠くへ行ったりはせず、交差点中央に留まっていた。
留まっているというよりは戦いやすく、障害物のない空間に剣崎が誘導しているようだ。やっぱり強い人は戦い方も上手なんだな。それに、剣崎さんは呪文も唱えていないし、琴さんとはまた別グループの人なのだろうか。
美緒は関心しながら剣崎が戦っている風景を足を止め傍観している。
そんな最中、魔獣は自動車を掴むといきなり標的を変え、美緒の方に投げてきた。
「美緒くんッ!!!」
車との距離は数メートルもなく、真っ直ぐ向かってくる車を美緒はとても避けきれそうにない。
だが、横からの衝撃で美緒は車に当たることなく道路に転がる。魔獣が投げた自動車は他の車に激突し、爆音と共に大爆発を起こした。
美緒のそばには那岐が横たわっている。どうやら那岐が危機一髪の所で助けてくれたようだ。疲弊している那岐に美緒は応急措置を行う。
【支援呪文】
「ごめん、那岐ッ!!」
「大丈夫⋯⋯それより、剣崎さんの方を⋯⋯」
剣崎は魔獣を美緒と那岐から引き離すべく一人で戦っている。
「わかった——ッ」
美緒は飛びつつ、魔獣の元へと向かいながら魔法を放つ。
【攻撃呪文】
勢いよく放たれた炎球は全弾魔獣に命中した。
美緒も後方からではなく、至近距離で攻撃を行う。
「美緒くん、近づきすぎると危険だ。気をつけてくれ!」
「わかりました!!」
魔獣は突進し、腕を振り落としてきたりと美緒の身体を引き裂こうと必死だ。魔獣の攻撃は突進や手、物を投げてくるだけだから、それらを頭に入れておけば脅威にはならなそうだ。
美緒も剣崎を見習い、交差点付近で魔獣をせき止めつつ攻撃を行う。
【攻撃呪文】
攻撃したら油断せず、距離を取って魔獣の動向を窺う。
完璧に立ち回れている自信がある。
だが、剣崎が攻撃しようと美緒が何発も魔法を打とうと、魔獣は倒れもせず雄叫びをあげるばかりであった。




