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カイジンの冥婚  作者: 小隹雀
第一章 魔獣討伐編

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【23話】鋭利な傷跡

 ペースト状になった美緒の身体が綺麗に戻り始める。


復活呪文(レイボルツ)

「はぁ⋯⋯⋯⋯はぁ⋯⋯⋯⋯」

 一旦は助かった美緒であったが、敵から逃れられたわけではない。精神を押し殺しながらも魔獣を探す。もうあんなのは懲り懲りだ。


 真上を見ると一直線に穴が空いており、魔獣は美緒を叩きつけたその地点から動いておらず大きく口を開いている。


「——ッ」

 美緒が瞬時に横へ転がり避けると、ビームは床に直撃する。


「あぶなっ⋯⋯」


 脅威が去った美緒は仰向けでその場に寝転ぶ。あんな奴一体どうやって倒せばいいんだ⋯⋯?


 一息ついたのも束の間、ドスンッの音と共に正面玄関にまたしても魔獣が現れた。あんなに離れていた距離が一瞬にして縮まってしまう。

 物凄い勢いで魔獣が迫ってきていたが、美緒はすぐさま起き上がる。


 そして、頭上にできた穴に逃げ込み上に上がっていく。美緒が落ちてきた穴は魔獣にとっては小さく、吹き抜け二階のフロアを上手く使っても穴には入れなかった。

 魔獣は追いかけることを諦め、穴の真下で微動だにせずに大きく口を開き始める。


「やば——ッ」


 美緒は魔獣の攻撃を察知して穴から避ける。

 魔獣のビームは美緒の足元を狙って放たれたが当たらず、更に上のフロアの天井に穴を空けただけであった。


 魔獣の攻撃が終わると美緒は恐る恐る穴を覗き込む。


「——! いない⋯⋯けど、絶対諦めてないよね⋯⋯」


 魔獣は既に姿を消していたが、美緒はまだ追われていることを確信していた。

 深呼吸して気持ちを落ち着かせる。どこも怪我をしていないはずなのに心臓が痛い。——でも、まあいっか。こんな奴早く倒して那岐に褒めてもらうんだから。


 このビルから距離をとって逃げた所で、観音山で見たあの機動力ではすぐに追いつかれてしまうのが運の尽きだ。そうならないためにも上に上がっていくことを優先する。もっと、もっと上空で戦わないと。


「待っててね、那岐⋯⋯!」


 その後、何十階も上昇していくと美緒が一階に落とされた地点まで戻ってきた。これより先は本来、天井に穴は空いていなかったのだが魔獣が下からビームを放ったため空が見える。

 屋上の一つ下のフロアは展望ロビーになっていた。外側が一面ガラス張りで高層からの景色を一望できる。


 美緒が展望ロビーに頭が入った瞬間、ビルの外側から音もなく魔獣が現れる。


「やっぱり来た——ッ」


 魔獣は美緒を視界に入れると強化ガラスを粉々に割って室内に侵入してくる。

 咄嗟の事で美緒は頭上の穴に入りそびれた。魔獣が走り追いかけてくるので美緒は逆方向へと逃げる。目の前には強化ガラスが立ち塞がる。


 威力はなくても即興の魔法で十分。


攻撃呪文(ラガフォード)

 美緒はステッキを魔獣に向けるのではなく、目の前の窓ガラスに向け炎球を放った。

 ガラスに一点の風穴とひび割れが入る。美緒はそこへ身体を縮め、飛び込むとガラスは粉々に割れ外に出れた。


 魔獣は手足を器用に動かし、落下することなくビルの外壁を伝って美緒を追いかけてくる。さっきも同じ感じでビルを上ってきたんだな。 


「しつこいッ!!」


攻撃呪文(ラガフォード)

 逃げる合間、ダメ押しで魔法を放ってみるが魔獣はパルクールして難なく避ける。


 先に屋上、アルミデッキのヘリポートに降り立ったのは美緒であった。

 遅れて魔獣が到達し、両者は晴天の青空の元に対峙する。


 魔獣は美緒を目掛けて走ってくると飛び蹴りを繰り出した。落ち着いて防げれば大丈夫。


防御呪文(グランベール)

 目の前に炎壁の防御魔法を構築して防ぎきった。


「次はこっちの番だからッ!」


攻撃呪文(ラガフォード)

 間髪入れずに美緒も攻撃を放つと、何も遮るものはなく魔獣に直撃する。それに負けじと魔獣も攻撃を行うが、制空を維持している美緒に当たることはなかった。


 だだっ広い空。周辺にはここ以上に高い建造物はない。魔獣が美緒に届くことは不可能であった。


攻撃呪文(ラガフォード)

 これまでの鬱憤を晴らすかのように美緒は何発も何発も炎球を放った。一方的な攻撃に魔獣は狼狽えている。やはり障害物が少ない分、屋外は戦いやすかった。


 それでも美緒が弱いのか、魔獣はしぶとく全然倒れない。


 煙が立ち込める中魔獣は右足で踏み込み、ジャンプして後方に下がったためお互いの間に隔たりができる。対角線上にヘリ一機分の距離を開けて睨み合う。魔獣との戦闘の最中、ヘリポートのHマークは原型を留めない形でアルミデッキごと大きく穴が空いた。


 魔獣は足を負傷したのか左足を引きずっている。

 美緒もいくら優位に立ち攻勢を強められたからといっても、ここまでの戦いで体力を消耗しておりかなりへとへとになっていた。


 大きな陥没穴があるからなのか、魔獣はその場に留まり様子を窺っている。美緒は攻撃をする絶好のチャンスと捉え、魔法を放つ。


攻撃呪文(ラガフォード)

 しかし、これだけ距離があったら魔獣もあっさりと炎球を躱してしまう。

 だからといってこちらから近づいてしまえば、いつ放ってくるかもわからないあのビームを避けられるかはわからない。いつでも防御できるようにステッキを構える。


 ガチャッと鉄扉が開く音が聞こえた。


 案の定、魔獣は大きく口を開け、咆哮モードに入る。

 その時、魔獣は後ろから現れた白い塊に頭を体当たりされて体勢を崩す。そのまま魔獣の黒く暗いビームは下に向かってズレて打たれ、ビル内部を斜めに貫通する形になった。


「那岐っ!!」

 階段を上り、ヘリポートに颯爽と現れたのは那岐であった。


 魔獣は攻撃を邪魔してきた那岐を手で手繰り寄せようとするが避けられてしまう。

 魔獣は二対一で美緒と那岐に挟み込まれてしまった。


攻撃呪文(ラガフォード)

 魔獣が那岐に注力している間に、美緒は全弾魔法を当てる。

 しかし、着々と弱っている様子はあるのだが決定打となる攻撃ではなかった。魔獣の足はあの調子だし、この高層ビルから落とせればとどめになりそうなものだが良策を思いつけない。


 那岐がちょっかいをかけていてくれているから魔獣はビームを打つ暇もないみたいだ。

 次第に魔獣は美緒の方に向き直り、完全に那岐には睨みを効かすだけになってしまった。那岐に注力する気力も残っていないらしい。


「考えろ考えろ考えろ——」

 美緒は対峙する魔獣を見ながら脳漿(のうしょう)を絞り、飛行を解除してヘリポートに降り立った。


 魔獣は地面に足を付けた美緒を見ると途端に動き出し、負傷した左足をすり減らしながらも走ってこちら側に向かってくる。その素振りは焦っているようにも見えた。

 魔獣は大きな穴に差し掛かると、その手前で両手を付き、右足に力を入れ美緒に飛びかかってくる。


 美緒はこれまであった魔獣との戦闘を思い出す。


 ガス——これだったら⋯⋯


「美緒ッ!!」


 大丈夫だよ、那岐。


 この一発に全ての思いを込め、決着をつける。


攻撃呪文(ラガフォード)

 魔獣が飛びかかってくる直前、美緒はすぐさま飛び立ち自身の真下に向かって特大の炎球を放った。


 空中に浮いていた魔獣は避けきれず爆風によって飛ばされ、逆U字の曲線を描きながら地面に向かって落下していく。今回はビルの外壁にへばりつくことも、そのまま体制を立て直すこともできず落下し続けると、赤く鋭い槍が背中からお腹にかけて突き刺さった。


 魔獣の体はビルの地面出入り口付近に設置されていたモニュメントに貫通する。


 魔獣は深く刺さった槍を自重で抜け出すことができず、そのまま息絶えた。灰を舞い散らし、辺りには猿の死骸が多数出現する。


 魔獣との戦闘で損傷したビルが次第に元通りに修復されていった。


「やった~!! 那岐ーっ!!!」

 討伐を確認すると美緒は那岐に抱きつく。


「すごい!! すごいよ、美緒ッ!!」

「にへゃ~っ!」

 那岐に頭を撫でられ、全部辛さとか吹っ飛んでいった。


 薄暗い夜空の中、美緒と那岐は修復されたヘリポートの真ん中で寝転んでいる。戦闘が終わった直後は明るかった空もあっという間に暗くなり、星が見えるようになっていた。二人だけの特等席で美緒と那岐は綺麗に光る市街の夜景を堪能する。

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