【22話】何度だって蘇る
遥か遠くにいる那岐の姿や声は美緒に届かず爆死した。
交差点で信号待ちをしていた自動車たちもこの爆発によって次々と誘爆し始め、辺りに悲惨な状況を生み出している。
魔獣は真横にいる那岐のことは一切気にかけず、美緒の所まで民家の屋根上を飛び跳ねながら向かって来ているのが見えた。その後ろを大きな猫が追いかけてきている。
猪の魔獣と違い、この魔獣は美緒が死してなお執着してくる。
早く復活しないと、また魔獣にやられる——
【復活呪文】
その状況下で美緒の魔法が発動し、身体が完全に再生する。
魔獣がもうそこまで迫って来ているのを視認できた。今度は攻撃できる時間も残っている。落ち着いて魔法を出せれば大丈夫だ。
魔獣は猛スピードで跳ね、民家の屋根を利用して飛び襲いかかってきた。
【攻撃呪文】
魔獣が噛みつこうと大きく口を開けて攻撃してきたが、美緒のステッキから放たれた炎球で弾かれる。
「さっきはよくも——ッ」
攻撃を防がれ狼狽える魔獣に美緒は追撃を行う。
【攻撃呪文】
ステッキから放たれた何発もの炎球は全て魔獣に直撃し、大爆発が起こる。
辺りには黒煙が漂い、それが邪魔して魔獣の姿は見えなくなった。魔獣は反撃してくる素振りもなく、一切生存確認ができない。
「倒せた⋯⋯?」
突如として煙の中から暗く黒色に光ったビームが飛んできた。
「えっ——」
攻撃を予見できず、避ける時間もなかった美緒は光線を直で喰らう。
「ぐああああああぁぁぁぁぁ」
空を飛んで魔獣の様子を窺っていた美緒はビームに押し飛ばされ、烏川を飛び越し21階建ての高層ビル中腹辺りのフロアに激突する。美緒は窓ガラスを突き破りフロアに転がり込むと、微動だにできず血を流しながら命を落とす。
美緒が突っ込んだ衝撃でビル全体が揺れたと同時に、内部にいた人々は得体の知れない攻撃に悲鳴を上げながら逃げ惑う。
こんな一方的にやられるしかないなんて⋯⋯どうやって倒したらいいの。すぐに魔獣はまたやってくるだろうから、美緒は死んでいる最中も思考を巡らせる。
【復活呪文】
血も戻り、復活できた美緒は深呼吸して体勢を整え直す。魔獣はまだ辿り着けていないようで、ひたすら策を考える時間ができた。
猪の時のようにどこかに誘い込んで、罠に嵌めたりもありかな——と、いろいろ作戦を考案していても魔獣は中々やってこない。
もしかしたらここまで来れない可能性も⋯⋯⋯⋯
割れた窓ガラスから下を覗こうと美緒は近づく。どこへ消えたのか、魔獣の姿は見つけられなかった。目の前の割れた窓ガラスが修復されていく。
あんなに大きかったし、ここからでも見つけられると思うんだけどな。どこかに隠れていたりして——
「きゃああああー!!!」
どこからか悲鳴とガラスが割れる音が聞こえた。
「もしかして魔獣!? でも、ここ——じゃない⋯⋯」
美緒が今いるフロアを見渡しても、ガラスが割れた形跡や魔獣は見当たらない。
ドンッ、ドンッ、ドンッと打撃音が聞こえてくる。
「もう直ぐ側にいるの⋯⋯?」
美緒はいつでも攻撃できるようにステッキを抱えて辺りを索敵した。
打撃音は床を揺らすと同時に音量が徐々に増していき、美緒は唾を飲み込みながらも警戒を続ける。
最後の打撃音と共に、美緒から少し離れた床が抜けた。振り返ると魔獣がひとつ下のフロアから顔を覗かせている。
「でたな⋯⋯!」
抱えていたステッキを魔獣に向け、すぐに攻撃にかかる。
【攻撃呪文】
美緒の攻撃で辺りに黒煙が広がる。
美緒はすぐさま魔獣から距離を取る。屋内であるため天井に当たらないよう調整しつつ飛び、後方へと下がった。
案の定、魔獣は倒れておらず美緒を睨みつけている。
「あんたも大分しぶといね⋯⋯!」
魔獣は穴から身を乗り出すと、美緒一直線に向かってきた。
【攻撃呪文】
美緒は次々に魔法を放つが、魔獣は歩みを止めずに襲いかかってくる。
事務机やパソコン、書類を飛び散らしているが魔獣はそんなこと気にする素振りもない。
「——うっ⋯⋯狭くて動きづらい⋯⋯」
美緒は攻撃をしながらも後ろに下がっているのだが、屋内戦では飛んで躱すことも難しく、それだけで手一杯であった。
魔獣は障害物を押しのけ近づいてくるため、着々と距離が縮まってくる。これじゃ、間合いに入られて攻撃どころじゃなくなってしまう。
【防御呪文】
魔獣の手が迫ってきた所で美緒は目の前に炎の壁を作りだし防御した。
魔獣は攻撃を防がれると、体当たりをしてくる。
「——ッ」
防ぐのには成功したけど、今度はこちらから攻撃できる隙が無くなってしまった。美緒は防御魔法を構築し続けたまま後退りする。
魔獣は何度もバリアを壊そうと手や足、頭を使って突いてくるが難渋している。強い力でどんどん後ろに押されていく。
美緒の後方には窓ガラスが取り付けられた壁が形成されている。ここから屋外戦に持ち込めれば勝ち目はあるかも——
その時、建物の壁に美緒のかかとが当たった。
もしかして⋯⋯美緒の頭にふと妙案が思い浮かんだ。
魔獣が再度、体当たりをしてくる。
そのタイミングを見計らって、美緒は咄嗟に防御魔法を解除し横にずれる。魔獣は闘牛のように美緒の横を通り過ぎ、壁を突き破ると落下していった。
「ふっー⋯⋯。これで倒せたかな⋯⋯?」
美緒は窓ガラスを覗き込むが、地面にあるはずの猿の死骸が見当たらない。
「え⋯⋯ない? 一体、どこに——」
ビルの真下までしっかりと確認するため、更に窓から身を乗り出す。
魔獣と目があった。
魔獣は足を使ってビルの外側の出っ張りにしがみついている。落下死なんてしてなかった。
魔獣は足の筋肉を使い、その反動で美緒を殴打する。
「うがッ!!!?」
防御できなかった美緒は事務机に張り飛ばされた。
「うっ——ッ」
体勢を立て直そうにも、鉄の塊が大きくへこむぐらいの衝撃を喰らった美緒はあまりの痛さに行動不能になる。
魔獣が美緒の元へとにじり寄ってくる。動けなくなった美緒を掴み床に大きく叩きつける。
身動きを封じられ、飛んで逃げれなくなった美緒はそのまま死亡した。
だが、死んだ後も魔獣は美緒の抜け殻になった死体を床に叩き続ける。頭蓋骨はとっくに割れ、身体の至るところから血を吹き出す。
【復活呪文】
「おいッ!」
復活を遂げた美緒であったが、拘束されている状況は変わらない。魔獣は美緒を床に叩き続けている。
美緒はまたしても死んでしまった。
【復活呪文】
「く——ッ」
柔らかい人間の肉体でも硬い床はへこみ続ける。
何度も——
【復活呪文】
「⋯⋯」
魔獣はおもちゃで遊ぶ赤子のように美緒を弄ぶ。
何度も何度も——
【復活呪文】
「もう⋯⋯」
生死なんて関係ない。魔獣は相変わらず、既に死んだ美緒の身体を掴み床に叩きつける。
何度も何度も何度も——
【復活呪文】
「嫌ッ!! もうやめてッ!!!」
何度生き返っても美緒は殺され続けた。
死んでもなお生き返る美緒を不気味に思ってなのか、魔獣は最大限に力を振り絞り、真下に美緒を叩きつける。
剛速球で投げられた美緒はいくつもの床や天井に穴を空け、美緒の身体だったものは吹き抜けの一階エントランスホールの地面に激突した。




