【21話】猿の月取り
魔獣の討伐を終えた美緒たちはひびき橋を渡りきり、森の中に整備された道を進んで白衣大観音を目指す。すっかり元通りの空模様となり雨ひとつ降っていない。
木々が木陰を生み出し戦いで疲れた二人を癒やす。
道の分岐点に洞窟観音の看板もあったが今回は行かず、逆方向に向かう。
しばらく歩いていると建物が見えてきた。道沿いにお土産屋さんや飲食店が並んでいる。
その道を更に歩いていくといきなり白衣大観音が姿を現した。いつも遠くから眺めていたから凄く新鮮な気持ち。
「でかっ!」
「こんな大きかったんだな⋯⋯!」
二人は建立当時、東洋一と言われたそのスケールの大きさに圧倒される。観音様は白衣を纏っており真っ白な佇まいだ。
街中からは見えなかったが、近くから見ると観音様には無数の穴が空いている。身体を銃弾で撃ち抜かれたように真っ黒だった。
あれは何なんだろう⋯⋯?
白衣観音の足元前に置かれている賽銭箱にお金を投げ入れ、手を合わせる。
二人のことをお守りください、そう美緒は願った。
お参りを終えると今回の最大目的であった観音様の胎内の拝観をするため、美緒と那岐はチケットを購入し中に入る。
階段を登っていく最中には、仏像や白衣大観音建設中の絵が飾られていた。
そして、各階に取り付けられている小窓からは、胎内からの街並みを眺められる。外から観音様を見た時に気になっていた穴はこのためのものであった。
146段の長い階段を上りきり、最上階の九階にたどり着くと圧倒的な景色に二人は目を開く。
「わーっ! きれー!!」
白衣大観音の肩に当たるその高さからは高崎市街地の他にも、上毛三山や浅間山などの山々も眺められる。
「あ、家あの辺じゃない!?」
「うそ。ここから見えるか?」
「あれあれ! 絶対そうだよ!」
「ああ、そうぽいな⋯⋯」
「でしょでしょ!?」
九階のフロアには『身代わり観音』像が安置されている。
大地震が起こった際、高崎白衣大観音には傷一つもなかったのに、最上階にあったこの観音様の腹部には大きな亀裂が生じていた。そのため大災害を大観音の代わりに受けた観音様で『身代わり観音』と呼ばれているそう。
帰り際、説明文を読んだ二人は手を合わせて胎内を出る。
「ありがとうね、那岐っ! 誘ってくれなきゃ観音様の中に入れるなんてこと、知らずに生活してたかも!」
「良かったな。また来よう」
那岐が頭を撫でてくれる。
「うん!」
お土産さんが並ぶ参道を下っていくと、かき氷ののれんが美緒の目にとまる。
「那岐っ! かき氷食べていかない!?」
お会計を済ませた二人の手にはかき氷が載っていた。
美緒はスプーンを使って赤色のシロップが付いた氷を口にひとくち入れる。
「ぴゃっ! 冷たーっ!」
それを見て微笑んでいた那岐であったが苦しそうに額を抑え始めた。どんどん口にかき氷を入れていたため、冷たさが頭にきたみたいだ。
「うー⋯⋯ッ」
「キーンってきた?」
首を縦に振り悶絶する那岐を笑いながらも、美緒は口にかき氷を放り込む。
「んー⋯⋯ッ」
笑っていた美緒も同様に冷たさが頭に押し寄せ、二人して道端で額を抑える。
痛さも治まり、かき氷を完食した二人は観音山の駐車場に足を踏み入れる。
「見てみて! でっかい足!」
駐車場には白衣大観音の足あとが大きく残されていた。自動車よりも大きいその足あとからも巨大な観音様の大きさが窺える。
駐車場の端には街並みを見渡せる展望台が整備されていた。
ここからも山々や高崎市街を一望でき、高崎市役所はもちろん群馬県庁まで見える。観音様の胎内で見た景色とはまた少し違った雰囲気を楽しめた。
「後ろが妙義だから——あっちが赤城だよね!」
「そうだな。その真ん中の山が榛名だし」
美緒が指さした方向には裾野を広げてそびえ立つ赤城山がある。
「夜景もきれいなんだろうな⋯⋯」
帰りのバスを待ちながら二人が景色を眺めていると、鳥が慌ただしく鳴き飛び立ちはじめる。
美緒が後方を振り返ると木々の上を物凄い速さで伝ってくる巨大な猿が目に入った。
「えッ!!!? サル!?」
「美緒!! やばい、魔獣だッ!!」
魔獣が観音山公園の方角から走ってきてこっちに向かってくる。変身して倒さなくちゃ。
【変身呪文】
美緒の変身は間に合ったのだが、目の前に迫る魔獣に防御ができず飛び蹴りをくらう。
「うわああああああーーーーーーッ!!!!」
魔獣の攻撃でふっ飛ばされた美緒は、観音山の下に広がる住宅街の家々を壊し貫通してもなお勢いは収まらず、そのまま1キロメートル先のガソリンスタンドに突っ込んだ。
ガソスタはその衝撃で大きな音と共に爆発した。




