【19話】巨大なお墓
お盆。美緒は父と母と共に祖父母の家へ向かっていた。
「よく来たね!」
「おじいちゃん!! おばあちゃん!!」
美緒は二人に抱きついた。
「エラーっ!」
「ワンッ!!」
犬のエラにも挨拶のハグをする。
荷解きを終えると、家族みんなでお墓参りしに行く。
浅間家之墓と書かれた墓石が見えた。
暑い日差しの中帽子を被り、墓石を水で磨いてから周囲の落ち葉や雑草を取り除く。掃除を終えると、花と線香を供え、手を合わせる。
本当は、今頃ここにいたんだよね——
その時、美緒たちの遥か上空を何かが高速で滑空していく。それは地上からでも見えるほど巨大なムササビであった。
もしかして、魔獣⋯⋯!?
魔獣は南東の方に飛んでいった。
居ても立っても居られなかった美緒は走り出す。
「美緒? どこ行くんだ?」
その瞬間を父に目撃された。
「ちょ、ちょっとねっ!!」
【変身呪文】
美緒は言葉を濁しながら魔獣の後を追いかける。
「あれー⋯⋯この辺に飛んで行ったんだけどな——」
すぐさま追いかけたのだが見失ってしまった。
「まあ、いるとしたらここだよね」
美緒は住宅街にぽつんと広がっている森の中に降り立つ。烏川と井野川が交わるこの地には、木々が生い茂る広場が整備されていた。
「さて⋯⋯どうしよっかな」
上空から探すのを諦めた美緒であったが、途方に暮れる。本当は那岐と手分けして探した方が早そうだが、ここまで来たんだ。一人で探そう。
金属が擦れる音と木の揺れた音が美緒の耳に届く。
ムササビが両腕を広げながらこちらに向かってきた。
魔獣は美緒よりも大きく、お腹を見せながら滑空してくる。飛膜を広げるそのお腹には何かが括り付けられていた。
「ダイナマイト!?」
導火線に火がついており、今にも爆発しそうであった。あんなのが突っ込んできたらたまったもんじゃない。
【攻撃呪文】
美緒は魔獣に空中で炎球を当てた。直撃した魔獣は花火のように大きく爆発し、灰を舞い散らす。芝生の上に何匹ものムササビの死骸が落下する。
砂の混じった灰色の煙が空へと上がって消えた。これぐらいの大きさなら高崎駅の方からも見えるかもしれない。
美緒は爆風で後退し、髪やドレスを少し揺らしただけで被害はなかった。
「ふぅ。案外楽勝じゃん。じゃあ、電話して——」
美緒が変身を解こうとした時、目の前から再びムササビが飛んできた。そのサイズは先程よりもデカくなく一般的なムササビの大きさであったが、先程と同様ダイナマイトを持っている。
【攻撃呪文】
的が小さくなって当てづらくなったが、無事炎球を直撃させて爆散させた。
また、木の葉が揺れたのが聞こえた。
「うそうそうそっ!!?」
美緒目掛けて魔獣が一斉に飛び出してきたのだ。ムササビたちはそれぞれ大きさこそ違うが、一匹残らずダイナマイトをお腹に括り付けている。
【攻撃呪文】
美緒は一匹ずつ魔法で対処するが間に合わない。逃げ場のなくなった美緒に魔獣たちは王手をかける。
ダイナマイトが連鎖的に爆発していき、美緒は命を落とす。
美緒の身体が一瞬にして、粉々に爆散した。
美緒が死亡すると辺りに静寂が訪れる。今の爆発で魔獣共々死骸になってしまったようで、追加のムササビの姿は見えなかった。
【復活呪文】
美緒の身体が魔法で復活する。
「もー、なんだったの⋯⋯」
起き上がったその時、今度は和鋏が芝生の上に突き刺さった。和鋏は美緒から大分逸れた位置に刺さっている。
「怪人!?」
だが、辺りを見渡してもキャディの姿はどこにも見当たらない。
「おかしいな⋯⋯」
美緒は警戒しながらもその場を離れ、怪人を捜索する。
そんな時、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「えっ!!? はなちゃん!?」
花織が巨大な馬の彫刻の前にいた。
「はなちゃーん!!」
美緒は変身を解きながら駆け寄っていく。
「美緒⋯⋯?」
「すっごい偶然だねっ!!」
「⋯⋯どうしてここにいるの?」
「うっ!? うーんとね⋯⋯」
魔獣を倒しに来たとも言えないし——
美緒はウォーキングしている人を見かける。
「そうだっ! 散歩! 散歩しに来たの! はなちゃんは?」
「⋯⋯私は博物館見に来た」
「ここ博物館あるの!?」
「知らないで来たの?」
「知らなかった!!」
どうやら、目の前の建物の左側が美術館で右側が博物館らしい。
「ねえね? これから見に行く所?」
「そうだけど⋯⋯?」
「だったらさ、一緒に付いて行っても良い?」
「別にいいよ」
「やったぁー!」
二人は歴史博物館に入館する。
ここでは展示室がいくつかに分かれており、綿貫観音山古墳から出土し国宝となった埴輪や副葬品、世界遺産富岡製糸場を紹介する展示品、富士重工へと姿を変えた中島飛行機、その他には昭和の一室が再現されていたりと、原始から古代、中世、近世、近現代の群馬の歴史をこの博物館だけで堪能できる。
美緒は、一際古墳の出土品に興味をそそられた。
土器や埴輪の他に、魔法使いの杖のような形をした装飾付大刀、三角縁神獣鏡なる鏡で古墳時代当時の人たちは太陽を反射させると、その光を魔物を追い払う魔除けとして使っていたそうで、それらがわかりやすい図解と共に展示されていた。
「こういうの好きなの?」
「う~ん⋯⋯今まではなんとも思ってなかったんだけど、なんでか面白いかもって思った! 好きなのかも!!」
童話少女になり、魔法を使えるようになったからこういった物に惹かれているのかな?
「そう——」
人一人が一生をかけても享受できない年月のものを記録し、残していた人たちがいたおかげでその歴史を学べている。
これは不老不死ではない、人間たちの賜物だ。
二人は、そのまま少し歩いた所にある綿貫観音山古墳も見学する。
「へぇー! さっきのやつはここから出てきたんだ!」
ここの石室は盗掘に遭わなかったため、あれほどの出土品が当時のまま残っていたようだ。
「わああぁー!!」
美緒は古墳のてっぺんを目指して駆け上がっていく。
「お墓ってより、山みたいだねっ!」
「⋯⋯そうね。普通は死者を地面に埋めるもの」
ピラミッドといい、何で昔の人たちは死んだ人たちを山の形にしたものに埋めたんだろうか⋯⋯?
「そこのお嬢さんたち! ちょっと、いいかな?」
「はいー! なんですか?」
おじさんが古墳を上ってくる。
「秋頃、かみつけの里の祭りで劇を披露するんだけど、急遽枠が二つ空いちゃってね。演者を募集してるんだけど興味ないかな?」
美緒は目を輝かせる。それって⋯⋯剣崎さんみたいにお芝居ができるってことだよね!?
「やりたいですっ!!! ⋯⋯はなちゃんはどうする?」
「あたしはいいかな」
「——あっ! だったら別の友達誘ってもいいですか?」
「もちろんいいよ!」
練習日などを一通り伝え終わるとおじさんは去っていき、花織とも別れ、美緒は祖父母の家へと戻っていく。
「ただいま!」
「あら、おかえりなさい」
庭先にいたおばあちゃんが笑顔で美緒を出迎える。
美緒はお盆の準備を再開した。ご先祖様が黄泉の国から現世に来れるよう、きゅうりと茄子で精霊馬と精霊牛を作り、盆棚に供える。
日が沈み始めた頃、玄関先で迎え火を焚く。
白い煙が天高くへと昇っていった。




