【18話】サイリング社
サイリング社、社長の庚申新一郎は公道を走る自社の自動運転トラックを見て悦に入りながら物流倉庫を訪れる。
現場責任者の男、平塚挂が社長を呼び出した。
「社長。産業廃棄物の処理が間に合っていないです。そろそろ委託してもいい頃合いではないかと思うのですが、いかがしましょう」
そんなことをしたって懐に入る分が少なることをこいつはわからないのか。
「産廃なんてそこらの山に埋めたらいいだろ」
「山⋯⋯」
「そうさ。そこのトラックを使って」
新一郎はレベル4の車両を指さす。
「お言葉ですが⋯⋯すぐに足が付くのではないでしょうか?」
「どこに埋めたかなんてわかるわけないさ」
新一郎は嘲笑いながらこの場を後にする。
「この後、報道陣が来るんだからそれまでに片付けておけよ」
新一郎はリポーターたちに綺麗になった工場を紹介して回り、それから取材を受ける。
「世間では、会社を立て直した社長の『神の手腕』を絶賛する声で溢れていますね」
「ありがとうございます」
女性記者の投げかけに、微笑みながら答えた。
「その秘訣みたいなものはあるのでしょうか?」
「そうですね——しいて言うならば、ありもしない未来を見ないことです」
「ありもしない⋯⋯未来?」
「はい。例えば、私がある日突然爆発で死ぬことが想像できないように、この会社がきれいさっぱりなくなるなんて想像できないんですよね。そうなれば、見えてくるのは成功する未来だけなんです」
新一郎は営業スマイルをカメラに見せる。
夕明り、庚申新一郎は貸し切りの和室料理店でペインティングマウスホールディングスのお偉いさんと会食をしていた。
「庚申くん。随分、順調そうじゃないか」
「お陰様ですよ。あれだけ資金と技術を援助してもらって失敗する方が難しいです」
「いや、誰にだってできるものじゃないさ。君に任せてやはり正解だったよ」
お偉いさんの目が変わる。
「ところでなんだが、レベル5にはいつ移れそうかね」
「そうですね⋯⋯こちらとしては来年——いや、今年中にでも着手できそうなのですが、如何せん法と承認の方が⋯⋯」
「はははっ! 安心せい。そっちの方は既に話を付けている。君は会社のことだけを考えていてくれたまえ」
「——承知しました」
会食を終えた新一郎はそのまま帰宅する。
「ただいま」
「おかえりなさい。あなた」
「おかえり、パパ!」
家に帰れば、こんな可愛い妻と娘に出迎えられるんだ。幸せ者だな。
新一郎は右手を強く握る。
そうさ。ここから逃げ出す奴なんて知ったことか。犬だって新しいのを買い直せばいい。この手にかかればなんだってできるんだ。
必ず、この街を手にしてみせる。




