【16話】雪解け水
期末テストが始まる。放課後は大体那岐と二人で過ごしていたのだが、伊吹も加えて三人で遊ぶことも増えた。
カラオケやボウリング、ゲーセンでたくさん遊んだ。
「はなちゃん、一緒に遊ばない?」
「ごめんね⋯⋯また今度!」
美緒も遊びに誘ったのだが断られる。
「今日こそ遊ぼうよ!!」
「ごめん——やることあるから⋯⋯」
また別の日も断られてしまった。これは伊吹も苦戦するわけだ。
一体花織は毎日何をしているのだろうか。やっぱり期末に向けての勉強なのかな?
そう、テストのラストスパートに向けて机で勉強している最中にふと思った。
夏休み前最後の登校日、テストも終わり全校生徒が体育館に集められる中、ステージに細身で爽やかな男子が上がる。生徒会長、元島榛名の挨拶が始まった。
「——と言うことで明日からは夏休みです。皆も事故に気をつけて過ごしてください。以上になります」
生徒会長の話が終わると全校集会は閉会する。
教室に帰るまでの廊下で伊吹が返却されたテストの話をしだした。
「美緒ちゃん結構、勉強してたん?」
「ふふっん! 那岐に対策ノートもらったからばっちしだったよ!」
一年生の時に二年一学期の範囲を予習していたとはいえ、要点のまとまった那岐ノートは心強かった。
「ええッ!? そんなの初耳なんだけど⋯⋯那岐!!」
「お前は勉強する時間いつでもあっただろ?」
「そんなこと言わずにー!! 次は俺も欲しいな~!!」
「嫌だよ」
「お願いお願いお願い!!」
「——わかったから離れろ!」
泣きつく伊吹を那岐は無理やり引き剥がす。
「あははっ! 那岐、押しに弱い!」
話しているうちに教室に着く。花織は既に帰り支度を済ませ、教室を出る所であった。
「はなちゃん! 今日は一緒に——」
「ごめん! やらなくちゃいけないことあるから⋯⋯じゃあね!」
申し訳なさそうに去る花織の後ろ姿に、伊吹は手を振って見送る。
美緒は手を振らず、花織に駆け寄り手を掴む。
「んッ!?」
「はなちゃん⋯⋯これから夏休みだしさ、一日だけでも一緒に遊ばない?」
「あたしは⋯⋯やることあって⋯⋯」
「私が手伝えることなら協力するからさ⋯⋯! 一日だけでも!」
「でも⋯⋯」
「テストも終わったし、みんなで遊びたいんだっ!」
「うーん⋯⋯」
「お願いお願いお願いお願い!!!」
「ん⋯⋯」
「——だめ?」
顔を近づけ、どんどん迫ってくる美緒に花織は悶々としながらも答えを出す。
別日。暑い夏の日差しが襲う猛暑の中、現地集合ではなく皆同じバスに乗って目的地に向かう。バスから降りると一同は太陽から逃げるようにすぐさま建物に向かう。
男子組と別れ、更衣室に入った美緒と花織はロッカーに荷物を入れて服を脱ぐ。
「はなちゃん! 来てくれてありがとね!」
「もー、何回も言わなくてもわかってるから」
呆れたように笑う花織と美緒は水着を身に纏う。このビキニは夏休み中に花織と一緒に買いに行った新品だ。
プールサイドの待ち合わせ場所に向かうと、那岐と伊吹は既に着替えを終えて待っていた。
「お待たせー!」
先に気づいて声をあげたのは伊吹であった。
「うぉー!! マジか!! すげぇ!!」
「二人とも似合ってるな」
「えへへっ」
「美緒様っ!! ありがとうございます!!」
「うむっ」
伊吹は下げた頭の上で手を擦り合わせている。よっぽど花織の水着が見れたことに感動しているのか、美緒に感謝しっぱなしであった。
花織は何も言わず、少し赤くなった頬を掻きその光景を見ている。
四人は早速、プールに入るため場所を移す。
那岐と伊吹は颯爽と流れるプールのスロープから入水する。
花織もスラッとした綺麗な足をプールに入れるが身体を跳ねらせた。
「あっ。冷た」
「わぁ! ほんとだ!」
花織に続いて流れるプールに足を入れると、熱々のプールサイドとは裏腹に冷たい水に一驚を喫する。
夏休みとあってプールには何十人もの人たちが一堂に会していた。
「きゃっ!」
美緒の顔に水しぶきが当たる。
伊吹が美緒、那岐、花織に水をかけてきた。
「やったなーっ!」
伊吹は皆いっぺんにちょっかいをかけたので、三人同時にやり返される。
「ちょ——たんまたんま! わかったっ⋯⋯わかったからー!」
流れるプールを堪能した一同は、ウォータースライダーを滑るべく階段を上る。
「ひゃーっ!!」
もちろん上って来た分、急降下して滑っていくのでスリルがあった。プールに勢いよく水しぶきをあげながら着水する。
疲れたら売店でジェラートを食べ、回復したら再度流れるプールに入り、おかけで美緒はすっかりヘトヘトになってしまった。
那岐と伊吹も楽しそうにしてたけど、花織も結構はしゃげており安心した。
「はぁ~⋯⋯!」
荷物を置いてあるシートまで戻ってくると美緒はうつ伏せで寝っ転がる。
「あー、気持ちいい~」
ちょうど真上を新幹線が通っているため、その高架が涼しさの極楽を生み出している。花織も流石に疲れたのか、美緒のすぐ横に同じように寝っ転がった。
「本当ねっ⋯⋯」
男子たちがトイレに行ってる間に美緒は話を切り出す。
「はなちゃん、今日楽しい?」
「⋯⋯楽しいよ。美緒、誘ってくれてありがとね」
「うんっ! 私もね、またはなちゃんとこうして遊べて嬉しいんだっ!」
花織の目をじっと見つめる。
「はなちゃんが何に悩んでるのかはわからないけど⋯⋯私、いつでも力になれるからね!」
予想外の言葉だったのか、一瞬驚きに満ちた顔になっていた花織であったが、すぐさま穏やかな笑みに変わる。
「⋯⋯ありがとね。でも、これはあたしがやらないといけないことだから。美緒はあたしに構わず大事な人との時間を大切にするべき」
花織は自身の手首を握りながらつぶやく。
「はなちゃんも大事な人だよ?」
その言葉を聞いた花織は手首から手を離した。
花織との会話中、美緒の視界外に黒い影が複数写る。
美緒たちの真上を飛んでいったのは鴨の集団で、隊列を組んだ鴨たちは急降下すると人混みなんていざ知らず、奥の競泳プールエリアに着水した。
周りの人たちは誰一人として騒いでおらず異様な光景に美緒は悟る。
「——ごめん、はなちゃん! ちょ、ちょっと用事出来たから行ってくるっ!!」
そう言い残し、美緒はプールサイドを走り始める。
「走らないでくださいッ!!」
「はいぃ!!」
係員に注意され早歩きで現場に向かう。
「⋯⋯いってらっしゃい」




