【15話】怪人芝居
どこか、誰かの家にテレポートさせられたと感じるほど一瞬の出来事であり、部屋の中を見渡すとベッドや本棚などの家具が配置されている。室内の色合い、センスから見ても美緒よりも幼い女の子の部屋のようであった。
それでいて、監禁部屋のようには見えない。
学習机の上にはボロボロになっている赤いランドセルが置かれている。
「これ、開かないぞ⋯⋯」
那岐がドアノブをガチャガチャしてもびくともしなかった。部屋には律儀に扉があるのだが、鍵がかけられており開かない。
【変身呪文】
変身した美緒は魔法を放つ準備をする。威力は弱くても、部屋ぐらいなら簡単に吹き飛ばせるんじゃないかな。
【攻撃呪文】
美緒は壁に向かって炎球を放ってみたが傷ひとつつかない。
もっと強い魔法を打てれば——今度こそ⋯⋯!
【攻撃呪文】
結果は同じで、その後何度魔法を使っても壁を壊せなかった。
那岐も変身して壁に体当たりしてみているが、部屋全体が金城鉄壁に守られている。あまりに頑丈で壊せず、結界でも張られているようであった。
「私たち⋯⋯閉じ込められた!? ——そうだ、スマホ!」
美緒が取り出したスマートフォンを二人して確認するが、画面上部には無慈悲にも圏外と表示されている。
助けが呼べないと悟った美緒たちには一層の焦りが募った。
「おーい!! だれかー!!」
「あのアホ鳥!! 出てこい!!」
二人して壁を叩き助けを試みるが、魔法でびくともしなかった部屋は声も音もかき消す。辺りを見渡しても抜け道や食料となるものも見つからない。
「那岐っ!!」
美緒は那岐の胸元に飛びつく。
「どうしようっ!? 出れないよ!!!」
那岐は美緒の不安を払拭させるため、抱っこしながら頭を撫でてくれた。
「大丈夫だよ⋯⋯きっと、ここの人が帰ってくる。それまでの辛抱だ」
そっか。ほこりもなく掃除が行き届いているんだし、日が跨ぐ前には開放されるよね。それなら少し、このシュチュエーションを楽しんでみてもいいかも。
「那岐——っ」
美緒が迫ったことで顔同士近づく。
どうせならこのまま⋯⋯
その時、ズサッと物音がした。
音の方角を振り返ると、壁に一本の剣先が部屋の外から突き刺さっている。
剣はそのまま大きく上に振られ、壁を切り裂く。
切り裂かれた壁穴からは日光が差し込み、二人を閉じ込めていた部屋は跡形もなく灰が舞い散るように消えていった。
二人は元いた場所に戻るのだが、目の前には青色の剣を手に持っている一人の少女がいた。剣士のように髪を結び、騎士服を着た男装姿をしている。
その少女が美緒たちに話しかけた。
「君たち、平気かい?」
美緒たちと同年代ぐらいだろうか、王子様系な風貌で気品があった。手には霜の剣を持っており、その足元には孔雀が死骸となって倒れている。
剣を鞘に納めた少女の元に、二人は駆け寄った。
「助かりましたっ!!! あなたは命の恩人ですっ!!」
「本当にありがとうございます⋯⋯!」
二人は手の平を合わせて生命の危機から救ってくれた少女に最大限の感謝をする。
「あははっ、大げさだよ。それにしても災難だったね」
少女は笑ってみせる。
「僕は剣崎瑠々。君たちは?」
「浅間美緒です!」
「柴崎那岐です」
「よろしくね。美緒くん、那岐くん」
剣崎は手を伸ばし二人と握手をし終え、場所をカフェに移す。
「お待たせしました。こちらカプチーノになります」
「ありがとうございますっ!」
美緒は頼んだ飲み物を店員さんから受け取る。
「美緒くんは⋯⋯童話少女であっているよね?」
「はい、そうです! 一昨日なりました!」
「そんな直近だったのか⋯⋯」
まだ童話少女に成り立てだから初対面の人も多い。
剣崎は中性的な容姿で髪はロングだが、短髪に見えるように後ろで長い髪を結んでいる。それにしても既視感があるというか、どこかでこの人を見たことある気がする。
「瑠々さんって⋯⋯」
「剣崎でいいよ」
下の名前はだめだったのかな。
「じゃあ、剣崎さん! 剣崎さんと私って⋯⋯会ったことありました?」
「⋯⋯どうしてだい? ——僕と⋯⋯知り合いかい?」
「もしかして——獣狩に出てました?」
美緒よりも那岐が先に思い出した。
「確かに!? 似てる——というか、本人っ!?」
この前那岐と一緒に見た映画に登場し、剣を携えていた少女と瓜二つ。既視感の正体はこれだった。
「あー! あの映画のことか。それなら僕で間違いないよ」
「剣崎さん、女優さんなんですかっ!?」
「——いいや、違うんだ。街中を歩いていたら監督にスカウトされてね。映画に出てくれないかって」
「えー!? そんなドラマみたいなこと、本当にあるんだ!!!」
美緒は好奇の目を向けた。
「今日も偶然ここを通りかかったんだよ。そのタイミングで魔獣に取り込まれた君たちを見つけたし、巡り合わせはあるものみたいだね」
「買い物中とかだったんですか?」
那岐が尋ねる。
「いや、ここから少し西の方で怪人を見つけたんだ。けれど、この辺りで撒かれてしまってね」
「それって——キャディですか?」
「あれ、知ってるのかい?」
「はい⋯⋯もう二回も殺されてまして⋯⋯!」
「そうか——なったばかりだというのに、それは苦労したね」
剣崎はカップを持ち、コーヒーを口に入れる。
「それで、どうだい⋯⋯? 倒せそうかい?」
「わからないですけど⋯⋯絶対、絶対倒します! 怪人はいなくなるべき!! ——だと思うので!」
自信たっぷりの美緒に剣崎は優しい笑みを浮かべる。
「君ならきっとできるよ」
コーヒーを飲みきった一同は店を出る。
「まだこの辺りに潜んでいるかもしれない。気をつけて帰ってくれ」
「はいっ!!」
「わかりました」
一息ついた三人は解散となり剣崎は一人別方向へと向かう。
「や~っと邪魔者いなくなった」
美緒と那岐の耳に聞き覚えのある声が入る。目の前、上空を浮かぶキャディの姿があった。
「か、怪人!?」
「妾はお前たちが孔雀と遊んでる時から待ってたんだからヘトヘトだよ」
怪人は大きな和鋏を二つ取り出す。
「さあ、早く武器を持て」
急な出来事に困惑しながらも美緒は変身をする。
【変身呪文】
どちらが攻撃を先に仕掛けるのか両者顔を見合わせるが、その間を割って入ってくる少女がいた。
少女の持つ剣が怪人に向けられ、相手の和鋏と鍔迫り合いが起こる。
「剣崎さんッ!?」
反動でキャディと剣崎はお互いに後方に飛ばされる。
「なーんで邪魔するかな~」
「この子たちに手を出すな。相手なら僕がする」
「そういうこと言ってるんじゃないの」
怪人は剣崎の足元から糊を引き寄せた。
しかし、剣崎は手足を拘束される前に、自身に迫りくる糊を剣で断ち切った。
キャディは舌打ちをすると、物凄い速さで空へと姿を消していった。
「二人ともすぐに逃げてくれ!」
「えっ⋯⋯」
「那岐くん。美緒くんを守ってあげて」
「⋯⋯わかりました。行こう、美緒」
「えっ!? でも——」
美緒は那岐に手を強く引っ張られ、その場を離れさせられる。剣崎は怪人の後を追いかけるため飛び去った。
「那岐っ——剣崎さんの助けに入らないと⋯⋯」
「今日は忠告を聞いておこう——それに剣崎さんはあんなに強いんだ。きっと大丈夫だよ」
「うん⋯⋯」
剣崎と別れた後、美緒たちは寄り道をせずに家に帰った。剣崎が食い止めておいてくれたのか、その日は怪人を見ることはなかった。




