【12話】カーアクション
美緒ははぐれてしまった那岐を探し回る。魔獣もどこかへ姿を消してしまったのかまったく気配がない。
「那岐ー! 那岐ーー!」
捜索すること数分、民家の敷地内で倒れている人影を見つけた。そのすぐそばには一本の木が植わっている。
「那岐ッ!!」
それは猫の変身が解かれていた那岐であった。
那岐の真上には葉っぱが生い茂っており、これが衝撃を吸収してくれたのだろうか、息はある。
【支援呪文】
那岐の身体に出来た、些細なかすり傷も元通りに治っていった。
「う⋯⋯ッ」
「那岐っ!」
気を失っていただけのようで那岐はすぐに目を覚ます。それと同時に、辺り一帯が大きく揺れ始めた。
ドスン、ドスンと音が響き渡ると、民家が突如として宙に浮いて吹き飛ばされる。野次馬に来ていた人たちは逃げ惑う。
魔獣の雄叫びが響き渡る。魔獣は活動停止しておらず、那岐同様気を失っていただけのようだった。
「まだ倒せてなかったのッ!?」
魔獣を覆うように修復していた家が再び全壊した。向こうからは美緒たちのことをまだ視認していないのか、暴れた素振りはみせていない。
「ごめん、那岐っ!」
美緒は抱えていた那岐の頭をゆっくりと地面に置く。
「——いいんだ⋯⋯決着つけてきてくれ」
「うん⋯⋯!」
美緒は手を握り合ってから空へと浮き上がり、魔獣に攻撃を仕掛ける。
【攻撃呪文】
美緒の身体ほどの大きな炎球は魔獣に命中するが、この攻撃によって魔獣側も美緒を視界に入れる。
魔獣は建物を壊しながら突進してくるため、美緒は飛びつつ後ろに下がっていく。
「⋯⋯ッ!?」
急速に迫ってきた魔獣は美緒とぶつかるまであと一歩の所だった。
「——危なっ!! あんな速かったけ!?」
美緒は更に上空へと飛んで避難する。魔獣は、先程までと段違いの速さにスピードアップしていた。
ここまで飛んでくれば安全圏のようで魔獣の攻撃は当たらない。
那岐も心配だけれど、狙いは美緒だから大丈夫だろう。ちゃっちゃっと倒さないと。さっきみたいに大きな魔法を魔獣に——
【攻撃呪文】
ステッキから放たれた炎球は魔獣へと一直線へと向かう。
だが、あまりに距離が離れており、魔獣が躱し切るには充分な時間があった。
だったら、威力が弱くてもスピードを速めて、たくさん撃たないと。
【攻撃呪文】
何発も弾丸のように放たれた炎球だったが、それさえも魔獣はいとも容易く避けきる。
仕方なく美緒は降下していき、魔獣が避けきれないギリギリの距離まで近づいた。相手の攻撃が当たらないように集中して特大の魔法を打つ。
【攻撃呪文】
魔獣に直撃するのだが物ともせず突進を続けてくる。
多分、さっきまで静かだったのは爆発に巻き込まれたからだよね⋯⋯
美緒の攻撃では威力が足りないのかもしれない。それと同等か、もしくはもっと大きな爆発が必要。
美緒は民家の横に止められている自動車が目に入る。
「——そっか⋯⋯車っ!!」
それならさっき以上の爆発に期待できるかもしれない。それには数台とか半端な数じゃなく、大量の自動車が必要だ。
近くにはバイパスが通っているし、あそこまでおびき寄せれば勝てる見込みがあるかもしれない。
美緒は国道17号が通っている西側をちらっと見る。近くの球場でナイターをやっており、賑わいを見せていた。
「これだったら、もしかして⋯⋯!」
名案が浮かんだ美緒は胸を躍らせる。
美緒は攻撃を止めて逃げに専念し、暗い夜道を球場の光を頼りに飛んで向かう。魔獣は鼻息を荒くしてそのすぐ後を追いかけてきている。
待っててね、那岐。とどめを刺してくるから。
美緒は球場までやってくると、それを横目に道路を挟んだ向かい側にある立体駐車場に入り込む。そこへ魔獣を誘い込んだ。
魔獣は高さ制限2.1メートルギリギリで、天井のコンクリから粉を撒き散らしている。それでも魔獣は美緒にしか眼中がなく追いかけてくる。
美緒も天井にぶつからないように上手く飛びつつ、スロープを上がり二階、三階へと上がっていく。結構遅い時間帯ではあるが、駐車場には無数の自動車が停まっていた。
魔獣が通過した後の床のコンクリートはひび割れ、今にも崩れ落ちそう。
美緒は四階に上がった曲がり角、咄嗟に自動車の影に隠れて魔獣を撒く。魔獣から撒く方法は那岐に咥えられている時に学んだものだ。
魔獣は美緒の事を見失ったとともに、駐車場からの出かたがわからず暴れ散らかし、車や壁に体当たりを繰り返している。立体駐車場は元から自動車が落ちないよう頑丈に作られており、魔獣の突進でもへこむぐらいの損傷だ。
「降り方なんてわかんないでしょっ!」
魔獣はヘトヘトなのか、心なし目が泳いで見える。来た道をただ戻ればいいだけなのに、そんな考えも及ばないみたいだ。
その隙に美緒は立体駐車場から飛び降り、一階に停まっている自動車にステッキを向ける。
【攻撃呪文】
美緒の放った魔法の炎が車全体を包み込む。その後もゆっくりと二階、三階と上昇していき、美緒は自動車に火をつけてまわる。
四階まで上昇していくと魔獣と目が合った。
「あなたがそこまでして私を目の敵にしているのか、そんなのわからない」
標的を見つけた魔獣は美緒に攻撃しようと迫ってくる。
「でも、あなたが私を殺してきたんだから、私もあなたを殺す」
立体駐車場の基準重量を大幅に超えた魔獣は、コンクリートを突き破り悲鳴を出しながら三階へと落ちた。
【攻撃呪文】
そこへすかさず追撃の炎球を放つ。
火がまわった自動車は他の車も巻き込んで誘爆していき、魔獣もろとも大爆発を起こす。次々と車が爆発したことで辺りは火の海となり、立体駐車場は完全に崩壊する。
その後、ぺちゃんこになった瓦礫の山から魔獣が出てくることはなかった。魔獣からだろうか、灰が舞い散り猪の死骸が散乱しているのが見えた。炎はその死骸も燃していく。
燃えるものがなくなった瓦礫は火が弱まり鎮火する。瓦礫や自動車が元通りに修復していく。
一階には猪の焼けただれた肉片や骨が山積みになっているのが見えた。
美緒は回収業者を呼ぶため電話をかける。
「はい、こちら高崎本部です」
「回収をお願いしたいんですけど⋯⋯」
「あれ——その声、美緒ちゃん?」
「あれ!? 琴さんですか?」
「そうよっ! 遅くまでご苦労さま! 場所はどこかな?」
「野球場横の立体駐車場です」
「わかったわ。すぐに向かわせるわね! それとなんだけど——」
「わ~おっ」
琴との電話中、後方から聞いたことのある声が耳に入る。
「驚いた〜! 結構残忍なのね、お前」
「あの時の⋯⋯ッ!?」
振り返った美緒の目にはショッピングモールで殺してきた、あの怪人の姿が映り顔を青ざめる。
「あなたがあの化け物を生み出しているの?」
「化け物ってひどーい。妾のかわいいペットなのに」
「ペットって⋯⋯」
「も~~~と、無様な死に方が見たかったのに⋯⋯これだけ用意したのがコスパ悪いったらありゃしないっ」
そう言い終わるとキャディは不気味な笑顔を浮かべていた。
「主が無念を晴らしてあげるからね」
キャディは武器を手に取る。両手に和鋏が握られていた。
やらなきゃやられる——
「⋯⋯ちゃん! ——美緒ちゃんッ!!」
電話口からは琴の声が聞こえてきたが、美緒は構わず携帯を地面に放り捨てた。
キャディは武器を構え、美緒の方をただ見つめている。




