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ブレインシード:ツーサイド・ジャッカーズ  作者: リオ
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12/26

『介入』

 木製のテーブルに突っ伏して、ジャックは眠りをむさぼっている。真っ赤な夕日に照らされた木肌のぬくもりが、とても心地よい。

 その安穏とした眠りのさなか、少女の声が聞こえる。年のほどは十六、七だろうか。凛として涼やかな、錫を打ったような声だ。


「―やめてくれないか、俺はひどく眠いんだ」


 青年は眠い眼を何とか開けて、声の主を見ようとするが、差し込む鮮やかな日差しがまぶしくて、顔が見えない。右手で日光をさえぎろうとするが、それも叶わない。


「あれ―俺の腕は―」


 未だ心地よい眠気にあらがえないまま、意識は眠りと覚醒の間を往復している。そのさなか、少女の指に紅玉の指輪がはまっているのをかろうじて目にした。


「ジャック」―俺を知っているのか。

「怠惰なのね、弱いのね、いつまで寝ているつもりなの?」

 

 青年を叱咤する内容に反して、声の調子にはどこか優しい響きが含まれていた。

「足りないものが、あるんじゃないの?」

 語尾がいたずらっぽく上がり、少女の手のひらがするりと青年の()()を撫でたのが分かった。

 ―足りないもの?

 自問に自答する前に、雷が彼の身体を駆け抜けた。全身の筋肉が硬直し視界が真っ白に染まる中、聴覚だけは鋭敏すぎるほどに働いていた。


『僕の正義と君の正義は、同じ根を持っている』

 ―失ったはずの青年の右腕から、記憶の奔流が流れ込んでくる。


『娘を提供しよう』男の声。穏やかだが、冷たい声。

『あんたは必ず、あたしが解放する』決意に満ちた女性の声。

『『巨人の腕』ー』驚きと蔑みの声。

『またおいで。新しいメニュー、考えておくから』温かい壮年の男性の声。

『『あれ』が必要なのさ。必ず』思慮深い少年の声。

『僕は必ず、ブレインシード計画を完遂する』深く澄んだ少年の声。


『斧が欲しいんだ。みんなを守るための、大きくて強い斧が』紛れもない、幼いころの彼自身の声。

 必要なもの、それは。

「斧だ、弟も、—父親も。家族を守るための強くて、大きな斧が。」

 喉がうまく動かないが、何とか言葉を押し出す。


「なぜあの斧が欲しいの?今のあなたにはもう何もないでしょう?守るものも、そして斧を握るための腕も!」

 ほとばしる記憶の奔流の向こう側から、少女が語り掛けてくる。その口調はどこかジャックを試しているかのようだ。

 ―確かに何もない。このまま消えてしまえたら。もうあの得体のしれない『樹』と戦うことも、気味の悪い『ヤドリギ』を振るうことも―

『お兄ちゃん!』自身を呼ぶ幼い声が、自問に沈んでいた彼の意識を引き戻す。


「ジョン」

 ぶくぶくと、頭の中心で何かが渦巻いている。

「そうだ、あいつが望んだのは一日一個の卵だった」

『だって、毎日目玉焼きが食べられるんだよ…』眠り際につぶやいたささやかな願い。

「あいつが、誰の、何を奪った」

 ≪ーれ。≫

『嫌だ、やだやだ死にたくない!』小さな体で兄に向けて叫んだ、最期の声。

 ≪—れ。≫ 渦巻く音が、形を成していく。


「確かに、今の俺に守るものはない。だから取り戻すんだ!そのためにあの斧がいる―そして振るうための腕がいる!」

 少女のころころと笑う声がする。

「自分勝手ね!執念深いのね!それでこそハウリー、あんたの息子!」

 白く華奢な手には、赤い金属で成形された枝切鋏が握られている。

「自覚しなさい、ジャック。自らの狂気の源を―この世界に打ち込む『怒り』を!あんたはもう、 ただの木こりじゃいられない。だからこそ、この世界を伐るのにふさわしい!」

『登ってこい。高い、高い、マメノキを伝って…『彼女』をここから解放してくれるのは、お前の『怒り』だけだ』

 思いつめたように微かな、しかし―。

 『頼んだよ、ジャック』

 幼いころの自分があれほど望んだ、あの声。


「クソ、一回だけ。そうだ一回だけだ。なんでも願いを聞いてやる。だから―」

 

 ≪ー怒れ!≫

 

 ジャックは今は失われた腕を天にのばして、あらん限りの声を張り上げる。


「だから、さっさとその『腕』をよこしやがれ!クソ親父!」


 ちょきん。

『接続(graft)』

 鋏の音が響いた。

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