独りぼっちの戦い
部屋にポツンとあるモノ…。アリスの城にもあったから知ってる。
ヴァンパイアが寝る時に使う棺型のベッド。オレも初めにアリスから力をもらった時には利用してた。
そういやあれ以降は普通のベッドで寝てるな。
日光に耐性ができたからとかアリスは言ってたっけ…。
最近は決まった拠点があったわけでもないし、アリスもアイナも当たり前に宿のベッドで寝てたから久しぶりに見たな。
まさかまた新たなヴァンパイアか?もう嫌な予感しかしねぇ…。
恐る恐る近寄ると蓋がぴっちりと閉まってる。これは中に居るのか居ないのかすらわかんねぇな…。
でも無理に開けて、もし寝てる奴がいたら気まず過ぎる。
……一旦これは放置やな。
部屋の中をもっと調べたほうがいい。うん、そうしよう。
部屋はかなり広く、天井も無駄に高い。まるで学校の体育館やな…。
ユリノ姉から貰った暗闇でも見える能力とヴァンパイアの力のおかげで全体を見れてはいるんやけど、例の棺以外なーんもねぇのな?
壁沿いを歩いてあちこち触れてみたり、壁をコンコン叩いて回ってみたりと色々と試したけど、特に変わった物もない。
こう、グルンって開く隠し扉とかそんなのを期待したんやけどなんの手応えもなし。
やっぱりあの棺型ベッドを調べるしかないか。
近寄ってどうしようかと悩んだ結果、まずは蓋をノック。
「おはよー。誰か居てるか?」
声もかけてはみたが、なんの応答はなし。
仕方ねぇ…。もし中に誰か居たら謝るか。
蓋の縁に手を掛けて、一気に押し開く。
ズズッとズレた蓋の隙間から覗き込むと、ムワッと中の空気が顔にかかり、物凄く嗅ぎなれた香りが…。
「これってアリスの…」
忘れる筈もないアリスの甘い血の匂い。
でも中にアリスがいる訳ではなく、乾いた血がそこらじゅうにこびりついてる。
これってアレか?アリスが怪我をしてた時に、回復のためって閉じ込められたとかいう場所だったり?
だとしたらアリスがここから出た方法があるはずなんやけど…。
もう一度部屋中を見て回ったけど、やっぱり何もなく。
ヴァンパイアは飛べるのを思い出して、翼を広げて天井や壁の高いところも見てみたけど何も……。
「はぁ…っ…なんっだ…これ…」
少し前からイライラするというか、無性に喉が渇く。
飛んでるのも辛くなり、フラフラと落下するように引き寄せられたのはアリスの棺型ベッド。
「なんっなんだよ…これ…アリス…アリス…」
棺の中へ頭を突っ込んでる自分に気がついて、ふと急に冷静になった。
これ、あれか…。ヴァンパイアの渇きってやつ。アリスの血の匂いにヤラれたんやな。
だからって棺を舐めようとするとか絶対におかしい。なによりアリスと約束してる。
”乾いた時は必ずアタシから直接飲むのよ?まだ未熟なアリサでは携帯用の血では満たされず、かえって乾きが悪化するの。だから渇いた時は無理せずに必ずアタシに言いなさい”って。
ユナ姉は小瓶からでも大丈夫なのにか…?って聞いたら、”真祖のアタシの力を分けたアリサと、アリサから少し血をもらってヴァンパイアになっただけのユナが同じ訳がないでしょう!”って叱られたっけ。
つまりだ、この渇きを癒せるのはアリス本人だけ…。
なのに、今はもう部屋中にアリスの匂いが充満してるみたいでどんどん喉が渇く。
「くそっ…」
せめてこの部屋から出られたらなんとかなるやろうに、出口もなければワープも使えねぇ。
どこか別の場所に……あっ、いいもの持ってるじゃねぇかオレ。
テントを出して……あれ?テントが出せねぇ!
「あっ…」
そうだよ、テントも食料も武器も着替えも全部取り出して茉莉花に見せてたんだ…。
やっべーぞこれ。
手持ちにあるのなんてちょっとキレイな石っころやいい感じの枝……。
ってオレはまたこんなもんばっかり、いつ拾ったんや!
後は食っていいかもわかんねぇ木の実やキノコ。
相変わらず意識せずに拾い集めてんのな?我ながらなにしてんのや?と突っ込みたくなる。
ただ、別の事に気を取られたお陰なのかわからんけど、部屋に充満するアリスの匂いに慣れてきた。
これ、あれか。意識するから余計に気になんねやな?だったら他の事に集中したらいい。
よし、ダンジョンについてセーラにさんざん教わった事を思い出してみるか。
まず、今回みたいに罠とか突然の敵に分断されて仲間とはぐれた場合だ。
一人になった時は冷静に周囲を観察。最優先は敵がいるかどうか。
「敵はいねぇな。もうさんざん歩き回った後やし」
敵がいないのなら慎重に移動、下層ではなく上層への階段を探す…。まれに登るタイプのダンジョンもあるけどその場合は逆になる。セーラのピラミッドがいい例だって言ってた。
「これに関しても一切の出口が無いのはもう確認済みやな」
出口も何も見つけられない場合は、安全の確保をしてから水や食料の確認。
「無いな。あるのは調理しなきゃ食えない食材類と、ショコラータで拾ったケーキ類。一応これは食料としてカウントしてもいいか。食材に関しては水がねぇから何もできねぇな。テントが使えたらどうとでもなったのに…」
無いものをアテにしてもしょうがねぇ。
「なーに難しい顔してるの?」
「武器も水も無いからどうしようかと思ってさ。しかもここって棺以外、出口もなーんもあらへんしやな…」
「ふむふむ。それで?」
「だから…」
ん…?オレは誰と話してんだ?
声のする方を見たら、よく見知った顔が…。鏡で見るオレ自身によく似た……女の人………。
「え、誰!?どっから湧いて出やがった!」
「言い方に気をつけなさい。そもそも人に名前を聞くときは先に名乗るのが礼儀だと思うんだけど? まぁいいか…私は佐々木秋乃。君のご先祖様だよ。敬意を払うように!」
「アリサ・レイア・ペティオラレです。 ってご先祖様!?」
確かにお母さんの姓は佐々木だったよな…。てことはお母さんの方のご先祖様?
「そっちじゃなくて零の方で自己紹介してほしいんだけど」
「えーっと、佐々木零です…」
「おー、ちゃんとうちの家系続いてるんだね。ホッとしたよ」
うちのお父さん婿養子だからな…。お母さんの家が古くから続く家だから、跡継ぎが必要なんだとか言ってたっけ。
一時期お世話になっていた祖母の家でそんな話を色々と聞いたような…?もう結構前だから忘れたけど。
「さてと、役目を果たさないとね」
「役目って?」
「元勇者として子孫を見極めさせてもらうよ」
は?
腰に二本差してる刀を抜くといきなり斬りかかってくるご先祖様を名乗る元勇者…元勇者!?
いやいや、ちょっと待ってくれ!
「話を…」
「私を倒せたら聞いてあげる」
刀を振り回す相手にどうしろと!?
とっさに霧化して高いところへ避難したけど、あの人動きがめちゃくちゃ早い! ここ無駄に天井高くて助かった…。
こっちは近接戦闘なんて出来ねぇし、武器もない丸腰やぞ!?ご先祖様まで理不尽かよ!
「降りてきなさい! 飛ぶのは卑怯でしょう!」
「丸腰相手にいきなり斬りかかってくる方が卑怯やろうが! なんやねん、何がしたいんや!?」
「うぐ…武器くらい持ってるかと思って…」
「武器も水も無いから困ってるって言うたやろ! 話聞いてんのか!?脳筋かよ!」
「イッラァ!! こっちも敬意を払えって言ったよね!?」
「知るか! いきなり訳もわからんまま斬りかかってくるような奴にどんな敬意を払えってんだよ。 今あるんは警戒と軽蔑やわ!」
「腹立つー! 降りてきなさい!」
「ヤダね。 悔しかったら飛んでこいよ。無理ならそのまま地団駄踏んでろや」
「ムキィーーー!」
なんやろ、短気で煽りに弱いのは理乃姉そっくりやな。怒り方までそっくり。見た目はオレに似てるのに。
はっ……! もしかしてオレもあんななのか!? それはちょっといややな…。
「…はあもう。 わかったよ、話してあげるからとりあえず降りてきなさい」
「降りた途端また斬りつけるんやろ?その手に乗るかよ」
「あのねぇ…これでも私は元勇者でもあり剣客なの! そんな卑怯なこと…」
「ついさっき普通にしたよな?直前の自分の行動を思い出せや」
「むぐ…。 オリエル様ーこの子正論で殴ってくるんだけどー!」
オリエル様…? イリエル様やなくて?




