ダンジョンへかける想い
学校終わりに、茉莉花に誘われてノーラのダンジョンへ。
本格的なダンジョンアタックはまた後日になるけど、準備だけは念入りにしておこうと言われては断る理由もない。
オレは普段、大した準備もせずに入ってたなぁ…と。姉達に頼ってばかりだったんだと実感する。
ノーラのダンジョンは、入ってすぐの所にはショップやら出張ギルドの受付があるから、準備するにはちょうどいいのは間違いない。
「ここで薬品や武器防具、非常食やテントとかの野営グッズと必要になるものすべてが揃う。 いいか?ダンジョンでは本当に何が起こるかわからねぇ。トラップでパーティが分断される場合だってあるんだ。一人ハグレたとしても身を守れる用意だけはしておけ。いいか?これは脅しでもなんでもねぇ。真剣に準備しろ」
茉莉花は真面目な顔でそう言う。
実際、それくらい警戒しておかないと危ないという意味なんだろう。
ちょっとコンビニ行ってくる、みたいな感覚でダンジョンへ入れる姉達が特殊なんやな、と改めて思う。
ただ、あれやな。
こうやって準備するのも楽しい。まるで遠足の前みたいな感覚。
ダンジョンには危険もあるんだから浮かれてる場合じゃねぇってのは理解してても、楽しくなるのは仕方がない。それに、楽しんだらいけない訳でもないやろ。
実際、楓花達だって楽しそうにしてるんだから。
「僕もテント買わなきゃ。レイアちゃんの持ってるほどの物はまず出回らないだろうけど、出来るだけいい物を選びたいね」
「ええ。シャワーとベッドは必須です。リンもいいものを選びなさい」
「いいのですかぁ〜?」
「もちろんです。一番いいものを選びなさい」
「はぁい〜!」
買い物の仕方が金持ちのソレやな。…ってみんな王族だし金は持ってるか。
「レイアもしっかり買えよ。金がないなら俺が出してやる」
「大丈夫やって。オレもある程度の金は持ってるからな。 ただ、必要なものはもう持ってるんだよ」
「後で確認するからな?」
「それはいいんやけど、さすがに楓花達が悪目立ちしすぎじゃね?」
いくつかあるショップでワイワイと騒ぎながら買い物してるから、かなり注目を集めてる。周りではヒソヒソと話してる奴らや舌打ちしてる奴らも…。
無理もないか。ここへくる少し前にセーラから聞いた話を思い出す。”ダンジョンへ潜るのは、一攫千金を夢見る者ばかり…?人によってはほほ無一文の様なギリギリの者もいる…?ピリピリしてる場合もあるから刺激しないようにね…?”って…。
実際、ここにいる人らの大半がそれに近いんだろう。
オレもユリノ姉と二人の時は、その日の宿代を稼ぐために仕事をしてたからな。
少しくらい周りの人らの気持ちはわかる。
金持ってる人間が道楽でダンジョンへ…みたいに見えるこの光景を快くは思はねぇだろうなってのは。実際には本気だったとしても。
「実力もないのにダンジョンで稼ごうなんて安易な考えでここへ来てるようなアホはどうせすぐに死ぬ。しっかり準備してる楓花達は間違ってねぇよ」
「いや…茉莉花。そういう事を大声で言うなって」
一気に空気が悪くなったぞ?
「言ってくれるねぇ。あたし達は生活のためにここにいるんだよ。金持ちの道楽でこられたら迷惑なんだよ!」
ほら〜絡まれたやん…。
リンみたいなモフッとした獣人の女の人が毛を逆立ててキレてる。
「あぁん? んだぁ…テメェは。道楽じゃねぇよ。俺らはダンジョンを最下層までクリアするつもりで来てんだよ。その為の準備だ。 小金を稼ぎたいだけの雑魚はすっこんでろ」
「なんだと!?」
「ちょっと…やめなって…ソイツに絡むのだけはヤバいから」
「ここまでバカにされて黙ってられるか!」
仲間なのか、止めてくれてるのに激高してて聞いちゃいねぇな。
「お仲間の言うことを聞いておいた方が身のためだぜ?小金さえ稼げなくなるぞ?」
「っるせぇ!!」
叫びながら腰に差してる剣に手をかけた瞬間、茉莉花のキレイな回し蹴り。
止める暇もなかったな…。思いっきり顔を蹴られて吹っ飛んでったぞ!?
更に追撃しようとする茉莉花を慌てて止める。
「やり過ぎだ茉莉花!」
「止めるな! ここじゃ舐められたら終いなんだよ!」
「もう気を失ってるだろうが。それ以上手を出してなんの意味が…」
「周りの奴らへの警告だ。俺たちに絡んだらどうなるかってな! まだこんなアホがいやがったか」
この言い方、前にも似たようなことがあったんやろうと容易に想像がつく。
そして茉莉花がダンジョンへ一人で行ってた理由にもなんとなく予想がついた…。
「茉莉花、それ以上やるならオレはもう手を貸さねぇぞ? ここにいる人達だって生きるために必死なんだ。それをバカにするのは違うだろ?」
「甘いんだよ。どのみち今の蹴りを躱せない程度ならいずれダンジョンでのたれ死ぬ。ダンジョンってのはそういう場所なんだよ」
「だとしてもだ、頼む予茉莉花」
「チッ…。 わぁったよ…。 いいか?今は俺の大切なコイツに免じて許してやる。次絡んできたやつは二度とダンジョンに入れねぇように潰すからな」
だからさぁ…。はぁ……今は茉莉花も気が立ってるから何を言っても無駄か。
それより今は…。
蹴り飛ばされて気を失い、仲間に名前を呼ばれている獣人の元へ駆け寄る。
「ドリー! しっかりしてドリー! どうしよう…今はもう薬を買うお金もないのに…。ドリー! どうしたら…」
「診せてくれ」
「何する気!? もうこれ以上はやめて…! 私が代わりにいくらでも謝るから!」
「治療するだけやって。悪かったな…」
倒れてるドリーと呼ばれてる人は白目を向いて口から血を出してて、多分歯が何本も折れてるんやろうなぁって状態。容赦ねぇな…茉莉花。
だけど、いざ治療したら、歯だけじゃなく吹っ飛んで叩きつけられたせいで骨も何本かいってたし、放置したら本当に死にかねない状態だった。
「嘘……牙も元に戻ってる!?」
「もう大丈夫だ。悪かったな…。かなりの大怪我だったから目が覚めてもしばらくは大人しくさせておいてくれよ」
「え、ええ…。でも…」
「ん?」
「治療費を払えるようなお金なんてないの…」
「いらねぇよそんなもん。オレの仲間が怪我させた治療をしたんだからな」
「でも…」
「気にすんなって。こっちこそ本当に悪かった。 でもな、オレ達がダンジョンを攻略しようとしてるのは本気なんだ。だからその準備をしてる、そこだけは理解してくれ」
「…ありがとう。本当に…」
泣きながらお礼を言われると心が痛いわ。やったのはオレの仲間の茉莉花なんやし…。
茉莉花のところへ戻ると楓花達も集まってきてた。
「ごめんね、レイアちゃん。僕達ももう少し周りに気を使うべきだったよ」
「すみません…レイア様に謝らせるような真似をさせてしまって…」
「ごめんなさいなのぉ〜…」
「いいって。あの人の怪我も治したからな。 それより準備はできたのか?」
「うん、必要なものは揃えたよ」
「はい。いつでも本格的なダンジョンアタックへ挑めます!」
「ミヌエット様に〜買ってもらったのぉ〜」
「……よし、じゃあチェックしてやる。一度ダンジョンに入るぞ」
ブスッと不貞腐れた茉莉花はオレ達をダンジョンへ強引に入らせた。
「買ったものを出して並べてみろ。足りないものがあったらもう一度やり直しだからな。よし、レイアからだ」
ダンジョンに入ってすぐの場所でオレたちへそう言う茉莉花。
見せればいいんだよな?
テントに着替え、弓とかの武器に食品。後は使ったことねぇけど薬の瓶を何本か出して並べる。
「レイア、お前どれだけ持ってんだ…」
「だから大丈夫だって言ったじゃねぇか」
「お、おう。レイアは合格だな。 次は楓花!」
「は、はい!」
楓花が荷物を出してる間に、茉莉花はオレの隣に来てボソッと…
「悪かったな…」
「治療の事か?別にあれくらいいいけど、さすがにやり過ぎだぞ?あの人死にかけてたんだからな」
「は…?そんなバカな…」
「治療したんだから嘘なんていうかよ。茉莉花は強いんだから加減しろって」
「…悪い。 でもな、あの程度でダンジョンに入るのは本気でやめた方がいいんだ」
「何か…あったのか?」
なんつーか、切実な雰囲気を言葉の節々から感じるんやけど…。
「……前にな、組んでたダチがいたんだよ。そいつはダンジョンでハグレたっきり…な。アイツは弱かったから。俺が守ってやるってダンジョンに連れて行ったばっかりに……」
「そうか…」
茉莉花もダンジョンが危ないって身を持って知ってるからこその警告でもあったんだな。それにしたって言い方ややり方ってものがあるだろうが…。
茉莉花の仲間か…。ノーラ、茉莉花の仲間はやっぱりこのダンジョンで死んじまったのか?なぁ…答えてくれよ…。
これだからダンジョンは嫌いなんや…。
姉達も無事なんやろうか……。
”甘いなぁ、レイアちゃんは。 そんなレイアちゃんにもちょっとした試練を課すね。クリアできなかったら強制的に連れて帰るから”
誰や!?
どこかで聞き覚えのあるような声が頭に響いて頭痛が酷い。
「レイア!? おい、どうなってる!! こんな一階層目に分断トラップがいきなり現れるわけが…」
茉莉花の焦った声が途切れ、気が付いたときには一人で全然違う場所に一人で立ってた。
「どこだよここ!? ってかさっきの声誰や!」
オレの質問に答える声は無くて…。
仕方なく周りを見渡したら、一つだけ見たことのあるものが。
「これ…あれだよな? なんでこんなもんだけぽつんとあるんだよ!!」
意味わかんねぇ…。




