不安と焦り
エルフの里で一晩お世話になり、レイアとの時間もゆっくり取ることができた。
うちらは結構な大人数だったのに嫌な顔一つせずもてなしてくれたゼファーラには感謝しないとな。
うちのお母さんとは違い、おっとりとして柔らかい雰囲気なのは何処かシノ姉と似ている。だからかレイアもよく懐いてる様子。
実際、シノ姉も似たもの同士ウマが合うのか、今はゼファーラと料理について意見交換しながら料理の真っ最中。どちらも料理は上手いし、話が合うんだろう。
流石にまだうちはあの会話に混ざれるほど料理の知識はないからな。
レイアはいつも通り家事の手伝いだったりとよく動く。あまりじっとしてることが無いのは昔からか。
お父さんの手伝いやシノ姉の手伝いをいつもしてたし。だからこそ家でシノ姉に次いで料理が上手いのもレイアな訳で…。
お母さんもそんなレイアをいつものように微笑ましく見てる。
少し前なら零くんが近寄ってきた途端険しい表情になっていたけど、今はそんなこともなくなった。
ある意味、うちだけじゃなくお母さんにも今回の色々な出来事はマイナスばかりでもなかったのかもなぁなんて思えるようになったのは心に余裕ができたからかもしれない。
お茶やお菓子もレイアがうちらに持ってきてくれる。
「おかわり欲しかったら言ってくれよ?」
「ありがとう、レイア。ここに随分馴染んでるね?」
「ん?そうかな…。 ゼファーラさんはいい人やし、ご飯も美味しいからな。 そうそう、学校の食堂も普通に和食が出るからびっくりしたんだ」
「へぇー。何か理由があるの?」
「和桜の国の女王様の影響やって聞いたな、カピバラックにあった和風旅館のオーナーは女王様らしいし」
うちらも宿泊したところか。あの女王、手広く色々やってるな。
お陰でレイアが居心地よく学校で過ごせているのなら感謝したいくらいだ。
「ユナ姉達もまた直ぐにダンジョンに行っちゃうんだよな?」
「そうだね、あと一つだし。すぐに終わらせるからレイアは学校を楽しんでおいで」
「…なんかいいのかな。みんなは危ない目にあってるのに」
うちらからしたらレイアには安全な場所にいて欲しいっていうのが何よりの願いなんだけどね。
多分そういう事じゃないんだろう。なんて答えたら正解なんだ?
うちは悩んだ末に、こんな時こそ助け舟を出してくれという願いを込めてユリノを見る。
わざとらしく“仕方ないですね”って表情を返してくるのは、少しイラッってする反面頼もしくもある。
「レイアはそんなに私達が頼りないですか?信頼してもらえないのは悲しいです…」
わざとらしく泣き真似するユリノは違和感しかねーな。…悪かったって。心読んで睨むな。
「そういう意味じゃねぇって! オレだってなにかしたいってだけでさ」
「でしたらしっかり学校に行って勉強するのが今のレイアのやるべき事です。リオさんだってミミだって学校にはきちんと行ってますよね?」
「うん…。でも二人だって学校が終わった後や休みの日はダンジョン行ってるやろ?」
「レイアもせっかくできたお友達に力を貸すんじゃないんですか?」
「そうやな。せっかくセーラに色々と教わったし…」
「でしたら次会うときまでに成長した姿を見せてください。我々が頼れるくらい成長した姿を」
「わかった。みんなを守れるようになるよ。絶対にな」
気合を入れているレイアの姿に、少しの不安と寂しさを感じるのは何なんだろうな。
頼れるくらいになってくれたら嬉しいとも思うけど、頼られなくなるのも悲しいっていう、うちの身勝手なわがままなのか、独り立ちされる事への焦燥感か。
それともまた何か想定外の事が起きるんじゃないかっていう怖さなのか。
ダメだな。こんなことを考えていたら本当にフラグになりかねない。
「レイア、ダンジョンでは本当に気をつけるんだよ。いい?絶対に無茶はしないって約束して」
「ああ。心配かけるような事はしねぇよ」
笑顔で答えてくれるレイアが可愛くて思わず抱きしめたくなるけど我慢。離れ辛くなるし。
明日からはレイアも学校だし、二晩も泊めてもらうのは流石に抵抗があったから、お母さんが帰るタイミングでうちらも里を出ることにした。
アリスとアイナは渋っていたし、ゼファーラは滞在してくれていいと優しい言葉をかけてくれたけどな。
レイアも少し寂しそうにはしていたけど、見送ってくれた。
里を出た途端にアリスが愚痴る。
「なんでよ! ギリギリまで傍に居たかったわ…」
「…理由が聞きたい。なんで?」
なんとなく遠慮したっていうのをどう説明したら納得するのか…。
「レイアがダンジョンに行くかもならノーラを帰したい…?その為には時間が必要。ちょうどいい…?」
うちが悩んでたらセーラが助け舟を出してくれた。
「管理者の妾がおればもしももないからな、任せておくといいのじゃ」
確かにカピバラックのダンジョンはノーラが管理するものだし、見守ってくれるというのなら安心ではあるか。
「ノーラ…? ローラとルーラも連れて行って実際にダンジョンの管理をするところ見せてあげて…?」
「わかったのじゃ」
「お手本になるようにね…?無様を晒したら…」
「だ、大丈夫なのじゃ!」
セーラはノーラがサボらないよう幼いドラゴン二人をつけたように聞こえるんだけど気のせいか?
「ユナさん」
心を読んだであろうユリノに肩を掴まれ首を振られる。これは”違うそうじゃない”という意味ではなく、”思っても言うな”って意味だろうな。…わかってるって。
ノーラとちっこいドラゴンのローラ、ルーラと別れ、うちらは次のダンジョンへ向かう。
最後のダンジョンだから気を引き締めないと。
「ユリノ、次のダンジョンに関する情報はなにかあるのかしら?」
「それが…私の知識にも洞窟タイプというものしか無いんです。しかもこのダンジョンだけがそのような状態でして」
「…やっぱり」
「おい、アリス。 やっぱりってどういう意味だ?」
「そのダンジョン、作ったのが始祖様だからよ」
始祖ってつまりアリスとアイナの親みたいな相手だよな?しかも吸血鬼のランクトップにあたる存在…。
「アタシが隠れてたのもそこなのよ。最奥に封印されるようにいれられてしまって、体力が回復するまで絶対に出られない状態にされたの」
「じゃあアリスはダンジョンの中を把握してるのか?」
「してないわ。目覚めたら一階層にある居住区へと飛ばされたもの」
「つまり、吸血鬼の始祖が種の存続のために全力で作り上げたダンジョンという事ですか」
「ええ、ユリノの言うとおりよ」
「問題はそこじゃない…?」
「どういう事だセーラ」
「イリエル神がどうしてそんなダンジョンへ勇者の持ち込んだ物を隠したかってこと…?」
確かに今まではドラゴンが管理するダンジョンばかりだったのに。
「つまり、それくらい厳重に守らなければいけないモノという可能性がありますね」
「魔の国の城の文献にもその頃の情報は殆どないので、封印されているものを予測さえできません」
ユリノ、リシェルもお手上げ。セーラも何かは知らないと。
「アイナは何か知らないか?」
「知らない…。アリスを封じた頃は防戦するしかない状況。生き残った私達も散り散りになった…。そのすぐ後に地上は流れた…」
ああ、ヴィーラが流し去ったってやつだな。そこから漸くイリエル神が直接干渉を始める訳だから…。
「難易度は今までで一番高いと思った方がいい…。多分セーラでも内部の把握は不可能…」
「可能性はあるかも…?」
最後の最後にとんでもないダンジョンだな。
イリエル神もこれがうちらへの試練だとか言ってたけど、まさかこの試練…クリアさせる気がない訳じゃないよな…?




