不安と葛藤
うちらに少し遅れてお母さんもこちらへ来たけど、まさかのドレス姿。
普段なら絶対に嫌がって着ないだろうに…どういう意図があるんだろう。イリエル神から聞いた話に関係するのは間違いないんだろうけど…。
もしくは立場的なもののせいかもしれない。こちらだとお母さんは魔の国のトップ…魔王だし。
この村の責任者でもあるゼファーラとお母さんのやり取りを初めはレイアが仲介していたけど、すぐに本題に突入。
内容はやっぱりうちらも聞かされた魔王の旦那の話。つまりこちらで産まれた“レイア“の父親に当たる人の事。
お母さんとしては記憶さえしてない内容の筈なのに、意外とスラスラと話をしててビックリする。あぁ…恐らくイリエル神が何か干渉したんだろうな。じゃなかったらあのお母さんがお父さん以外の事を旦那として話すなんて有り得ないから。
うちらはお父さんにベタ惚れしているお母さんをよく知っているからこそ違和感がすごい。
シノ姉とリオもそんなお母さんに違和感があるのか、なんだか話を聞いているのもいたたまれなくなって一緒に距離をおいた。
レイアもイリエル神にうちらのそばへと呼ばれて近くに来てくれた。
リオはレイアがこちらの学校で上手くやれているか?と聞いてる。元の世界に連れて帰った時に、女の子になっているレイアを守るため相当頑張ったらしいからな…。
なのに学校を嫌になってたりしたらリオとしてもやるせないんだろう。
だけど、まさかリオがね…。ミミから話を聞いた時にはあり得ないって思ったし。
ミミと二人で学校に掛け合い、元々生徒会が兼任していた風紀活動を生徒会の負担軽減のためとか言う理由をつけて風紀委員という形で別に立ち上げ、正攻法で抑えにかかるとは。
言い出したのもリオらしいからな…。生徒会からも風紀委員の立ち上げは歓迎されて、もうすでに成果も上げて信頼も勝ち取ってるとか。
今まで見えないところでシメてたのをしっかりとした権利を持ってやってるんだから相手も堪らないだろう。下手したら退学とかも普通にありえるわけだし。
リオがそこまでした理由もわかってる。前のように零くんが攫われたりして、女の子になってるのがバレたら何されるかわからない。
なによりイリエル神にもバレないようにとキツく念を押されている。正直、零くんは巻き込まれただけなんだからそっちで対処してくれとは思うけど、連れ帰るのさえなんとか許可をもらっているような状況だからな。
そんな零くん…レイアは自身を鍛える為にセーラの修行を受けるらしい。
元々身体も大きな方ではなく華奢だったけど、今はさらに拍車がかかっているから、本人が自衛できるのならうちらとしても一番安心ではある。
とはいえだ、セーラの修行はそれなりに過酷だし、妹のノーラでさえ逃げ出すくらいなのに大丈夫だろうか。
アイナもレイアのやる気を見たからか素直に許可を出し、アリスも渋々納得。直ぐにレイアはセーラと暗い霧に包まれるようにして消えてしまった。
「レイアちゃんはセーラ様と何処へ!?」
「落ち着けリシェル。戦う力がほしいって言ったからセーラが修行をつけてあげるために連れて行っただけだ」
「そんな…!」
「リシェルは何をそんな心配してるのよ?」
「えっと…その…セーラ様はレイアちゃんの”子種“を狙っていまして…」
は…?おい、どういう事だよ。セーラもレイアを大切に思ってるのはわかってたけど、そういう意味なのか! いや、でも零くんの姿ならわかるけど、今はレイアで女の子だぞ?
「まさかあいつ! アイナ姉様、どう思う?」
「性転換魔法…あいつも使えるのか…」
「も…ってアイナ姉様も?」
「当たり前…。世の中にある魔法はあらかた使える…」
いやいや…。じゃあなにか?セーラはレイアを鍛えるとか言うのは口実で、うちらに邪魔されないところでレイアを男の子に戻して零くんと!?
「大丈夫じゃ。セーラ姉様もさすがにこの状況で抜け駆けしてその様な事をしたりはせんじゃろ」
「ええ。レイアの想いを無視するような事はしないはずよ」
妹でもある二人のドラゴンがそう言ってるけどどうなんだ?正直、セーラは言葉数も少ないし何を考えてるのか読めない部分も多い。レイアを大切に思ってるのはわかってたけど、母性のような庇護対象みたいなものかと…。
「皆様を自身のダンジョンへ送っていたスキに手を出そうとしていたのです! 私がいなかったら…」
「アンタが止めたの?」
「止めたというか…えーっと…」
「ちょっとリシェル?アンタまさか…自分の妹に手を出そうとしたの!?」
「リオだって同じでしょう!?私だけを責めるのはおかしいと思います!」
あーもう。めちゃくちゃだ…。うちも人を責められる立場ではないけど、セーラ…嘘だよな?
「主殿を助けなければ!」
「助けるっていってもレイアちゃんはどこにいるんです?」
「それは…」
「ミミの言うとおりです。我々ではあの二人がどこにいるのかさえ…」
「ユリノはそうやって諦めるの?アタシは嫌よ! 一人抜け駆けさせるなんて! そういうのはみんなで…」
みんなって…アリスもめちゃくちゃ言うな。
「みんな落ち着いて〜…。私は信じていいと思うわよ〜…?」
「でもシノ姉! 何を根拠に…」
「勘よ〜」
はぁ…。
「シノ姉の勘は当たるからな。うちも信じるよ」
「ユナさん本気ですか!?」
「レイアが強くなりたいって言ってたのをセーラは無下にしないだろ」
多少独り占めしてイチャイチャしようとかくらいは考えてそうだけど、多分うちら全員二人きりとかになれたら同じこと考えるだろうし、それくらいはもう諦めるしかない。
「…確かにレイアと二人きりになれたら皆さんどうします?」
「だからさー、ユリノはうちの心読むなって」
「はぁもう…わかったわよ! でもアリサの口から聞いて、手を出してたら流石に制裁するわよ?」
「…同意。その時はただでは済まさない…」
「大丈夫じゃろうて。妾達はセーラ姉様とレイアを信じて待っとればいいんじゃ」
「そうね。あーあたしもはやく人化覚えないとダメね」
「妾を差し置いて許さんのじゃ!」
リシェルとシャロンは納得してない様子だし、リオとミミも不安そう。
唯一涼しい顔をしてるシノ姉。その姿を見てるとうちも落ち着いてきた。シノ姉の勘は当たるからな。それこそ運がいいのと同じくらいに。




