複雑な胸の内
目的の場所へと到着はしたけれど、まだ早すぎるからとイリエル神に止められて村へと入れない。
「早く会わせなさいよ!」
「…そうだそうだ」
「到着が早すぎるの! 本当にどんな速度で移動してるの!」
アリスとアイナに関しては文字通り飛ぶ勢いだな。うちらも地上を追いかけてついてきたけど。
「まだあの子も起きたばかりなの! 仕度するくらいの時間はあげて」
「仕方ないわね。アタシ達に会えるのだから早起きして待っててくれればいいのに」
「レイアは別に寝起きが悪いわけでもないですし、我々の到着時間が早すぎるだけです」
ユリノの言うとおり、実際にまだ七時を少し過ぎたばかり。いくらなんでも客として入るには早すぎるのも確かだ。せめて八時くらいまでは待つべきだな。
「私はお母さん呼んでくるよ」
「リオ、待ちなさい。マノなら魔王城で待機させてるから大丈夫。誰よりも早かったから」
お母さんも待ちきれなかったんだな。うちらと違って本当に久しぶりだし無理もないか。
「マノにはちょっと知識をつけてもらってるから、終わり次第私が連れてくるよ」
「知識?」
「そう。マノはゲーム側で魔王という立場になったけど、リンクしていたこちらの魔王と同化したようなものなのに、魔王としての知識は何もないからね。今回はそれでは不味いことがあるから」
どういう事かイリエル神に詳しい話を聞かせてもらったけど、確かに知らないままでは不味い。
「お母様の二人目の旦那様ですね」
「そうか、リシェルは直接会ってるんだな」
「ええ。お母様が奴隷開放をされたのも朧げには覚えています。凄まじい剣幕でしたから…。保護した奴隷の方々の中には今でも城で働いている人もいますし、街で暮らしている人も」
お母さんじゃない頃の魔王も人情に厚かったんだろうか。むしろ似たような人だったからこそ同化した可能性もあるのかも。血の繋がりはあるわけだしな。
「話したゼファーラという子も旦那の忘れ形見のレイアちゃんを自分の娘のように大切にしてくれてるいい子なの。だから礼儀正しくするんだよ。特にアリスとアイナ。いいね?」
「わかってるわよ! あの子を保護してくれている相手にケンカ売るような真似しないわ」
「…保護者なら安心。大丈夫」
ライバルにならないのならアリスとアイナも喧嘩腰にはならないだろうからな。
「ユナさんは随分と落ち着いてますね」
「そう言うユリノもだろ」
「ええまぁ…。以前のようにレイアと二人でいられた頃が懐かしくはありますが、今の状況も悪くないと思えるようになりましたし」
「うちもだ」
ここにいる誰か一人でもかけていたらレイアとの再会も出来なかっだろうし、連れて帰るための手段も達成できない。
何人かは出会ったせいでレイアと離れ離れになる原因になったやつもいるけど、今は協力し合う仲間だ。
まさかうちがこんな考え方をするようになるなんて少し前からは考えられないな…。
多分あのころは必死過ぎて何も周りが見えてなかったんだろうと思う。
世間体や零君が身近すぎる故の壁とか…。最近はそういった物が些細に思えるくらい色々ありすぎたし、今はもうそういった障害もなくなっている。
その分ライバルも増えたけど、みんなの気持ちもわかるようになったせいで我を通す訳にもいかなくなった。
「そろそろいいわよね?」
「んー、まぁレイアちゃんもそろそろ用意できるだろうから伝えてくるよ。もう少しだけ待ってて。出迎えるようにしてあげるから」
「早く…!」
ヤレヤレといった様子で消えていったイリエル神は数分で戻ってきて、村への入り方を教えてくれた。
「手に入れた玉を先頭の子が手に持って」
「これね〜…どっちでもいいのかしら〜」
「好きな方でいいよ。他の手続きはしてあるからそのまま進めば村に入れるから」
見渡しても相変わらず大きな紅葉の葉をつける木々しかない森だけど、どうなってるんだ?
「エルフの結界ですよ。外からは見えないんです」
「ユリノも使えるのか?その結界ってやつ」
「無理ですね。レイアならエルフの血を引いているのであるいは…といったところでしょうか」
レイアは魔族とエルフのハーフだからか。
うちとユリノはみんなの後ろ、一番最後尾を歩いて村へと入った。
なんとなくそんな気分だったから…。
しばらく歩いたら何か一瞬違和感を感じ、景色が一変。
紅葉の木は同じようにあるけれど、土地は広く開けているし、田んぼや畑、建物なんかも木の根本にある。
出迎えてくれたレイアはいつもと変わらない様子でホッとした。そんなレイアの隣にいるのが例の話にあったエルフのゼファーラという人だろう。
挨拶もそこそこにアリスとアイナ、シャロンはレイアに絡むし、ドラゴンは言い合いを始めるし、もうめちゃくちゃ…。
高難度のダンジョンを共に攻略していた時にはあんなに頼れる相手だったのに。レイアもゼファーラって人も困ってるから程々にしとけよ。
元気そうな姿を見れただけでホッとしているうちは、ユリノと一緒に騒がしいみんなを一番後ろから他人事のように眺めていた。
一歩踏み出してあの騒がしい中へと入れないのはやっぱりまだ後悔や後ろめたさがあるのかもしれない。
そんなことを考えていたらレイアの方からこちらへと寄って来てくれた。とてとてと歩く姿は可愛らしい。うちの弟…今は妹になるのか。可愛すぎない?
「ユナ姉とユリノ姉は並んでると双子みたいやな。なんで二人はそんな離れてるんだよ」
「私はユナさんに付き合っていただけですよ」
「そっか! ゼファーラさんを紹介したいから二人ともこっちに来てくれ」
「ええ。 行きますよユナさん」
「ああ」
悩んでいるうちをいつも迎えに来てくれて、引っ張ってくれるのは零くんだけなんだよね。あの時も、そして今も…。




