諦めの境地
突然会いに来てくれた姉達は、朝にはまた出掛けてしまった。
あれは出かけたっつーか、イリエル様に強制的に連れて行かれた…と言ったほうが正確かもやけど。
週末にはまた会えるからいいんやけど、慌ただしかったな。
姉たちを見送ったあと、今日も学校へ行く準備をしてアヤさんと屋敷を出た。
途中で楓花と茉莉花も合流。
「おはよ、二人とも」
「おはようレイアちゃん。 って…茉莉花姉様?僕の影に隠れてどうしたんですか?」
「なんでもない。気にすんな」
茉莉花からはなんとも言い難い物を押し付けられたけど、本人にとっては良いものだったらしいし…お礼くらい言わないとな。今はお返しに渡せるようなものもないから申し訳ないけど。
「茉莉花、昨日はありがとな。アレって取るのが大変なものだったりしたんやろ?」
「受け取ってくれたのか!? そうだ! ダンジョンで倒して取ってきたんだぞ。お前のためにな」
「茉莉花姉様!? いつの間にそんな事を…」
「いいだろ別に。強さの証明だからな」
すっげードヤ顔の茉莉花はようやく楓花の影に隠れるのをやめたらしい。
一応ユリノ姉から、昨日貰ったものの価値や、倒すための難易度を聞いたんやけど、正直よくわかんねぇんだよな。
だって、姉達なら片手であしらえる様な敵だって言われたし…。
ユリノ姉なんて、”この敵でしたらデコピンでいけます”とか言ってたしやな。うちの姉達が強いのは理解してるけど、具体的にどれくらい強いのかってのがそもそもわかんねぇんだよ。
比較対象になる他人もいないから余計にかも。わかったのなんて茉莉花が姉達にとって片手であしらえる程度の相手って事くらいか。
話していて機嫌の良くなった茉莉花と対象的に、不機嫌になった楓花。
忙しい姉妹やな?
校門でアヤさんと別れ、校舎へと向かう。
「レイア、学校では俺が守ってやる。だから傍にいろ。いいな?」
茉莉花はそう言うとオレの右腕を掴み、自身の左腕へと掴まらせた。ハタから見たら恋人が腕を組んで歩いてると見られかねない姿だろこれ…。振りほどこうにも結構力強いのは厄介だ。
無理矢理暴れれば何とかなるやろうけど、こんな事で怪我させるのもなぁ。しかも本人は嬉しそうにしてるから罪悪感が…。
「茉莉花姉様!」
「なんだよ?聞いたぞ楓花。お前はレイアを守れず、近くにいたのに攫われたんだろ」
「それは…! でもギリギリで助けたし!」
オレの空いている方の腕に今度は楓花が掴まってきて、もう意味がわかんねぇ…。
「なぁ、普通に歩きたいんやけど…」
「また攫われたいのか?俺の傍にいるだけで防げるんだぞ?」
「それは助かるけどさ」
またあんなトラブルは困る。原因となったミヌエットとリンの二人とはもう友達だからいいけど、他のやつにまた同じ事をされるのはいややし。また仲良くなれる相手とも限らないからな。
まあいいか…。流石に教室に行ったら離してくれるやろ。
茉莉花といると校舎内でも人が避けてくれるのはいいのか悪いのか。
唯一理解したのは、他に友達を作るのは無理だろうなっていう諦め。
校舎内で明らかに避けられてれば、いくら察しの悪いオレでもそれくらいは理解する。
茉莉花は教室までついてきて、オレの前の席へと座った。
教室同じなのか?歳上なのに…。でも昨日も教室の後ろで座り込んでても先生に怒られてはなかったな。留年してるとか…?
「そこ、別の子の席だからな」
「いいだろ別に。ここにいた奴は元々の俺の席へ座ればいいんだからな」
「なぁ、茉莉花。それ、ちゃんと席の主に言ったほうがいいぞ。その方が堂々と座れるだろ」
「細けーなぁ。わぁったよ。 おい、ここの席のやつ! 俺と変われ。いいよな?」
「は、はい……どうぞ…」
気の弱そうな女子がビクビクしながら返事してて可哀想になる。
「言い方気をつけろって。茉莉花の勝手で変わってもらうんだろ」
「ちっ…仕方ねぇな…。 悪いな、俺はレイアと離れくねぇんだ。頼む、代わってくれ」
「だ、大丈夫です…。でも…その…」
「なんだぁ?」
「ひっ…」
「やめろって。茉莉花はあんな素材を取ってこれるくらい強いんだろ?だったらヨユー見せて優しい方がカッコイイとオレは思うぞ?」
「そ、そうか? 確かにそうだな。俺は強えからな!」
「ごめんな。茉莉花も悪いやつじゃねぇから。 それで何言おうとしてたんだ?」
「えっと…私の荷物が机にあるので…」
「わりぃわりぃ。俺も自分の机に入れっぱだったわ」
茉莉花が立ち上がって教科書を取りに行ったスキに、女子生徒は慌てて机の中のものをまとめて、オレに頭を下げて去っていった。
「うそ…。あの茉莉花姉様が…」
「そういや楓花、気になったんやけど、茉莉花って楓花の姉なら年上だろ?クラス同じなのか?」
「え?ああ…、うん。この学校は基本三年間通うんだけど、一年毎に授業内容がかわって、いつ入学しても三年で全部の授業を受けられるようになってるんだよ。説明にちゃんと書いて…ってレイアちゃんは読んでないか」
つまり、生徒が多くないから年齢で分けるより一年毎にカリキュラムが組まれてるのか。
今年がAのカリキュラム、来年はB…みたいに三年いればいつ入学してもAからCまですべての課程を受けられる。
茉莉花が同じクラスなのも納得だな。編入したオレらには学んでない部分もあるけど仕方ねぇか。
「なんだよ、レイアは俺と同じクラスで不満か?」
戻ってきた茉莉花は少し膨れてそんなセリフ。
「いや。せっかく仲良くなったから同じクラスで嬉しいぞ。単に疑問だっただけ」
「そうかそうか! 嬉しいか…ふふっ…」
「母上や翠花姉様でも手に負えな茉莉花姉様が素直とか…怖っ」
「うるせぇよ楓花。惚れた相手には素直だぜ、俺は」
はにかむ様に笑う茉莉花からは昨日みたいな威圧感もない。普通に可愛いなコイツ。
「レイア様、おはようございます」
「おはようなのぉ〜」
「ミヌエット、リン! おはよ。昨日はありがとな」
「とんでもありません。また遊びに来てくださいね」
「おう」
「なんだよ…。他の女の家に遊びに行ってやがったのか…?」
「楓花も一緒にな。学校帰りに友達の家によるとか学生っぽくて楽しかったぜ」
途中から姉達まで押しかけて迷惑かけちまったけどな。
「まぁそれなら…。 なあ、レイア。今日は俺と遊びに行こうぜ!」
「いいけど、どこにだよ?遊べるところとかあんのか?」
「ダンジョンだ! 楽しいぜ? あ、でもお前、ギルドタグ持ってねぇよな…。じゃあ先にギルド行かねぇとだな」
「レイアちゃん、持ってるよ。しかも茉莉花姉様よりランクも上だった」
「は…? 嘘だよな?」
「ランクだけならBだけど、姉達についていったおかげだからな。オレ自身の力じゃねぇよ」
「Bってお前…。仮についていったからってそのランクだと相応の力がなきゃ足手まといになって周りが苦労するんだぞ。つまり、お前は相応の力を持ってんだよ。それか…仲間がとんでもなく強いかだな」
姉達だからなぁ。オレの弱さなんてフォローしてくれてたんやろうな。
「僕も行くから!」
「それならわたくしもぜひお供させてください。リンも行きましょう」
「はぁい〜!」
「遊びじゃねぇんだぞ! 姫さんの道楽で付いてこられても迷惑だ! 楓花もな」
「茉莉花、お前…。遊びに行くって言ったじゃねぇか。どっちだよ…」
「うぐっ…」
「みんなで行こうぜ?何かあってもオレが回復できるから任せてくれ」
「レイア、お前回復魔法の使い手なのか!?」
「まぁな。その分戦闘は弓くらいしか使えねぇけど」
「最高じゃねぇか! よし、お前らは俺が面倒見てやる! 行こうぜ!」
「ああ。楽しみだな!」
学校帰りにゲーセンみたいな感覚でダンジョンへ行くってのも悪くねぇよな。こっちならではって感じで。




