17生徒会お茶会(15)
「別につっかかってないけどね」
古川の表情は妙に冷ややかだった。乙彦の言葉などどこ吹く風とばかりにそっぽを向いた。
「ずいぶん口裏合ってるなあと感心しただけよ。でもまあいっか。そういうこともあるよね。人生いろいろあるし。んで、ちょっと、黙ってる新井林、どうしたのあんた。あんたの彼女のことでごたごたしているんだけどなにか言うことないの」
次の矛先は新井林に向いた。乙彦も疑問を消せずにいるのは確かで、本来であればもっと激情の嵐となるはずなのにおとなしすぎる。水を向けるのは正解だ。
「俺は、なにもありません」
顔をぐいと挙げ、一巡りさせて答える新井林。
「なにか言えない事情でもあるのかなと思っただけよ。あんたがいいんだったらそれでいい。いつかしゃべってくれればいいよ。それで最後に、悪いんだけどずっと黙ったまんまの佐賀さん、ここは辛いだろうけどあんたがこの面子の前で釈明する必要あるよ」
清坂が古川の腕をつかみ、
「こずえ、もうやめようよ。ちゃんと私も考えてるんだから!」
止めるのを振り切った。
「今日の話は、さっき難波も言ってたけど、全部無礼講だってのはわかってるよね。この店を出たら私たちは何にも言わない。聞かなかったことにする。今まで情報が大量に流れてきてたけど真実は一点に絞られているってこと」
「なんだその一点とは」
今まで口を挟まなかった名倉がいきなり問う。みなどよめいた。古川も虚を突かれた顔をしていたが、すぐに体勢立て直し、
「悪いのはみんな霧島であって、その他の人はみんな無実。佐賀さんは杉本さんに小さい頃からいじめられてて、新井林が守ってくれていた。学校側もそれを見抜いていて全力で佐賀さんを守ってくれた。ところが杉本さんに悪口吹き込まれた霧島がなにとちくるったか婦女暴行すれすれのことをやらかそうとした。学校側もそれに気がついて守りたかったんだけどこればかりは杉本さんの時のようにうまくいかない。なぜならば」
指をぴんと立てた。
「霧島も、青大附属では守られなくてはならない存在だからよ。名倉は外部生だからそこらへん謎かもしれないけどあとで彰子ちゃんや関崎に聞いてちょうだい。キリオくんは成績がいいだけじゃなくて、上のお姉ちゃんのことでいろいろとばっちり食ってて、ここで多少悪さしたからといってかんたんにぽいできる訳じゃないの。あれがねえ、もし立村だったら簡単だったよ。学校側はなにか理由をくっつけて退学させてたね。後ろ楯なんて何もないから。けどキリオくんは別なんだ。私たちには把握しきれない学校側の事情で、ホールドされちゃってるんだよねえ」
「待て、もし俺が名倉に聞かれてもなにも説明できないぞ」
さすがにこれは推論だろう。乙彦はあえて割り込んだ。さらに質問を投げ掛けるつもりだったが、今度は雅弘に首を振られた。しかたない、あいつもなにか考えがあるのだろう。
「必要だったら私んとこでレクチャーするよ。どちらにしても佐賀さん、霧島がくっついてくるのいやでしょ? うつむいてるってことはいやだってことと解釈していいのかな。本当はありもしないこと噂撒き散らされた奴と同じ学校の空気なんて吸いたくないよ。だから、この機会に高校の生徒会へ、先んじて自分を守ってもらうよう手を回したってことじゃあないのかなあ。新井林、あんたそれが目的でしょ?」
新井林が立ち上がり深々と頭を下げた。特に深かったのは清坂に対してだった。
「古川先輩、すいません」
「いいよいいよ、あんたがさ、そこまでなんも言わないってことは、そういう事情があるんでないかと思ったからだからね。あんたはこれ以上なんも言わないで黙ってな。それで私が用あるのは、佐川、あんたになんだけど」
またしつこく雅弘にからむ古川。乙彦も改めて気合いを入れ直す。
「その方法を吹き込んだのもあんたじゃないの? それで水野さんと相談して提案したってんじゃないの。佐賀さんは悪くない、だから青大附高の生徒会メインでどうか守ってやってください。学校側も応援してますよって。ついでに言うと悪の根元だった杉本さんもいなくなるし、キリオくんは一年入学するのがずれるし、そのくらいのタイムラグがあれば余裕で万里の長城こしらえられるじゃん。キリオくんの兄貴分が立村ならさほどびびることもないし、向こうさんには徹底して日陰にいてもらえればいいよね、ってそんなからくりじゃないの」
誰も口を挟もうとしない。古川は続けた。
「ただ、いかんせん、同じことを霧島も考えていたみたいで、先手を取って生徒会側にあいつの言う真実を暴露しようとした。けど、残念ながら立村に阻止された。ってことでおめでとうございます、真実決定って話。これでまんざら間違ってるとは思わないんだけど、さあ青大附属のシャーロック・ほーむず殿、いかが?」
「おおむね正しい」
それまで黙って聞いていた難波がひとりこっくり頷いて古川に親指を立ててみせた。




