17生徒会お茶会(12)
古川の前に置かれたコップに水が注がれた。一口飲んでから、
「じゃあ佐川くんとやら、私、美里の友達だってことしか知らないよね」
「ううん知ってるよ。俺、おとひっちゃんからいろいろ聞かされてるし」
━━いきなり俺の名前を出すのか雅弘!
全員の視線が乙彦に集まるも、悪いことをしているわけではないので立ち上がり説明する。
「古川、悪かった。雅弘にはうちの学校の話をそれなりにする機会があるんだ。それで多少は名前がでたかもしれない。雅弘、そういういうことだろ?」
「うん、そうだよ。おとひっちゃん言ってたじゃないか。高校に入学して学校で倒れた時、クラスのみんながお見舞いに来てくれたことあったって。その時に女子がひとり、すっごい写真集おいてったって」
全員、一瞬静まり返ったあとに大爆笑が沸き起こった。たしかにそういうことはあった。
「その時古川さんって人がその手に詳しくて、毎朝必ずふっかけられるってぐちってたじゃないか。だから今日会った時、ああこの人なんだ、おとひっちゃんを毎朝からかってる人はって」
雅弘はあっけらかんと述べた。古川も両手を打って全身で笑いこけた後、
「そっかあ、よっくわかった。私たちの深い関係はもうばればれなんだねえ、関崎も口が軽いねえ」
茶化しに入った。難波と更科がなるほどと頷いているのだけが気になるが、古川の喋りに任せることにした。
「じゃあ枕はこのくらいにしてなんだけど、ちょいと佐川、もう呼び捨てにさせてもらうよ。関崎だって呼び捨てにしてるんだからさ」
「いいよ、おとひっちゃんと同じなら本望だもん」
愛想よくそれでもどこか緊張感が走る。
「まずねえ、単刀直入に言っちゃうけど、佐川と佐賀さんができてるって噂、それなしってことで間違いないの? ぶっちゃけ、やったの?」
やはりこの人でないと絶対に言えない一声がとんだ。同時に乙彦と清坂も叫んでいた。
「古川!」
「こずえ!」
古川の表情は変わらずにやにやしたままだった。
「関崎も美里もそうかっかしなさんな。結局、焦点ったらそこじゃんねえ。それ張本人の佐川、あんたから違うって言ってくれればまんまるく収まるよ、そこんとこどうなの」
雅弘も最初どんぐり眼をまんまるにしていたが、ぶんぶん首を振った。
「やってないよ。やってるわけないよ。だって、俺には、ええと、その」
ふうっと顔を赤らめるようにしてうつむく水野さんに雅弘は目を向けて、
「さっきたんがいるしさ。そんなのないよ。あたりまえじゃないか」
ちょっと恥ずかしかったのか雅弘も横向きに呟いた。
「そうかあ、そうだよね。佐川の彼女が可南の生徒会長さんってことは美里からも聞いてたけど、恋人宣言しちゃっていいってことだよね」
「みんな、それ知ってることだよ。あの、おとひっちゃんからそのことも聞いてない?」
雅弘は再度乙彦のいるほうをみやる。まるで乙彦が雅弘情報の放送局と勘違いしているようなので、これは訂正しておく。
「雅弘、俺がそんなに口が軽いと思っているのか」
「あ、そうだよね。ごめんごめん」
また和やかに笑いが広がる。なぜか雅弘と乙彦のやりとりに入るとみななごむ。さっきまで霧島が場を占拠していた時とは大違いだ。目の前でも泉州と阿木がけらけら笑いこけているのを見ると、乙彦は自分が漫才のぼけにされているような感覚に捕らわれる。
シビアに戻すのはやはり古川だった。ちゃんと空気を和やかにしつつも、聞くべきことはしっかり聞こうとする。
「じゃあもうひとつなんだけどさ、霧島が言ってたことなんだけど、佐賀さんといちゃついていたって話はどこまでほんとなわけ? 入れてなくてももんでるってことはある?」
最初、言われていることがわからなかった。これも一瞬静まり返る。今度は羽飛がのんびりと声をかけた。
「古川よ、お前さんの高度なスケベトークは伝わりにくかったみたいなんで俺が通訳しとく。つまり、やってねえってことはわかったけど、んじゃあ、霧島の言った話、つまり、いちゃついてたってことも嘘と解釈していいんだな?」
雅弘は即答した。
「当たり前だよ。健吾くんいる人にそんなことできるわけないよ。誤解招くことしたかもなって、すぐに健吾くんに連絡して事情説明したもん」
新井林も頷いた。この場では珍しく存在感を消している。
「佐川さんのおっしゃる通りです。いや、まじ、びっくりして、なんだこれって思ったんです」
佐賀はるみはうつむいたままだった。新井林は目を向けようとしない。
「じゃあ、なんで会ってたの」
「俺に佐賀さんが相談したことがあったからなんだけど、内容はごめん、言えない。すっごく個人的なことだから。それに今度のこととは全く関係ないことなんだよ。ああそうだ、解決もその場でしちゃってる」
「新井林に内緒で? それってやばくない? 新井林、あんた嫌じゃないわけ? あんたの彼女が、他の高校の奴に悩みごと相談しに来たってこと聞かされてさ」
新井林は顔を赤らめたまま膝をつかんだ。珍しい。新井林の性格は乙彦もよく知っているつもりだった。裏表のない正義感の強いある意味乙彦と通じるところがある奴だ。それがなにもじもじしているのだろう。
「勘弁してください。全部、俺が悪い。俺のことではるみ、いや、佐賀が悩んでいたのを佐川さんが取り持ってくれたっていう、それだけです。理由は、すいません、勘弁してください」
頭を清坂に向けて深々と下げた。他の連中ではなかった。




